冷静墓守令嬢、王太子に捕まる(後編)
本日2話目の更新です。
先に『冷静墓守令嬢、王太子に捕まる(前編)』をお読みください。
「……そこまで言うのなら」
レオンハルトの手をそっと握り返しながら、エリゼは静かに微笑む。
「あなたの申し出を、お受けします」
その瞬間、レオンハルトの表情が崩れ、息をのむのがわかった。
「……本当に?」
「ええ。本当に」
エリゼの言葉に、レオンハルトは心の中でガッツポーズをする。
(ついに、ついに……!!)
彼の顔がほころびかけた、その瞬間だった。
『おめでとう!!』
『さあ、キスだ!!』
『キース、キース!』
歴代王たちが大歓声を上げた。
レオンハルトは、周囲を見回してため息をつく。
「……あなた方がいると、全然ロマンチックな雰囲気にならないな」
エリゼも苦笑する。
彼女は手を伸ばし、彼の袖をつまんだ。
「……ついてきてください」
彼女に手を引かれ、墓所の林を抜けた先には、美しい花畑が広がっていた。
「ここは陽当たりが良すぎるせいか、英霊様たちは近づきづらいようです」
そう言って、彼女は上目遣いでレオンハルトを見上げる。
彼女の瞳には、微かな期待が宿っている。それを感じ取ったレオンハルトは、胸が高鳴るのを抑えられなかった。
レオンハルトは堪らず、彼女を強く抱きしめた。
「エリゼ……」
彼の声には、切なさと力強さ、そして何よりもエリザへの愛しさで溢れていた。
ゆっくりと顔を近づける。
彼女も目を閉じ、微かに唇を開いた。
その直前に、彼女の瞳が少しだけ不安げに揺れているのを見つけたレオンハルトは、再び誓う。
「絶対に、お前を守り、幸せにする……これからずっと、一緒にいてくれ」
そして、唇が触れた。
最初はただ、そっと触れるだけの優しいキス。
しかし、エリゼの柔らかな唇の感触に我慢できなくなったレオンハルトは、角度を変えてもう一度、そして、さらに深く重ねる。
エリゼは何も言わず、ただ目を閉じ、彼に身を委ねる。
レオンハルトは、手を彼女の髪に絡めて、ゆっくりと撫でる。彼女の髪の感触が、どこまでも柔らかく、まるで夢のようだった。
何度もキスを繰り返すうちに、エリゼがそっと彼の背中に手を回してきた。その動きに、レオンハルトはさらに胸を締め付けられるような気持ちになった。
「……私も、あなたがいてくれるのは悪くないと思っています」
レオンハルトの瞳が、大きく揺れた。
「エリゼ、お前……そんな可愛いことが、言えたのか……?」
エリゼの少し天邪鬼な、でも確かに自分に好意を伝えてくれる言葉が心に響く。
「言えます」
真っ赤な顔でレオンハルトから視線をずらして言った返事に、彼の胸が甘く締めつけられてしまう。
「……俺は、もう駄目かもしれん」
彼は完全にデレデレになり、顔を埋めるようにして、さらに抱きしめた。
そんな彼を少し押し返してレオンハルトの頬に手を添えると、彼女もまた、誓いのように囁いた。
「……あなたがいてくれるなら、私は王家の墓守として、いずれは王妃として、王家を支えましょう。そして……あなたの妻として、生涯あなたと共にいます」
そう言って微笑むその笑顔に、レオンハルトはますます溺れていく。
そのまま、再び唇を重ね、何度も何度も、ゆっくりと愛を確かめ合う二人。
時間が経つのも忘れ、二人だけの世界に酔いしれるようなひとときが続いていった。
こうして――冷静墓守令嬢と、残念スパダリ王太子の恋は、ついに結ばれたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次話(最終話)『エピローグ 王と王妃と英霊たちの語らい』