6.聖女の世話係
ベッドで寝ているリヤンも今紹介されたセナタとフロラも、おそらく十代で中高生の同年代だろう。なんだかそれだけで気が楽になってくる。
「セナタとフロラ、それとリヤンがウチの面倒を見てくれるってことなのね。こちらこそよろしくお願いします。できれば聖女さまなんてかしこまらないでアキナって呼んでほしいかな。もちろんルカさんもね」
「これはまた寛大なるお気遣いをありがとう存じます。ですがさすがにわたくしの立場上難しく。聖女アキナさまであればなんとか。それにわたくしのことはルカと呼び捨てでお願いできますでしょうか」
なるほど、まだよくわかってないことも多いが、統括神官と言うのがあまり隙を見せられない立場なのかもしれない。それとも聖女と言うのがそれほど特別な存在なのかもしれないし、両方ということも考えられる。
「んー、ではルカ統括にしておきますね。でも普段接する機会が多いこの子たちも同じようだとウチは恐縮しちゃって落ち着かないかも」
「さようでございますか? この三人は聖女さまがおひとりでは心細いかもしれないことも考え選んだ話し相手でもありますし、そのお気持ちに感謝しまして、あとは当人たちの自主性に任せておきましょう」
それではあとはよろしく、などと言い残してルカは去って行った。まるでお見合いで聞くセリフのようだ、なんて想像だけで考えるくらいには心に余裕がある。
自分でも驚くくらいこの状況を受け入れられていると言えるし、池袋で確実に命を落としたとの実感があったからでもある。刺されて意識を失っていったことを実感と呼んでいいのかどうかはまあ置いといて。
一緒に遊んでいた仲間も別に友達と言えるか微妙な関係だったし、なんとなく体目的って思える目で見てくる男子もいた。だから会えなくなった今でもさみしくなった気はしない。
かといって一人になって良かったと思っていないのも確かだ。この状況に置かれて数時間ではあるが、ルカがあてがってくれたこの三人は歳も近そうだし、できればいい関係を築いていきたいものだ。
「それでは聖女さま、あっ、アキナさま? お茶の支度をいたしましょう。一応先にご説明しておきますと、今寝ちゃっているリヤンが十七歳で一番上、次が十六の私セナタで一番下が十五のフロラです」
「あっ! セナタってばズル! アタシは自分で紹介したかったのにー えっとねアキナさま、アタシは水属性の浄化術ができるのよ? だからなんでもすぐきれいにできちゃうし、身の回りのお世話だってバッチリなんだから」
「こらフロラったらそんな友達みたいな言い方はダメでしょう? それに浄化術はみんな使えるじゃないの。それが側仕えの最低条件なんだから当たり前よ」
「話し方なんてどうでもいいわよ。ウチは気にしないもん。そんなことよりこの世界のことについていろいろ教えてほしいかな。わからないことだらけで頭がおかしくなりそうなの」
「そうですねえ、たとえばどんなことですか? 私たちは神官の見習いとしてこの離宮で働いているとか、普段は街の清掃やお年寄りなどのお世話をして回っているとかそういうことですか?」
「うんうん、なんでもいいの。なんてったってウチは別の世界から来たばかりでなにも知らないんだもん。あ、お茶入れるなら自分たちの分も入れてさ、こっちのテーブルでみんなで話そうよ」
「いいね! アタシおしゃべり大好きー 今日のおやつはこんなちいさなフルーツタルトでカワイイのよ? さっきつまみ食いしちゃったけどおいしかった!」
「ちょっとフロラ!? 本当につまみ食いしたわけ? 聖女さまのおやつに手を付けるなんてそれはさすがにまずいでしょ…… 統括に知られたらまたお仕置きされちゃうんだからね」
「違うってば。炊事場から持ってくるときに余ってた分から一個だけね。きっとあれは統括たちのおやつだわね。ホントズルなんだからさ!」
「なになに? 統括ってやさしそうにしてたけどホントは厳しいの? それにこっそりおやつ食べてるなんて意外だね。いいなー、そういう話も悪くないわね。他には何かないの? 神官の見習いには男の子もいるのかな」
「男の子の見習いもいるいる。ここにはいないけどね。えっと神力の属性にはいくつかあって、アタシたちみたいな水属性は全員が女なの。地属性と火属性は男がほとんどだけど女もいるかな。あと、数は少ないらしいけど鉄属性ってのもあってそっちは全員が男って感じ」
「もうフロラったら、しゃべり方なんとかしないと統括に言いつけるよ? それでアキナさま、その属性ごとに就業場所があって、私たち水属性はこの離宮が職場であり住居でもあるって仕組みです。それともう一つとっても貴重な属性があって、それが光属性なんですけど、数百年さかのぼっても一人だけなんですよ?」
「へー、なんだか難しいけどいろいろあるのね。ウチにも神力てのがあるらしいけど何属性なんだろう。二人はどうやって調べたの?」
私の問いは当然すぎるものだと思ったのに、二人は顔を見合わせて苦笑いするだけで教えてくれなかった。と言うことはその属性の調べ方は、素人相手においそれと言えるようなものではないのかもしれない。
それにしてもそんな魔法みたいなものが自分でも使えるかもしれないと考えたらちょっとワクワクしてしまう。やっぱり女の子なら一度くらい魔法少女になる夢を見たに違いないからだ。
そんなことをふと考えてみると、自分の頭の中までがいつの間にか五歳児に戻ってしまったのではないかと焦ってしまうのだった。