13.聖女の停滞
ようやく自由を得たと思ったのだが、とりあえず離宮の中だけという制限をつけられてしまった。これは側仕えの三名だけでは護衛しきれないから人選が終わるまでと説得され納得した結果である。
なんといってもここは首都アケツ、街中へ出れば人通りもそれなりに多いらしいから迷子になっても困る。それに想像していたような繁華街は存在せず、目的もなく街をぶらつくなんて習慣もないと言われてしまった。
「じゃあいったい何を楽しみに生きてるってのよ。みんな休みの日は何して過ごしてるの? まさか仕事以外は家でゴロゴロしてるなんてことないでしょ?」
「フロラは実家へ帰って母さんと一緒に料理したり、妹と花壇の手入れしたりで結構忙しいよ? 休みなんてあっという間に終わっちゃうくらいだもん。他の子たちもあんまり変わらないんじゃないかなぁ」
「買い物とか行かないの? 服とかアクセとか、スイーツでもいいけどなにかしらあるでしょ? 仕事と家の往復なんてさみしすぎるよ」
「そうかな? 服は母さんが作ってくれるけど普段はこの制服だけだし、アクセサリーは神力の効力を阻害するからつけないね。それでスイーツってなに?」
「ああ、スイーツって言うのは甘い系のお菓子ってこと。というかそれは毎日何回も食べてるじゃないの! それにしてもアクセがダメだなんて泣けてくるよ。ウチはブレスとかリング、それにピアスをいっぱいつけてたんだもん」
「アキナさまはつけても平気じゃない? 普段、神力使って仕事するるわけじゃないでしょ? でも金属じゃなくてこういう石なら身に着けてもいいんだよ?」
そう言いながらフロラは胸元から指先よりも大きな水晶か何かを取り出した。透明感がある水色のきれいな石には穴があけてあり、革ひもを通して首からかけられるようにしてある。これはこれでパワーストーンっぽいおしゃれアイテムだ。
「金属はダメなのね。そのネックレスはどこで売ってるの? その前にお金がないから買えないか…… ウチも仕事しないと自由時間だけあっても仕方ないよねぇ」
「神力遣いにとって金属製の何かは害しかないんだよ? 力が拡散されてうまく使えなくなっちゃうの。だから食器とかも木や陶器ばかりでしょ? だからこういうきれいな石を拾ってきて自分で作るってわけ」
「なるほど! その辺で拾ったりできるんだね。ウチも欲しいよ。外出許可が下りたら案内してよね」
「きっとそういうと思ったけど、護衛の人がいないとたぶんムリだよ。アタシはまだ自宅にいるとき父さんと一緒に行ったんだけど、イノシシとかカモシカとかが出るし、時にはクマも出るから危ないんだよね」
「そっかあ、それも考えて人選を進めてくれてるのかな? ルカ統括は考えてることを全部言ってくれないからいまいち信用できないんだよねぇ。離宮の中ではなにか面白いことないの?」
「うーんそうだなぁ、炊事場へ行ってつまみ食いしたり、馬小屋へ行ってエサをあげたりとか? アタシはやらないけど、裁縫や編み物をやる子もいるよ。将来のためにはできたほうがいいからってね」
「なんか微妙だけど、ほかにやることもないしせっかく出歩いてもいいって言われてるんだから少し探検に行こうかな。つまみ食いするほど飢えてないからまずは馬小屋へ行ってみたい! フロラがついてきてくれるんでしょ?」
「もちろん一緒に行くよ。でももうすぐおやつの時間だから食べてからがいいんじゃないかな? もうすぐリヤンが持ってくると思うから三人で行こうよ。セナタはお休みだから残念だけどー」
そう言っていやらしく笑うフロラは、どうもセナタをライバル視しているようだし、セナタはセナタでフロラの態度をなおそうといつも口うるさい。仲はいいけどお互いにちょっかい出したくて仕方ないって感じだ。
それにしてもこの国はどうなってるんだろうか。朝九時に朝食が終わってからは三時間おきにおやつの時間がやってくる。昼食の習慣はなくて夕方六時になると夕食、そして九時にはその日最後のお茶が用意される。
「なんでそんなにおやつばかり食べるの? おなかがすくならお昼ご飯を食べればいいのにさ。それでよく太らないよねぇ」
「神力を使うのに体力を使うからね。甘いものは欠かせないってこと。太ってる余裕なんてないよ。統括なんてガリガリになっちゃって髪の毛まで真っ白になるくらいカスカスでしょ? 今は黒くなってるけどきっとまた白くなっちゃうんだろうなぁ」
「じゃあアタシもあんな感じになっちゃうのかな。どうやらいるだけで神力を地面へ流してるみたいだからさ。それとも聖女は特別で除外されてるかなぁ」
「アキナさまってもともと髪の毛が黒くないもんね。なんでそんなに茶色っぽいのかな。普通の人にもそんな色の人は見たことないよ。街へ出たらほとんどが赤とか青とかだから目立っちゃうね。ちなみにうちの妹も青い髪だよ」
「ええっ!? 神官以外はそんな派手派手なわけ? それって神力を持ってるほかの属性の人たちも?」
「神力を持ってる人はほとんどが黒髪だね。統括みたいに激務な人は白髪交じりだけど、あそこまで真っ白な人はあんまりいないよ」
「じゃあ神官長も相当な激務なのかなぁ。そういえば男性なのに水属性なの?」
「ううん、神官長はお歳なだけ。もう八十歳くらいだったかな。そんで地属性だしね。ウチらのとこには地属性の代表として来ているんだよ? 事務仕事のためにって。調理長は火属性から来てて警備隊長は鉄属性のおじさんだよ」
「じゃあ水属性の偉い人もほかの属性の施設で働いてるってこと? そういえば各属性の偉い人で長老議会が運営されてるって言ってたな。もしかしてそのこと?」
「そうそう、いろいろ考えた結果、いろんなとこから代表者を出して話し合おうってことになったって歴史の授業で習った。アタシは結構寝てたけど……」
「街には学校もあるの? それともこの離宮の中で? ウチは勉強自体嫌いじゃないからさ。この国のことを学べる場所があるならうれしいかも」
「勉強が好きなんてセナタみたいで変わってるね…… 街の学校は五歳から十二歳まで通うんだよ? そんで神力がある子はそれぞれの施設へ行くか家に残るかを選ぶの。持ってない子たちは三年間は職業訓練学校へ行って仕事を選ぶって感じだね」
「なるほどねぇ。なんかあんまり毎日楽しくなさそうだけど気のせい? 十二歳でもう将来のレールが敷かれちゃうとか考えたくないなぁ」
「うーん、あんまり深く考えたことないけど、友達と遊んだり家族と過ごしたりするのは楽しいよ? アタシは将来統括、はムリでもそこそこの幹部にはなりたいと思ってるから頑張ってるの。リヤンはね――」
「ちょっと! なに勝手に私の名前出してんのよ! おやつ持ってきたって声かけてるんだから扉開けてくれてもいいじゃないの。フロラったらおしゃべりに夢中になるとなにも聞こえなくなるんだから困っちゃうよねぇ」
背後からの声にあわてて振り返ると、大きなお盆を持って扉へもたれかかっているリヤンが不満そうに立っていた。




