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完全無欠の第三王女と最強剣士は結婚したいがしたくない  作者: 斉藤りた


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10.凍った刺客

「げ。ヘンリエッタ様帰って来るんすね・・・。」


ここは第一魔法騎士団訓練場の横の宿舎。

一ヶ月の間はフェルザードらもその一室に寝泊まりしている為、ここに住んでいるアダムスと団員達が交代で見張りと暗殺者を捕縛するようになったのだ。


今日はヘンリエッタ第二王女の話をする為にオリヴァンが泊まり込み、アダムスと度数の低い酒を傾けている。

ヘンリエッタ王女の数々の噂を聞いて、アダムスもその人柄が掴めてきたようだ。

やれ夜会で気に入った令息が居たら魅了魔法で一晩の相手をさせるだの、やれ一晩で十二人の男性を絞りつくしただの・・・流石に最初に覚えた魔法が避妊魔法だったというのは噓かもしれないが。


「げとはなんだ、げとは。特殊な性癖をお待ちかもしれないが、ヘンリエッタ様のおかげで我が国が救われたのは確かなんだ。そもそも王族なのだから、ちゃんと敬意を払え。」


「だんちょーは会った事ないんすよね?ヘンリエッタ様を見たら、俺の言ってる意味が分かりますって。も〜見た目からして、イヴェリン様とは違う方向に強烈なんすもん。」


「お前なぁ・・・あんまりそういう事を」


言葉が途切れ、二人が同時に部屋の入り口を見て立ち上がった。

侵入者だ。


アダムスが指でサインを作り、自分が先に行く、と指示を出すと、オリヴァンが首を横に振った。

自分が先に行く、と言っているのだ。


自分の副官がやる気を出した事を内心喜んだが、そういう訳ではない。

アダムスが戦うと、物が色々壊れるので室内で暴れて欲しくないだけである。

団長の後始末は副官の役目でもあるので、単純に面倒なのだ。


オリヴァンがそっと扉を開け隙間から覗くと、廊下を数人の黒い人影が音を立てずにゆっくりと移動している。

一瞬考えた後、オリヴァンが床に手を付いた。


熱帯夜の汗ばむような廊下に、猛スピードで白いもやが広がってゆく。

顔を隠した侵入者達がもやに気が付くも、為す術もないままほんの数十秒で身体の震えは止まらなくなり、歯がガチガチとぶつかり始め、足は床に固定され動かなくなっていた。


オリヴァンの得意とする氷結魔法。

高温多湿な廊下を一気に冷やし空気中の水分を雲のように変化させたものだ。

数分後にアダムスが部屋から出てきた時には、侵入者の首から下は完全に凍っていた。


「おお、涼しくていいな!」


「・・・人間が凍る温度なんすけどねぇ。」


オリヴァンが他の部屋にいる団員達を数人呼び出し、器用に手首部分だけ氷を溶かして拘束していく。

三人の男達が何かを喋ろうとしているが、寒さで震えていて歯がぶつかる音しか聞こえない。


ガチャ。


三人が完全に拘束された頃、すぐ近くのドアが開きホルマドが腕をさすりながら顔を出した。


「もう大丈夫ですかな・・・?ん?何ですか、この寒さは!こんな気温ではフェルザード様がお風邪を召してしまいますぞ。ん?なるほど、魔法で賊を捉えたという訳ですか。おや・・・?お前は・・・」


一人で喋って一人で納得してと忙しそうなホルマドが、捕らえた侵入者の一人の顔をマジマジと見つめている。


「・・・確か、マルグスタン家に仕えている下級武隊員だな。見覚えがあるぞ。」


「な、何の事だ。」


本人は何の事だと言っているつもりだが、首から下が凍らされて震えているので「にゃんのことでゃ」になっている。


「ふん。お前の自白などいらん。オリヴァン団員、此奴の顔を記録しておける道具などありますかな。」


訓練を通じて打ち解けたのか、オリヴァンの名も覚えたようだ。

その強さとスタミナを目の当たりにして、ホルマドもそれなりに敬意を払うような物言いになっている。


「あ〜ありますよ。シド、お前のとこになかったっけ?」


「写しのガラス窓か?小さいので良かったら何枚か余ってるから、持ってくるか。」


そう言って持って来たのは、片手に乗るサイズの小さなガラスの板。

シドが下級武隊員と呼ばれた侵入者に向け、魔力を込め始める。


「あ、団長も入ってください。」


「ん?それは何だ?」


「早く早く!」


言われるがまま侵入者の横に並び、ガラス板を向けられるアダムス。

しばらくすると、シドの手の平の上にアダムスと侵入者の姿が描かれたガラス板が出来上がった。


「ほ〜、こんなのがあるのか。凄いな。」


「去年発売されたんですけど、便利だし良い小遣い稼ぎになるんですよ〜。」


「小遣い?」


「団長とかイヴェリン様の絵姿は人気があるんでなかなか高く売れ・・・あ〜・・・いえ、何でも・・・」


「シド。お前、明日の朝イチで話聞かせてもらうからな。」


「へぇ〜い・・・。」


肩を落としながらホルマドに写しのガラス窓を手渡すと、侵入者達を引っ張り地下牢へと連行して行った。


「このような物が・・・。いやしかし、アダムス殿も写っておるからこれは良い証拠になります。貴族家に仕える者が他国の王城に侵入したとなればその責任は取らねばなりませんからな!ありがたい。」


ホルマドが、何とも複雑そうな笑顔でガラス板を見ている。


「本来ならば、このような証拠など必要ないのが一番なんですがね・・・。」


「お・・・お話を聞きましょうか・・・?」


苦手な分野だが、目の前でこんな顔をされてはそう言わざるを得ない。

まったく、こういうところが団長らしい。とでも言いたげな顔でオリヴァンがアダムスを見上げ笑った。


「そうですな、よくある話なのですが・・・。」

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