11.無駄な策略
何と言う事はない、よくある話である。
サハラード王国では一夫多妻が法の下に認められており、特に才のある子を残す責務のある王族ではそれが顕著になる。
フェルザード十三世の父親であるフェルザード十二世も十人を超える妻を娶っており、その全員に子を産ませている。
また、フェルザードという名は最初に生まれた男児に付けるのが古くからのしきたりだ。
つまり現在ルクレイン王国を訪れているフェルザード十三世は大勢いる兄弟姉妹の長男という事である。
下には生まれたばかりの赤子も含めると八人の弟と十人の妹がおり、その中で歳の近い第二太子が王位を巡って争う立場にあるのだと言う。
「第二太子様はあまり政に明るくなく、その分を補おうと貴族と密接な関係になっておられます。その為、軍務大臣や利権を求める貴族連中の支持を集めており、国民の信頼厚いフェルザード様を蹴落とそうと必死になっておられるようで・・・。特に先ほどの刺客が仕えているマルグスタン家は軍務大臣の側近とも言われているので、この証拠があれば少しは動きを牽制出来る事でしょう。」
もう就寝中だというフェルザードの隣の部屋に移動し、安い赤酒で喉を湿らせながらホルマドの話に耳を傾けているアダムスとオリヴァン。
貴族や政治のややこしい事はわからないが、おそらく部下が暗殺しようとした証拠があっても切り札にはならないのだろう。
王位を巡って争う兄弟。
焦りを伴ったその戦いは、ここ数年で失脚から暗殺へと形を変えてきたようだ。
世襲制を取り入れている国ではありきたりな話だ。
わかりやすい言葉で説明してくれている話を神妙な顔で聞いてはいるものの、あまりわかっていなさそうな上司を見たオリヴァンが代わりに口を開いた。
「こうして語り合う機会が出来たのも何かの縁ですし、国に仕える立場としても友好的な殿下が即位してくれた方がありがたいですから。出来る限りは協力しますし、俺らの手の届く範囲において殿下の身は安全ですよ。何しろ『世界で一番強い剣士』が付いてますから!ね、だんちょー!』
最後はニヤニヤと笑いながらアダムスに視線を投げた。
数秒おいて顔を赤くしたアダムスの様子を見たホルマドが、問いかけた。
「不躾な質問かもしれないが・・・もしやアダムス殿は第三王女と」
「いえっ!そういうわけではっ!」
食い気味に返事をするアダムス。
真っ赤になった顔の前で手をブンブンと振る。
「まっ、まだ特に何か名前の付くような関係ではないですし、イヴェリンはあんな風に言ってましたが、陛下にもまだ何も報告するような事は何もないですし、まだ自分は何も返事はしてませんし!」
「らしいので、うちの団長と副団長は『まだ』男女の関係ではないそうです。」
「そうでしたか・・・その様子では、王女の態度もあの場限りの方便、という訳では無さそうですな。」
オリヴァンがあれ、という顔をする。
この人はフェルザード様と違い、イヴェリン様が嫌がってるのを理解しているようだ。
そう言いたげな視線を受けて、苦笑いを返す。
「我が国においてフェルザード様の誘いを断る婦女子などおりませぬ。それこそ軍務大臣の娘であろうと、フェルザード様が声を掛ければ砂狐の速さで王子の胸に飛び込むでしょう。あの方の中では、全ての女性は自分の気を惹こうと必死な存在なのですよ。」
砂狐の速さとはあちらの国でとにかく早いものの例えか何かだろう。
それほどモテるし、女性に拒否られる経験もないという事か。
だからイヴェリンが何を言っても自分に好意があると信じて疑わなかったのか。
「あとはフェルザード十二世様、現国王陛下が『女の嫌は嫌ではない』とお教えになったせいかもしれませんが・・・。」
オリヴァンが思わずズッコけて椅子から落ちそうになった。
「絶対そのせいでしょ!」という言葉を飲み込んだのは流石である。
アダムスはその横で「女の嫌は嫌じゃない・・・?どういう事だ?嫌は嫌という事なんじゃないか・・・?」と呟いている。
「しかし『まだ』という事は、フェルザード様にも『まだ』チャンスがあるという事。第三王女も女性である以上、心変わりの可能性はありますな。そちらには悪いですが、早急な即位と国の安定の為にも、わたくしはフェルザード様に協力をさせていただきますよ。策略を練るのは得意ですからな。」
隷属の首輪を取引材料に使おうと進言したのもこのホルマドなのだろう。
ニヤリと笑ったホルマドの言葉に、オリヴァンもニヤリと笑い返した。
「それはもちろんですよ。それが刺激になって進展する可能性もありますし、ねぇ?」
二人が張り付いたような笑顔のまま笑い合っている姿を見て、なんだか悪役みたいだな・・・とアダムスは手にしていた赤酒を飲み干した。
何の話をしてるのかよく分からないが、イヴェリンの事なんだろうな。
そういえば、しばらくイヴェリンが不在にするって言い忘れてたな・・・まぁ明日でいいか。
そう考えながらお代わりを注ぐアダムスは、その伝え忘れが二人の企みを無駄にする事もわかっていなかった。




