表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

第6話 新たな出会いと危機

 子どもが駆けてきた方向に目をやると、そこには野盗らしき男が一人こちらにナイフを向けている。


「さあ、早く渡しな、痛い目みたくなかったらな!」


 私の中で怯えて震えている子どもが男に叫ぶ。


「渡せません! これはイルゼ師匠の形見なんです」

「え?」


 今この子は「イルゼ師匠」と言っただろうか。

 もしかしてそのイルゼは私たちの探しているイルゼさん……?


「そんなことは知るか! そいつがあれば俺たちは爵位を得られるんだよ」


 私は男の子の肩をぎゅっと抱きしめ、自分の後ろにその子を隠すようにして守る。

 今ここに来た私にはどういう状況かあまり理解できていないのが事実だけどこんな子どもに手をあげようとしているなんてどうかしている。


「嬢ちゃん、そいつをかばうのか?」

「あなたがこの子の大切なものを奪おうとしているように見えます。合っていますか?」

「あ?」


 男は怪訝そうな顔をした後、一歩前に出て睨みつけてくる。


「あんたも首ツッコんで俺の邪魔するってなら、容赦しねえぞ」


 そう言って男は私にナイフを向けて攻撃の意思を示してくる。

 魔法での戦闘は禁止されているし、どうすれば……私に戦える武器は……。

 その瞬間、一気に男は私との距離を詰めて切りかかってきた。


「アリスっ!」


 私は咄嗟に男の子を守って体を丸めたが、私の体に痛みはこない。

 急いで振り返ると、そこには剣をかざして私と子どもを守る殿下がいた。


「なっ! こいつ……!」


 殿下は相手の攻撃の力を受け流すと、そのまま身を翻して相手の背中側に回る。

 そうして男の手を捻り上げると、一気に地面へと伏せさせた。


「いってえ!!!」

「アリス、何か縛るものないか?」

「あ、はいっ!」


 私は急いで店の中を見て回ると、さっきまで私の後ろにいた子どもが店の奥へと向かって縄を取ってくる。


「お姉ちゃん! これ!」


 渡された縄を急いで殿下のもとへ持っていくと、男の腕を縛り上げていく。


「お前ら、ぜってえ許さねえからな! 俺の……」

「少し黙れ」


 殿下は低い声でそう言うと首の後ろを叩いて男を気絶させた。

 ほっとした瞬間、男の子が私の服の袖をぎゅっと握って小さな声で呟く。


「ありがとう」


 私は彼の目線に合わせるように屈むと、頬を撫でて微笑んだ。


「どこも怪我とかしてない?」

「……うん」


 その言葉を聞き安心した後、私と殿下は目を合わせて頷いた。

 よかった、この子に何もなくて……。


「で……ニコラ様、お怪我は?」

「いや、大丈夫だ。それよりも……」


 私の体は急に殿下に抱きしめられる。


「二コラ様!?」

「お願いだ、何のために私がいるんだ。もう危険なことはしないでほしい」

「すみません……」

「心臓が止まるかと思った」


 何もできないくせに私は無鉄砲にナイフを持っている男の前に出てしまい、殿下に心配をさせてしまった。

 今この瞬間に気づかされてしまった。

 この手帳を頼りに、お父様の治療薬のためだけに一人で旅に出てきてしまったけど、私は弱い……。


「あの……」


 私が殿下の腕の中で考え込んでいると、男の子が少し呆れた声色で話しかけてくる。


「いい感じのところ申し訳ないのですが、あなたたちはどなたでしょうか? 何かお礼をしたいのですが……」


 私は慌てて殿下の腕の中から抜け出すと、早口で話す。


「す、すみません! あの、お礼はいいので、あの、イルゼさんを……」


 そこまで口に出して私は慌てて手で口を押えて言葉を止める。

 そうだ、さっき男に『イルゼ師匠の形見』って言ってた。

 それが本当ならもしかして……。


「イルゼ師匠へのお客様でしたか。ここではなんですし、よかったらうちのアトリエに案内をします。そこでお話をしましょう」


 私と殿下は互いに目を合わせて頷いた後、男の子についていくことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ