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完全無欠の第三王女と最強剣士は結婚したいがしたくない  作者: 斉藤りた


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16.討伐講座と二人の背中

あっけにとられた顔でどんどん小さくなるイヴェリンの背中を見つめるアダムス。


「だっ・・・はぁ?!ど、どこに・・・!おい!イヴェリン!」


叫んでみるが、口を封じられたグリズリーレオンの唸り声や斬りかかる団員たちの声でかき消される。

何より、すでにもうかなりの距離がある。今から追いかければ・・・


「団長!コイツ固すぎて刃こぼれするんですけど?!」


「グリズリーレオンって高値になりますよね?!爪も切り落とさない方がいいですか?!」


矢継ぎ早に飛んでくる声が追いかけようとした足を捕まえて、追いかける一歩が踏み出せない。


「・・・っ!だ~っ!くそっ!カリナっ!」


「はいさっ!どうしましたっ?!」


グリズリーレオンを丸焼きにしようと両手から火の玉を出して他の団員に止められていたカリナがアダムスの目の前に駆け付ける。


「お前の上官がどっか行ってるんだ!追いかけて、余計な事しそうなら止めて来い!こっちが片付いたらすぐに追いかける!」


「了解です!イヴェリン様は~・・・あれですね!行ってきます!」


小さくなった白金の姿を見つけると、すぐさま走り出した。

カリナが付いているなら、何かしでかそうとしても止めてくれるだろう。

多少良くない事はするかもしれないが、イヴェリンの事だ。

何か悪だくみをしているのかもしれない。いや、多分、間違いなくそうだ。


とりあえず、目の前のこいつらを倒してから、自分もすぐに追いかけよう。


「は~っはっはっは!剣士フェルザードの最初の獲物になれる幸運、しかと噛みしめよ!」


「うわっ!あぶねっ!反動で剣がこっちに来るんだから離れてくださいよ!」


「貴様!いち兵士がフェルザード様に何という物言いだ!」


「ちょっとホルマドさん、何もしないならどいててくださいって!」


グリズリーレオンの体毛に剣を弾かれて騒いでいる部下たちの元に、大剣を抜きながら近づいて行った。






「だからな、まず首を切り落とすんだ。そうすれば、切り口からナイフで皮をはぎ取れるだろ?」


「だんちょー、その切り落とすのが無理だからどうしたらいいのかって話をしてるんですよ。」


グリズリーレオンの生首を前に、アダムスの説明を聞いたオリヴァンがツッコミを入れている。

まだ四匹残っているが、一番大きな二匹の個体は既に倒してしまった。アダムスが。


毛が固すぎて剣が通らないからどうしたらいいのかと言っていたのに、グリズリーレオンの身体に足をかけ、三階建てほどの高さを飛び上がり、一太刀で千年の大木を思わせる首を落としてしまったのだ。

こうすればいい!と着地したアダムスに得意顔をされた面々は、困惑した表情で生首と我らが第一魔法騎士団長を見比べている。


「切ろう!と思えば切れるだろう?」


「切れませんって。そういう話じゃなくて、もっと細かい技術とかコツとか、そういうのを聞いてたんすよ。」


呆れた顔のオリヴァンと、何とか自分なりの説明をしようと四苦八苦するアダムス。

魔物相手に初めてその強さを目の当たりにしたホルマドとフェルザードが、小さく声を交わしている。


「こ・・・これほどまでとは・・・。この魔物はSランクと言っておりましたし、おそらくサンドワームと同等、いや、危険度からすると巨神蠍(コロッサルスコル)ほどはありそうな・・・」


「師匠は・・・本当に強いのだな。わが国の魔術師が束になっても勝てるだろうか?妃が言っていた世界一強い剣士というのも、偽りでは無さそうだ。」


「そうですな。おそらくSランクをこんなに簡単に倒せる者など聞いた事がありません。・・・ここでフェルザード様との縁が出来た事は僥倖と言えましょう。」


「うむ、願わくば、師匠にも我が国に来て軍を鍛えて欲しいものだが・・・。」


流石に国の防衛力の要と呼べる一団の長じゃ難しいだろう、とホルマドが返事をしようとした時、オリヴァンの声がそれを止めた。


「わかった!こうっすね?!」


倒れたグリズリーレオンの首のない身体に近付くと、腰から二本の細身の剣を抜き、両手で構える。


「あれ?お前結局両手剣に戻したのか?」


「はい、折れたし諦めようかと思ったんですけど、イヴェリン様が前のと同じやつ作ってくれたんで。」


細身の剣を両手で持ち乱舞するスタイルのオリヴァンにとって、両手に感じる重さや長さ、しなり具合や手に伝わる感触など少しでも違うと気がそ削がれてその剣技自体使う気になれないのだと言う。

二本のうちの一本が折れてしまってからは通常の剣技にしていたが、イヴェリンからプレゼントされた時は思わず無言になるほど喜んでいましたよ、というのは後日カリナから聞いた話だ。


ヒュンヒュンヒュンヒュン・・・


両手に握られた細い剣が、刃が見えなくなるほどのスピードで鞭のようにしなりながらオリヴァンの身体の周りにキラキラと陽の光を反射させる。

生きている相手ならば目くらましにもなるこの予備動作は、王都城下の独身女性たちに人気の剣舞でもある。


「お~久々に見たな。やっぱり良いなぁ、それ。俺には出来ねぇもんな~。」


「団長の方が凄いんですけどね・・・っと!」


パシュパシュパシュ!


素早く繰り出された斬撃が、グリズリーレオンの肩にひとつ、ふたつ、みっつと小さな傷を付ける。

固い鉄で出来ているような体毛の隙間から、まだ生温かい血が流れ落ちて来た。


「すっ・・・すげえ!オリヴァンさん、どうやったんですか?!」


「おいおいオリヴァンよ、お前さんまで団長みたいになって来たんじゃねぇの~?」


「げっ、やめろって。俺まだ人間だしぃ。」


「俺も人間だが?まぁ今のやり方で合ってるぞ。体毛が固い場合、大体皮膚はそれほど固くないんだ。毛の流れと逆向きに剣を入れれば皮膚に刃が届くから、そのまま切ってしまえばいい。」


「最初っからそう言ってくれればいいのに~。って言っても首は落とせませんけどね?」


「そう説明してただろ?」


「・・・してませんて・・・。」


オリヴァンの説明を聞いた団員たちが、それぞれ手に持った剣の角度をクルクルと変えて試している。

フェルザードも同様に剣をグリズリーレオンの体毛に添わせるように持ち、バシュ、と血飛沫を上げた。


「出来た!出来たぞ師匠!」


「オレも出来ました!」


「そうだ、じゃあ残りの四匹も手伝ってこい。他の奴らにも、教えてやれよ。」


「はいっ!」


元気よく駆けていく団員とフェルザード、そしてそれを追いかけるホルマドと、後ろに控えていたらしい護衛の男性たちも、いつの間にか剣を手に走って行く。

すると、その場に留まり動かないオリヴァンに気が付いた。


「お前は行かないのか?」


「ん~まあ人数は十分だし、殺り方はわかったんでもういいかな~って。それに・・・」


「?」


「イヴェリン様の事が気になってるんでしょ?行っていいっすよ。ここは俺が見てますんで。」


「・・・!悪いな。すぐ連絡するから、後片付けは頼んだ。」


猛スピードで走り出した背中に投げた言葉は、グリズリーレオンの体毛のように弾かれてアダムスの耳には届かなかった。


「なんでそんなに気になるのか、考えてみたらいいのにぃ。」

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