19.聖女の公開
反省はしている。してはいるが、謹慎生活が三日も続くと流石にうずうずしてきて仕方がない。
まったく刺激的ではなかった初めての外出とはいえ、銭湯に入ったことはいい思い出である。またすぐに行けないことが悲しいし悔しかった。
そんな私がやることもなく部屋でゴロゴロしている間に、リヤンとセナタに命じられていたトイレ掃除と泉の掃除と言う罰もようやく片付いたらしい。
世話係として務めている日には交代で休憩するのだが、その時間を使って罰当番へ向かい、一日中休憩なしで動きっぱなしだった二人はさすがに元気がなく、部屋の出入りもとぼとぼと力ない様子で心が痛む。
そうは言ってもたかが三日程度、終わってしまえばなんてことはない。解放感もあって以前よりもさらに元気になっているようにも見えた。そしてそれは私も似たようなものだ。
「あなたたち? 本当に反省しているのでしょうね? もちろん二人だけでなく聖女さまもですからね? 今後絶対に逃亡したり変装して隠れたりしないと約束できるなら――」
「出かけていいのね! やったー!」
「こほん、アキナさま? お伝えしたいことがございますので最後まで聞いてくださいますか?」
今ルカ統括がアキナさまって言った!? いつもは聖女様以外で呼ばないのに突然どうしたのだろうか。まさかやっぱり聖女じゃなかったから離宮から放り出されるとかだったらどうしよう……
しかしそれはいくらなんでも心配が過ぎた。どちらかと言うと悪い知らせではなかったのだ。
「あ、はい、ごめんなさい…… そんなのダメに決まってますよね、まだ四日目くらいだし。でもそろそろ離宮内なら―― よくない?」
「はい、離宮内はもうよろしいですよ。世話係の三人が通常業務へと戻りましたので問題ございません。あくまで安全のための配慮ですから」
「なにかと安全とか護衛とか大げさだと思うんだけどなぁ。だって人さらいも大昔の話なんでしょ? 今は街の中を歩いてても危なくないって聞いたけど?」
「人さらいに関してはほぼないでしょう。大昔は神力自体が他国にとって未知のものでしたから、情報収集を兼ねて連れ去っていたと判明しておりますし。ですがアキナさまの場合には事情が異なるとご説明いたしましたよね?」
「そうだった、ね? 商人たちの偉い人? に? 見つかると? いいように使われちゃうかもしれない? みたいな? それも心配し過ぎだと思うんだけどなぁ」
「なんだが本当にご理解いただけているか不安になりますね…… たとえその場を切り抜けたとしても、聖女の力が他人を操るものだと知れてしまったらどうなるでしょう。おそらくは神属議会は聖女を使ってほかの議会を操っていると言い出すかも知れません」
「またまた大げさなー もしそうだとしても否定すれば済むだけでしょ?」
「いいえ、もし知れたら、民衆会が中心となり民衆の間でもう神属議会の意見は聞かないことにしようという運動が起きてしまうでしょう。そうなってからでは遅いのです。なんといっても民衆会のほとんどは神力を持たない一般民衆ですから、街に住む人々に一番近い存在です」
「なるほどねぇ、そんなもんなのかな。でもほぼ全員が神力の恩恵を受けて生活してるじゃない? あの公衆浴場だってそうなんだし、まさか反乱起こして対立するような真似はしないと思うけどなぁ」
「ですが、今離宮に努めている神官やその他の施設で働く他属性の者たちも、もとは民衆の中で生まれたのですよ? 民衆会がその子供たちや親を囲い込めば事足りると考えるでしょう」
ここまで来るとルカ統括は心配性どころか悲観主義と言ってもいい。だがもしかしたら、この世界の常識や慣習に照らし合わせると、そのくらいの心配は必要なのかもしれない。
「それで何か思いついたってこと? それがウチへの話ってことなんでしょ?」
「さようでございます。わたくしはこれまでの間じっくり考えておりました。どれほど心配しても簡単には払拭されません。なぜならばいつ知られてしまうかと日々警戒し、対策を考え続けなければならないからです」
「まあそりゃそうだ、隠し事って言うのは絶対知られないようにってするから隠し事なんだし? 考えなきゃいけないことがあると、普段から気持ちに余裕が無くなっちゃうもんね」
「ですからいっそのこと公表してしまおうと考えたのです。このたび我らがテンカーをお救いくださる聖女さまが降臨されたと!」
「へー、それはずいぶんと思い切って―――― って、ええっ!? いきなりそこまでぶっ飛ぶってマジで!? そんなの民衆会に狙ってくれって言ってるようなもんでしょ! いくらウチでも四六時中誰かに狙われてるなんてヤなんだけど?」
「もちろんです。わたくしたちで護衛をすると言っても限界があるでしょうし、どこかで隙を突かれてしまうかもしれません。ですので影武者をたてようと思っております。もちろん信頼できる者ですよ?」
「その当てがあるってこと? ってことはウチはもう聖女じゃなくなるからここから出てけってことになる?」
「なんでそうお取りになるのか理解できませんが、もしご不安にさせてしまったなら申し訳ございません。実はわたくしの姪がとなり街に住んでおりまして、神力はないので現在職業訓練学校へ通っているのです。しかしどうにも不器用で何をやってもうまくいかず、今後どうすべきか行き詰っていると妹から相談を受けました」
「その姪御さんを影武者にしたててどうすんの? 神力なくてもいいの?」
「むしろないほうが都合がよいのです。我々凡人には計り知れないことですが、天からそそぐ神力を地へとつなぐ力のみが備わっていると公表します。その他は一般人と変わらないと言うこととともに」
「なるほど、普段何かに使えそうな力がないとしておけば狙われる心配はないと。それでウチは? 誰にも知られることなく、裏でこっそり民衆会の偉い人たちを洗脳して暗躍しろって? それはちょっと嫌だなぁ」
「なっ! なんと恐ろしいことをお考えになるのですか…… 正直わたくしよりもアキナさまのほうが悪知恵が働くのではございませんか?」
この腹黒統括め! 自分が保身のための策をめぐらせるために私を召喚しておいていったいどの口がそんなこと言うんだよ! と、私は心の中で叫んだ。
だがルカの口から続いて飛び出してきた言葉に私は虚をつかれてしまった。まあ実行に移すのはひと月くらいは先だろうと、漠然と考えていたからである。
「つきましては、次の週末に聖女降臨の式典を行います。もちろん一般公開ですので、今後は本物の聖女であらせられますアキナさまの身の安全と自由が保障されるはずでございます」




