表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

英霊たちの(役に立たない)恋愛指南

 夢の中、レオンハルトは広大な庭園に立っていた。周りには、歴代王たちが集まっており、その顔はどこか得意げだ。


『よく来たな、レオンハルト。待っていたぞ』

「……来たくて来たわけじゃない」


 レオンハルトはため息をつきながらも、いつの間にか現れていた円卓の椅子に腰を下ろす。


『今日はお前に恋愛指南するために集まったのだ』

「恋愛指南……?」


 レオンハルトは眉をひそめる。


『その通りだ!』

『お前もいい年だし、さっさとエリゼをモノにしろ』

『早速、アドバイスじゃ』


 正面の席に座った王がふっと優雅に言う。


『まずは、愛の言葉を囁け!』

「…………」

『あとは、贈り物だな!』

『女性は甘いものに弱い。更に流行りのものなら間違いない!』

『いやいや、ここはやはりロマンチックに美しい花じゃろうて』

『夜の墓所でデートも捨てがたい!』

『これで決まりだな、レオンハルト!』

『さあ、まずは愛の言葉を練習だ!今すぐだ、今すぐ!』


 レオンハルトは、思わず勢いに負けて言葉を準備する。


(よし、これなら大丈夫だ。落ち着け……)


 レオンハルトは深呼吸し、静かに言葉を紡いだ。


「エリゼ、お前は俺にとって、なくてはならない存在だ。お前の静かな微笑みが、俺の心を和らげる。お前の瞳に映る世界を、共に歩んでいきたい」


(……は、恥ずかしい!新手の拷問か、これは!)


 沈黙に積まれる庭園。

 そしてーー


『ヒューヒュー!』

『おお、素晴らしい!』

『流石だ、流石!』

『伝わる!伝わるぞ!』

『さすがワシの孫!』

『キュンキュンした!』


 英霊たちは大絶賛だ。これならーー


 その時、エリゼの声が夢の中から返ってきた。


『……殿下、私は殿下を……』

「え?」


 レオンハルトは驚き、その瞬間、目を覚ました。


「これは……夢か。」


 どこまでが夢だったのだろうか。

 最後のエリゼの言葉……その先を期待して、レオンハルトは顔を赤らめた。



   ◆



 目を覚ましたレオンハルトは、意を決してエリゼのいる墓所へ向かった。

 墓所に入った途端、英霊たちの声が耳の奥で響き、彼を励ます。


『さあ、レオンハルト!さっきのセリフを言うんだ!』

『お前の言葉が一番大事だぞ!』


(うるさい……)


 歴代王たちの熱いアドバイス。

 どうやらエリゼには聞こえていないらしい。自分にだけ話しかけているということか。

 英霊たちは意外と器用にその力を使う。もっと、国家のためにそのお力を発揮していただきたい。


 レオンハルトはやや呆れながらも勇気を振り絞った。


「……エリゼ、お前は俺にとって、なくてはならない存在だ」

「?」

「お前の静かな微笑みが、俺の心を和らげる。お前の瞳に映る世界を、共に歩んでいきたい」

「…………」


 エリゼはじっとレオンハルトを見つめた。


『おお、かっこいい!その調子だ!』

『伝わる伝わる、完全に心に響いているぞ!』

『お、キマったか!?』


 英霊たちが期待に目を輝かせている、ような気がする。


「……つまり、私の存在は殿下の政務に有益である、という意味ですね?」

「…………」


(ちがああああああう!!)


『なぜだ!?なぜ伝わらぬ!?』

『愛の言葉が足りんのでは!?』

『もっと情熱的にいけ!』


 レオンハルトは英霊たちの無責任なヤジを無視し、額を押さえた。


「いや、そういう意味じゃーー」

「……?」


 エリゼの無垢な瞳がレオンハルトを見つめる。


(仕事に関しては聡明なくせに、恋愛ごとにはこの鈍感さ……どうにかならんのか……!?)


 レオンハルトと英霊たちのため息が、墓所に吹く心地よい風に溶けていった。



   ◆



 英霊たちのアドバイスは、愛の言葉だけではなかった。まだ、打つ手はある。


『贈り物だ!今すぐエリゼに贈り物をして、心をつかむんだ!』

「……わかりました」


 レオンハルトは墓所に来る途中で手配した、王都で評判のお菓子をエリゼに手渡した。


「エリゼ、これを受け取ってくれ。」


 エリゼは箱を開けて、焼き菓子を見つめる。


「……お供えですか?」

『お供え!お供え!?』

「お、いや、それは違――」

「ありがとうございます。」

「いや、その、これは……」


 エリゼの真顔での言葉に、レオンハルトは頭を抱えて悩む。


『て、手強い……!』


 英霊たちの声が、虚しく墓所に響いていた。



   ◆



『最後だ!』

『これで決めろ!デートだ、デート!』


 一日の終わり。

 少し夜の薄闇がかかり始めた頃、レオンハルトは英霊たちに教えてもらった、墓所に咲く幻の花までエリザを連れて来た。

 花弁が仄かに光り、宵闇を幻想的に照らしている。


「エリゼ、見てくれ。これは今夜一晩だけ咲く幻の花だ」

「……美しいですね」


(よし、これなら……!)

『やった!これはうまくいったぞ!』


 英霊たちも手応えを感じている。

 しかし、続くエリゼの返答は意外なものだった。


「この花は、彼岸と此岸を結ぶ花と言われています。英霊様たちに捧げれば、とても喜ばれるでしょう」


 レオンハルトはその言葉に再び肩を落とす。


(やっぱり、ダメか……)

『我らに花を捧げるより、レオンハルトに捧げられた花を受け取れ!!』


 冷静墓守令嬢はの前に、歴代王たちと王太子は項垂れるのであったーー。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


次話『王太子の宣言』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ