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第9話 アリスを傷つけることは許さない

 アリスが泣き疲れて寝たことを確認すると、私は静かに部屋を後にした。

 今晩はイルゼの好意で王宮の離れに宿泊をさせてもらうことになったのだ。


 そうして私は約束の場所であるイルゼの部屋の扉をノックする。


「いらっしゃい」


 笑顔で私を迎えたイルゼについてバルコニーに向かうと、そこにはワインが置かれていた。


「ご一緒していただけるかな?」

「その話し方、やめろ」


 私がそう言うと一気に表情を変えてため息を一つ吐いた。

 そうして私のグラスにワインを注ぐと、彼の誘いに乗ってグラスを合わせた。


「ミレーヌ様の娘がどんなご令嬢かと思えば、なんとも平凡な子だ」


 彼の言葉にイラっとする自分を抑えながら、何も言わずにグラスのワインを一口飲む。


「私に嫉妬していたのだろう?」


 得意げな顔をしてイルゼは私に問いかけてくる。

 嫉妬だと?

 したに決まっているだろう。

 アリスに軽々しく触れて、手とはいえ唇をつけておいて、何様のつもりだ。

 明らかに私を挑発していたあの瞬間、血が沸き立つような感覚がした。


「いつからあの子どもが私だと気づいていたんだ?」

「最初からだ」

「ほお?」


 興味深そうに私のほうを見ている彼に、自分がどうしてそう思ったのか告げる。


「店を引き継いだといっていたが、全て子どもの背の高さでは届かない場所に道具が置かれていた」

「洞察力があるな、お前」

「どうも」


 そうだ、子どもにしては違和感のある振る舞いや言葉、そして師匠が死んだのに淡々と事情を話す。

 あまりにも「子どもではなかった」ことに違和感を覚えた。


「アリスを本気で傷つけようとしていたら、あの魔法での幻覚の時点でお前を殺していた」

「ふん、俺は命拾いしたわけか」

「命までは取りはしないといいながら王族のブローチを見せられたら、下手に動けるわけがない」


 アリスがイルゼの魔法の幻覚で「試された」時、俺は詰め寄った。

 しかしあんな身分証を見せられては自国内でもない、私には何もできなかった。


「これからどうするんだ?」

「アリスを守る、私のすることはそれのみ」


 ワインを飲み干して立ち上がった私に、イルゼが声をかける。


「なぜそこまで入れ込む? あの娘に、お前が「結ばれる運命」の王子だからか?」


 私はバルコニーから出る時に振り返って言う。


「王子という身分でなくても私はアリスを愛する。ただの男でも、アリスだけを愛している」


 去っていく私の後ろで、「お熱いことで」というからかいが聞こえた。



 アリスを愛することに身分なんて関係ない。

 私は全身でアリスを愛する。ただそれだけだ。

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