43.聖女の決断
それにしても当日に誘ってくるとはあわただしい。だからと言うわけでもないけど、結局は王宮での会食へは行くことを決めた。
きっと今から断ったら用意された料理がムダになるから行くしかない。日本人の感覚でもテンカー人の感覚でも食材をムダにするなんてありえないのだ。
どうやら食事中の作法は、口の中に何か入ったまましゃべらないとか、かむときは音を立てないとかの常識的なことばかりで変わった風習はなさそうで安心した。
それよりも問題なのはどうやってペンダントを返すかだろう。もちろんありがたくもらってしまうのも一つの選択だけど、借りを作るみたいでなんとなく気が進まない。
どうせ金属製のアクセサリーを身につけることはできないわけで、無用の長物であることは間違いない。どうしてもと言われたら石のペンダントと交換してもらおう。
「王族と言っても職業の一つですから必要以上に身構える必要はございません。もちろん神力と金属の相性については誰でも知っていること。疑いもしないでしょう」
「そうだよね。食器から何から金属製品がほとんどないんだから、何かの拍子でほかの人に影響が出るとまずいって言えば納得してくれる、といいなぁ」
「最終的に押し問答になるようならわたくしがきっちりと納得させますので、アキナさまはごく自然にふるまってくださいませ。それと婚約の件ですが、こちらは慣例でいえば親同士、つまり保護者同士の話し合いで決まることです」
「えー、親同士で結婚相手決めちゃうの? ああ、でも六歳で婚約なんて普通はしないんだっけ? でも親同士が決めることには変わりないの?」
「一般的には親同士で約束ごとを決め、決議書を取り交わすのです。良くある話だとお隣同士や親同士の付き合いが深いなどの理由で、学校を出てすぐに婚約を取り交わすなどでしょうか」
「なんだ、それじゃ別に無理やり相手を決めるって意味じゃなかったのか。今回の場合だとどういう意図があったんだろう。もしかしてウチを自分たちに取り込んで政治的にどうかしようとか?」
「今のところは何とも言えません。ですが、そういった意図がないとは言い切れませんね。しかしどちらかと言うと保護しようとしているような印象を受けました」
「保護? 今だって過剰なくらいに保護されてるじゃん。これ以上はいいよ」
「いいよと言われましても…… これはあくまでわたくしの受けた印象ですから外れているかもしれませんが言葉の端々に慈愛を感じました。一人で心細いだとか、親がいないと健全な成長が妨げられるなどとおっしゃっていたので―― あっ、これは失礼いたしました。アキナさまのお気持ちを考えず無礼な物言いを……」
「いやいや全然問題ないって。こっちの世界に来る前に両親は亡くなってるし、ウチは信頼できる家族が誰もいなくて捨て鉢になってたんだもん。かえって召喚って言うの? あれしてもらって良かったくらいだよ?」
「そうおっしゃってくださるとわたくしの気も軽くなります。それでもやはり親代わりになる大人とともに過ごしたほうがよろしいかもしれないとも思うのはおかしいでしょうか」
「ううん、きっとウチのことを心配してくれているんでしょ? ここにいて手間かかったり迷惑だったりするなら出ていくけど、そうじゃないなら居心地はまあまあだから今のままがいいかな」
だけど明らかに小さな子ども扱いで甘やかすのはやめてほしい、と喉まで出かかったけど、今言うべきことではないと思い自重しておいた。
きっと事情をよく知らない王族も似たような感情で申し出たのだろうなぁ、などと考えてみたが、あまり楽観的に油断するのはやめておいたほうがいいかもしれない。
こうしてテンカーと言う国、そして首都であるアケツにおける慣習等々の知識を仕入れ、事前にできそうな相談を済ませた私は、ルカ統括に手を引かれ王宮へと向かった。
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