a spoonful of
「砂糖は太る、って君は言うけれど」と、彼は言った。「甘いものは気持ちを優しくしてくれるんだよ。それに頭を働かせるのにも必要だ。」当時ゆっくりと増加傾向にあった体重を気にして甘い物を控えていた私に彼はそう言い聞かせ、一日一回のコーヒーブレイクにはいつもちょうどスプーン一杯分の砂糖を入れてくれた。
少し理屈っぽく頑固だけれど、物腰が柔らかなせいでいつの間にかそれとなくうまく丸め込まれてしまう。ちらかっているけれどわたあめみたいにふわふわにカールした髪の毛や好んで着ていた生成がかった白いシャツが、よりいっそう柔らかい印象を与えていた。私はその少し目の粗い特殊な生地の白いシャツに顔をうずめて眠るのが好きだった。そうして眠ると、何故かいつも決まってビスケットやケーキなど甘い物の夢を見た。そして目を覚ますと、彼がコーヒーを入れてきてくれるのだ。
好きだ、なんて片手に数えるくらいしか言ってもらったことがなかった。
シュガースプーン一杯分の優しさ。シュガースプーン一杯分の愛情。それ以上でもそれ以下でもない、それが彼が私にくれたものだった。
いまでもコーヒーを飲むときには時々、自分でちょうどスプーン一杯分砂糖を入れてみたりする。
スプーン一杯分の砂糖は、私の気持ちを優しく、そっと痛くしてくれる。
さぁ、フィクションorノーフィクション。