41.聖女の非常事態
週末と言ってもどの仕事も基本的に週に三日は休日だ。学校は四日行って三日休みを繰り返しているから週末休みなだけで、すべての仕事が同じではない。
代表例が離宮内の仕事なのは言うまでもなく、私の担当をしている三人以外の見習いやまだ若い下っ端は交代勤務で夜勤もあるので大変らしい。
幹部クラスになると夜勤はなくなるのだが、いわゆる休日出勤は当たり前で、実質週に六日は働いていると聞かされた。
その幹部の中でもルカ統括あたりになると、週六どころか毎日うろうろしており一日も休んでないように見える。もちろん残業手当なんてなくすべてサービス残業なのは言うまでもない。
そんなルカ統括が土の日に離宮内で慌ただしくしていると言う、別に珍しくもない光景を私はぼーっと眺めていた。
離宮の廊下は人の往来が多いため、何もすることのない休日の眠気覚ましにはもってこいなのだ。
なんと言っても昨日からおやつの時間が来る前におなかは減ってしまうし、眠気はおそってくるしで、部屋にいると熟睡してしまいそうで困っている。
せっかくの休日なのだから、有意義な時間を過ごしたいと考えるのはどの世界にいても同じだろう。かといって別にすることはないのだけど。
「アキナさまー 調理場からおやつを前借してきたよ。まだ途中だったからクリームなしパンケーキだけどいいよね?」
「フロラ! ありがと。もう今にも寝てしまいそうでつらいよ…… いったいどうしちゃったのかな。神力が切れてるんだと思うんだけど、もしかしてウチってば役立たずになっちゃった!?」
「いやいや、それはないでしょ。持ってる力が無くなった人なんて今まで聞いたことないよ? 多分無意識にどっかで使っちゃったんじゃない? 学校で誰かのウソを見破ろうとしたとかなかったの?」
「ないない、学校では絶対に使わないように気を付けてるもん。やっぱ救護室へ行ったほうがいいのかなぁ。でもウチ病院とか好きじゃないんだよね……」
「それじゃとりあえず統括に相談してみる? さっきからうろうろしてるだけで暇そうだしさ」
フロラからはただ歩いてるだけに見えてるようで、あんなに忙しそうなルカ統括が暇に見えるのか? 私はかなり疑問を感じたが、それはそれぞれの感性によるものだから仕方ない。
だけどとりあえず相談するのは悪くない案だ。と言うよりもし世界に影響が出てしまうような大ごとだったら大変だし、早めに相談しておかないとあとで知られたらまた叱られるだろう。
だがそれよりも今は栄養補給が先である。フロラの持ってきてくれたパンケーキにさそわれて、私は追いかけるように部屋へ戻った。
食べ終わるとやはり力がみなぎってくるのを感じる。どういう仕組みか知らないが、甘いものを食べることで神力を補給でき、しかも太らないのはうれしいのかなんなのか不思議な気持ちでいっぱいだ。
一息ついていると部屋をノックする音が聞こえてきた。
『コンコン』
「アキナさま、いらっしゃいますか? 先ほどまで廊下にいたと思って探したのですがお部屋に戻っておられるのでしょうか?」
「統括だ! やっぱりうろうろしてるだけで暇なんだよ。休みの日に様子見に来るなんて心配性だねぇ。アキナさまがなにかやらかさないか不安なんじゃない?」
「ちょっと失礼なこと言わないでよ。ウチがいつどこでいったいなにしたって言うのさ。そりゃおやつをこっそり前借りしに行ってもらったけど…… それくらい許されるでしょ?」
「さあ? 誰かの分が足りなくなったかもしれないよ? でもフロラのせいじゃないんだからねー」
そんな話をしている間にルカ統括は部屋へ入ってきた。額には汗がにじんでおり、よほど急いでいるように見える。
「ああ、やっぱり時間前におやつを食べてたのですね? 昨晩から食事の量も増えていて少々気になっていたのです。いったい何があったのですか?」
「いや、特に何もないけど眠くて仕方ないんだよね。食べるとおさまるから神力が足りなくなってるってことじゃないの? それにしてもよくそんな細かいとこに気が付いたねぇ」
「それはその通りですが、アキナさまの食事量は全て管理しておりますし、大きな変動があれば気に留めるに決まっています。ただそれは摂取量が少ないとよろしくないとの観点で管理、監視しているので、今回のように突然増えるのは異常事態と言えるでしょう」
「うーん、もしかして成長期とか? もうちょっと背が伸びるといいんだけどなぁ」
「身長はそのうち伸びるでしょうが、神力の大幅な自然減少は原因を突き止めなければなりません。簡単に言えば疲労と同じこと。疲れすぎが続けば体調にも影響が出てしまいます」
「まさかウチの力が弱くなって用を果たさなくなってるとか? そしたら追い出されちゃう?」
「個人が潜在的に持っている絶対量が下がると言うことは今までに例がないので考えにくいですね。第一それならば糖分補給で回復するはずもありません。昨日から何か変わったことはございませんか?」
私は懸命に考えてみたけど思い当たることは何もなかった。それどころか三月の日の直後だったので、ここ数日は心身ともに調子が良すぎて困るくらいだったのだ。
必死に考え込みながらも答えが出ないでいると、ルカ統括はさらに暑苦しい顔を近づけてしつこく確認してくる。
「もう一度お伺いしますが本当になにも思い当たりませんか? たとえば誰かから金属製の贈り物をいただいたとか――」
私は目を丸くしながら大口を開けて呆けてしまった。




