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冷静墓守令嬢、残念スパダリ王太子に狙われる  作者:


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9/11

墓守令嬢、王太子に捕まる(前編)

 静寂が支配する墓所に、微かな鳥のさえずりが響いていた。陽が高く昇り、古びた石碑の影が短くなっている。


 いつもと変わらぬ穏やかな時間が流れるこの場所に、一人の青年が足を踏み入れた。

 レオンハルトは、ゆっくりと歩を進めながら、深く息を吐く。


(……今日こそは決着をつける!)


 何度もプロポーズを試みては、ことごとくかわされてきた。だが、もう迷いはない。


 墓所の奥に進むと、見慣れた背中があった。

 エリゼだ。長い黒髪をきちんとまとめ、慎重な手つきで墓石を磨いている。

 その姿を見て、レオンハルトは目を細めた。


「お前は、本当にこの仕事が好きなんだな」


 彼が声をかけると、エリゼは手を止めて振り返る。


「ええ、私は墓守ですから」


 いつもと変わらぬ落ち着いた声。

 しかし、次の瞬間、彼女はふわりと微笑んだ。それは、今まで見たことのない表情だった。


 レオンハルトの胸が、大きく跳ねる。

 何かが決定的に変わった――そう確信した。


「……エリゼ」


 彼はそっと彼女の手を取る。


「ちょっと、手が汚れますよ」


 エリゼは少しだけ眉を寄せたが、嫌がる素振りはない。その指先に触れながら、レオンハルトはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「俺は、お前を愛している」


 墓所の静寂が、さらに深まった気がした。


「……え?」


 エリゼが瞬きをする。


「だから、俺の妻になれ」


「えっ……えっ?」


 彼女の瞳が、困惑と戸惑いに揺れる。


「いや、ちょっと待ってください。あなたは英霊様たちに言われて私に求婚しているのでしょう?」

「違う。俺が、お前を好きだからだ。墓守でもなく、王太子妃でもなくーー」


 レオンハルトはエリゼの瞳を真っ直ぐに見据え、真剣に伝える。


「エリゼ、お前という存在を、愛している」

「えっ……それって……?」


 エリゼの思考が混乱しているのが手に取るようにわかる。

 その後ろで、何やら英霊たちがざわついていた。


『ようやく気づいたか!!』

『遅いぞ、エリゼ!!』


 エリゼが慌てて振り返る。

 もちろん、英霊たちは目には見えない。だが、歴代の王たちが涙ぐんで喜んでくれているのか、なぜか分かった。


「……そんなに、心から応援してくださっていたのですか」

『もちろんだ!!』


 レオンハルトは苦笑しながら、改めて彼女の手を握る。


「俺は本気だ。お前を手放すつもりはない」


 エリゼは俯いたまま、しばらく黙っていた。そして、ぽつりと呟く。


「でも……私は墓守です」

「だから?」

「あなたの妻になるということーーつまり、いずれ王妃になるということは、墓守を辞めるということです」


 彼女の言葉に、レオンハルトはわずかに眉を上げた。そして――


「ならば、王宮に墓所を作ろう」

「……はい?」

「お前が墓守を続けたいなら、それでいい。俺が側で支える。だから、墓所を王宮に移せばいい」


『おおおお!!』


 歴代王たちの歓声が上がる。


『さすが、レオンハルト!!』

『よし、引っ越しだ!!』

『エリゼのためならば、墓所の移動くらい問題ない!!』

『むしろ、王宮の方が過ごしやすいかもしれん』

『夜中に王に会いに行くのも近くて楽だな』


 エリゼは信じられないものを見るように、目をぱちくりさせた。


「……そんな、強引すぎます」

「俺はお前を諦めるつもりはない」

「…………」



 長い沈黙が落ちる。


 エリゼは、レオンハルトの大きな手に包まれた自分の指先を見つめた。

 レオンハルトの言葉は、あまりにもまっすぐで、揺るぎない決意に満ちていた。

 彼の手のひらから伝わる温かさを感じながら、エリゼは静かにまぶたを伏せる。


 ーーどうして、こんなにも。


 彼は王太子で、未来の国王で、自分とはあまりにも違う立場の人間だ。

 最初に会ったときは、ただ厄介な人物が現れたとしか思わなかった。

 けれど、何度も足を運び、何度断っても諦めず、それでも傲慢になることなく、墓守として、一人の人間としての自分を尊重してくれた。


 レオンハルトは特別だった。


 彼の声に耳を傾けるのが心地よくなり、彼が訪れない日があると、ほんの少しだけ寂しいと思うようになった。

 彼が来ると、心の奥が穏やかになる。

 そして、彼が笑うと、自分の胸の奥がひどく温かくなった。


 ーーこの人が、側にいる未来を想像してしまう。

 王妃になれば、墓守は続けられない。

 けれど、それ以上に「彼のいない未来」を考えたときのほうが、胸が締め付けられるほど苦しかった。


 レオンハルトとの未来か、墓守としての使命か、どちらかを選ばなければいけないと思っていた。

 それなのに、レオンハルトは、いともあっさりと、エリゼの両方の望みを叶えてくれると言う。


 静かに呼吸を整える。

 心は、もう決まっていたのかもしれない。

 レオンハルトがいない日常など、考えたくないほどに。


 だからーー


 エリゼはゆっくりと顔を上げ、彼の瞳をまっすぐに見つめた。


「……そこまで言うなら」


 彼の手をそっと握り返しながら、静かに微笑む。


「あなたの申し出を、お受けします」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本日もう1話投稿します。


次話『冷静墓守令嬢、王太子に捕まる(後編)』

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