14.支持を得るのは
「グリズリーレオンなんて、南部ならっ・・・放っておいてもっ、いいんじゃないかっ?!」
アダムスが右に大きく引いた剣を水平に振ると、四匹のコボルトの頭が一気に飛んだ。
「一応Sランクなんだからっ!倒しとかなきゃ・・・でしょっ?!」
イヴェリンが身体を沈み込ませ背後から飛びかかってきたコボルトを躱わすと、そのまま地面に手を付いた。
一秒も経たずにイヴェリンが立っている場所を中心に半径十メートルほどが沼のようになり、周囲にいたコボルト十数匹がズブズブと沈み込んだ。
コボルトとは群れで行動する犬の魔物だ。
魔法は使えないが連携の取れた集団攻撃を仕掛けてくるため、単独ならCランクだが十匹以上の群れになるとAランクに認定される。
そのコボルトの集団と第一魔法騎士団は、今まさに戦闘中だ。
と言ってもアダムスとイヴェリンが数を減らし、他の団員達は二人が逃したり動けなくしたコボルトを仕留めているだけだが。
アダムスの言っていた南部とは、王都から見て南に位置する荒野の事である。
疎らに木立や岩場が点在するものの、見渡せば大半は彩りに乏しい場所だ。
希少な宝石が採掘されることはあるが、自然豊かなルクレイン王国においては不人気な地でもある。
特に今いる街道周辺は、宝石を掘り当てて一獲千金を夢見る若者が訪れる程度で、付近に人の住む集落なども存在しない。
そのため魔物が目撃されても対応は後回しにされがちで、今回のようにSランクの魔物が出現しても第一魔法騎士団が討伐に出向くことはほとんどない。
「まぁそろそろフェルザードに実戦も経験させときたかったし良いけどよ・・・っと!まぁこれじゃ無理だな!」
右眼を狙って飛んできた弓矢を軽くキャッチすると、矢が飛んできた木々の群生地に向かって投げた。
矢を放った先で「ギャッ!」と小さい悲鳴が上がり、その声の元に一人の団員が音もなく走って行く。
「フェルザード、顔を出すな!狙いはお前だ!」
馬車から顔を出そうとした一国の王子を呼び捨てにすると、残っていた最後のコボルトを二匹まとめて正面から突き刺した。
愛用の大剣を息絶えたコボルトから抜くと、勢いよく振って血を飛ばし鞘にしまう。
ふう、と一息つくと、報告を受けたオリヴァンがアダムスとイヴェリンに近付いてきた。
「団長、イヴェリン様、お疲れ様です。」
「コボルトの群れと暗殺者が一緒に来るなんてな・・・。いや、コボルトと戦ってる隙を狙ったのか?」
「違うと思うわよ?コボルトにしちゃ群れの数が多かったもの。多分、テイマー・・・でしょ?オリヴァン。」
「ですね。捕らえた奴は自害しないよう気を失わせてますが、身体に彫ってある魔術式が前に見た事あるテイマーの魔力増幅回路と同じなんで、間違いないと思います。念のため、今ホルマドさんが確認しに行ってます。」
「ていま?なんだそれ。」
「えぇ?だんちょー知らないんすか?」
オリヴァンがニヤニヤした顔をしたからか、アダムスがムッとした表情になる。
まったく、と声には出さずにイヴェリンが説明を始めた。
「魔物を従える才能を持った人間の事よ。まあ才能があるだけじゃテイマーとは言えないから、正確にはその訓練をした人の事だけどね。」
「魔物を従える・・・?そんな人間がいるのか?!」
思わずイヴェリンに食いかかるように近付くアダムス。
そんな能力があれば魔物を討伐する必要なんてなくなる・・・と顔にはっきり書いてある。
至近距離に来たアダムスの顔から目を逸らしたイヴェリンが続ける。
「そ、そんな便利なものじゃないわよ。テイマーより弱い魔物じゃないと従えられないし、従えたって突然襲い掛かって来ることもあるって言うし。それにサハラードに数えるほどしかいないから、ウチの国にはあんまり関係ないもの。」
「・・・ん?サハラードにしかいないのか?なんでだ?」
「知らないわ。確か体質とか生活環境の違いって言われてたんじゃなかったかしら。」
「ほ~・・・まあウチで実用出来ないなら仕方ねえか・・・。サハラードから一人くらいウチに入団しねえかなあ。」
アダムスの素直な感想に二人が苦笑いしていると、ホルマドが近づいてきた。
「あれは間違いなくテイマー、しかも、軍事大臣直属の部下で国の管轄下に置かれている国家テイマーの一人です。軍事大臣の一存では動かせる人材ではないはずですが、あんな者まで寄越してくるとは・・・。」
考え込んだ様子のホルマド。
同じく考え込んだオリヴァンと、何となく真似をして考えている様子のアダムス。
黙り込んだ男性陣を見たイヴェリンが、呆れた、と言わんばかりに溜息を吐いた。
「こんな道端で考えたって、わかる訳ないじゃない。さっさと進むわよ!」
背後の馬車からは馬車酔いのフェルザードが外に出せと騒いでオリヴァンに叱られている声が聞こえている。
先程よりも若干早足になったアダムスが、ここしばらく不思議に思っていたことを口に出した。
「さっきの奴は大臣の部下って言ってたが、なんで暗殺者を使わないんだ?サハラードには暗殺を生業にしてる奴ってのはあんまりいないのか?」
王城に飛び込んできた四人組は別として、それ以降フェルザードを狙ってきた暗殺者は十数人。
その全員がホルマドによって顔を確認され、貴族やその従事者だと判明している。
「いるわよ?多分最初はそいつらに依頼してたんだろうし。ただ馬鹿オージの暗殺依頼を受ける人間が少ないのよ。」
「どういう意味だ?」
「あの馬鹿オージ、あんなんでも国では役に立ってるのよ。例えば、国主導で『直通穀物流通令』で倉庫を噛ませず市場に穀物を流したり、『砂漠分散井戸計画』で大水路も引かずに水を行き渡らせて、『都市回転穀倉制』で食糧難を起こしにくくしたり・・・」
「待て待て待て。わからん!」
「国民の事を考えた政策をバンバンやってるから国民から絶大な支持を得てるって事。暗殺者からも、ね。」
「あ〜なるほど。暗殺者もフェルザードが王になると嬉しいって事か。」
「そういう事。ただ国民の為にはなるけど貴族の利益にはならない、むしろ利益を減らすような政策が多いから、貴族連中には目の敵にされてるのよ。」
「そういう事か。やっと理解した!」
「・・・今?」
「まぁフェルザードは悪い奴じゃないからな。あいつを殺そうとしてる奴なら悪い奴って事だ!」
「そうね、アダムスはそれで充分よ。でも急がないと・・・あっ!!いた!!」
イヴェリンの指が二人の正面を指差した。
街道のはるか向こうに、小さく影のようなものが見える。
「グリズリーレオン・・・!!馬車停止!各員、戦闘態勢!目標距離百五!構えろ!」




