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聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~  作者: 釈 余白(しやく)
第三章:聖女は一般人になる

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23.粗暴な聖女

 ここにはリヤンもセナタもフロラもいない。つまりなにかやらかしたらかばってくれる人がいなくて全部自分で責任を負うことになる。


 十二時のおやつが終わってみんなが歌を歌って楽しんでいる最中、私は暴力を振るった罰として先ほど刈り取った雑草を、大きな鍋のような容器へ運ぶ作業をさせられていた。


 なんだかもう悔しくて涙が出そうである。しかしきっかけを作ったあの偉そうな男子とその取り巻きも同罪としてやらされていることで、少しだけ気が楽になり涙を流さず踏みとどまれている。


「ミカサ、おまえのせいだからな…… ナマイキ言うからペデロがお仕置きしようとしちゃったんだぞ?」


「なんでウチのせいなのよ。先に手を出してきたのはアンタの部下でしょ。教育がなってないからこんな目にあわされて、こっちが被害者に決まってるじゃないの」


「なんだと! まだ生意気なこと言うのか!? 嘘つき女のくせに」


「嘘つきってなによ! ウチがなに嘘ついてるっての? アンタこそ偉そうにしてるけど取り巻きに手を出させる卑怯者じゃないさ」


「卑怯者だと!? ふざけるな、このおまけの異界人ふぜいが僕に逆らうのか!?」


「ちょっと待って!? アンタそれどういう意味か分かって言ってんの? 滅多なこと言うと命にかかわるわよ?」


「ふんっ、それで脅してるつもりか? 僕は知ってるのさ。おまえが聖女様降臨(こうりん)の時にどさくさで異界からついて来ちゃったってことをな! 行くあてもなく離宮に引き取られたくせに生意気なんだよ!」


 ここまで言われ放題のは非常にまずい。いくら私が隠していても他からばれて広まってしまったらどうなるかわからないからだ。


 そもそもコイツが民衆会の子弟かもしれないが、それを確認する方法はあるんだろうか。


 だが考えていても仕方がない。私は緊急事態だからと自分に言い聞かせ、朝決意したばかりの禁を破ることを決めていた。


「ねえアンタはいったい何者なわけ? なんでそんなこと言いだしてんの? 何の目的があってウチに近づいてきたのか白状なさい」


 嘘がつけないよう、神力を使って白状させてやる。そう思って意気込んだ私は拍子抜けしてしまった。どうやらこの男子はただのおバカさんだったからだ。


「なんだ本当に何も知らないのか。僕はな――」


「無礼者め! ケイラムさまはな!」

「次期国王さまの嫡男にして後継者だぞ!」


「なんでお前たちが割り込んでくるんだよ。今の場面は僕が自分でカッコよく決めるとこだろ? まったく余計なことをしてくれるよ」チラッ


 なんでそこで髪をかきあげながら私を見る? まさかかっこよく決まったとでも思ってるのかな?


 こちらからしてみればただの子供にしか見えないが、このケイラムには彼なりの価値観があって、きっと誰よりも優位に立ちたい性分なんだろう。


 しかし私にその論理(ろんり)は通用しない。というよりそんな地位に興味(きょうみ)もないし、先に王族に特別な権限(けんげん)や有意性はないと聞かされているから余計だ。


「だからなに? それがどうかしたの? それよりもちょっとアンタ――」


 私は唐突(とうとつ)に加わってきた取り巻きからケイラムを引きはがし、声を(ひそ)めてもう一度同じことを繰り返した。


「いい? ウチが異界からやってきたことは国の最重要機密なのよ? こんなとこどでペラペラしゃべっていいことじゃないわけ。ウソだと思うならアンタの父さんかお爺さんを通じてルカ統括に聞いてみなさいよ」


「ま、まさかそんなことが…… だ、だがおまえが困ると言うならやめてやろう。僕は寛大(かんだい)だからな。その代り今後は僕の言うことを聞くんだぞ?」


「あんたなにもわかってないわね。これはウチがアンタを救ってあげたんじゃないのよ。逆にウチの家来になるなら不問にしてあげてもいいってくらいのことよ?」


「なに!? 家来にするだと! 僕を侮辱するのか、こいつめ!」


 そう言って掴みかかってきたケイラムを軽くいなして体を入れ替えた私は、つい彼の背後から背中を押してしまった。


 しかもそれなりに力を入れてしまったおかげで、ケイラムは無様に地べたへとはいつくばる結果となった。


 もちろん彼は悔しそうにこちらを振り返りにらみつけている。


「あはは、アンタ、顔が砂まみれじゃないの。ごめんね痛くなかった? 急にせまってきたからびっくりしちゃったのよ」


「うるさい…… 別に悔しくなんてないからな。覚えておけよ……」


 ケイラムの顔についた砂を払ってあげていると、それ自体が屈辱だったのか悪態(あくたい)をついてきた。よほど悔しいのか顔が真っ赤になっている。


 そんなところへタイミング悪く先生がやってきてしまったので、私は苦し紛れに嘘をついた。


「先生? ケイラムが転んでしまったの。鼻血が出てないか見てあげて?」


「ええ、どうやら何ともないようですね。さいわい傷一つありません。でもミカサヤマアキナさん、嘘はいけません。先生はちゃんと見てましたよ? あなたが突き飛ばしたのでしょう?」



 次の三時間、私とケイラムは学校内の掃除を命じられていた。

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