第9話 ヨクドリアが兵士になる
アリテリオ帝国の兵士として採用されたヨクドリアは、今まで着た事のない金属製の細い糸で編みこまれた防具のチェインメイルを装備した。
ここはアリテリオ帝国のお城の兵士たちが使う男子更衣室。ヨクドリアの直属の指導者であるワトスン・チルダーズが次々と装備品を倉庫からダンボールでボンボンと出してきた。
「……ふぅ、こんなもんかな。着れたか? サイズ確認してくれよ」
「はい。これでいいですね」
チェインメイルの上に銀製のプレートを装備した。最初は、兵士になることを家族から反対されていたが、いざ、なってみるとあまりにもかっこよくてウキウキする。その様子を見たワトスンは、腰に手をあてて、ためいきをついた。
「門番としてお前を無理やり中に入れたけど……全然嫌な感じじゃないんだな。俺はここに配属されたときは恐怖でしかなかったよ」
「え、そうだったんですか? いやぁ、こういう服着たことないので、ちょっと楽しくなってきました」
「まぁ、そう言ってられるのも今のうちだな。戦場は楽しむところじゃないからな」
「…………怖いこと言わないで下さいよ」
ヨクドリアは、ずんと体を曲げて、闇を引き寄せる。
「俺……すぐに殺されちゃうのかなぁ。戦争に行くって命がいくつあっても足りないじゃないですか」
「いやいや、命はひとつだろ。お国に捧げるのが俺たちの役目だからな。家族残して自分の命差し出すんだ。まぁ、勝利に導くんだったらずっと生き残れる。生と死の狭間だけどな。訓練すれば、強くなれるさ。さ、着替えたら、行くぞ」
ワトスンは防具がたくさん入ったダンボールを倉庫に入れた。ヨクドリアは、全身兵士そのもので新品の防具だったため、金属製でピカピカしていた。新人兵士のできあがりだ。ファッションショーのように見せびらかす。
「どうっすか」
「いいじゃないの? その防具、新品でめっちゃ高いんだからな。大事に使えよ」
「え?! 安いのでいいです! いや。マジで。弁償になるんですか?」
「命と引きかえだな」
「こ、こ、こわぁ……」
「冗談だよ。みんな一緒だ。壊れたら、修理屋に行けばいい。次は武器屋だ。行くぞ」
ワトスンは、防具を身に着けたヨクドリアを誘導して、武器屋に移動した。たくさんの兵士たちが行き交うが、ヨクドリアには全然興味もないようで、素通りだ。新人は声もかからないのだろう。ワトソンは顔なじみの兵士に手を振られたくらいだ。何となく、無視されたようで気分が悪い。
「先輩、なんで、俺、無視というかなんも声かけられないっすか」
ガシャガシャと防具を鳴らしながら、早歩きのワトソンに声をかけた。
「まぁ、新人だからな。誰も興味ないよ。それよりも仕事をこなすので忙しいからな……お前、どんだけ構ってちゃんなんだよ。今は、任務遂行することだけ考えろ」
「……うっ。はい。すいません」
いつも話しかけられることが自然だったヨクドリアにとって、誰かに声をかからないことが嫌だった。最初は王様に文句に言いに入ったお城の中、警戒心はすっかり溶けて、兵士になることに夢中になり始めた。イライラしていた気持ちがどこかに行ってしまう。親の想いはどこにいったのか本人もわからない。
ボロボロだった服がこんなに立派な鎧を着せられて、テンションが上がってしまった。まっすぐに伸びた赤いじゅうたんを進むと大きな扉が目の前にあった。
「ここだ。余計なことを言うなよ? 難癖ある武器屋だからな」
「な?! どういうことですか」
ヨクドリアは、ワトスンの言葉に耳を疑った。ぎぎぎと扉が鳴る。開けると、すぐに顔に蝙蝠が飛んできた。両手で必死でよけたが、次々と迫ってくる。
「わぁー、血ー吸われるぅ」
「まぁ、失礼しちゃうわね。吸うのはこのあ・た・しよ」
「え、吸血鬼?!」
モンスターだと思ったヨクドリアは、腰にしのばせていた短剣を振り上げた。ワトスンは、血相を変えて、ヨクドリアの行動をとめようとした。
「バカ! やめろ。刺激になるだろ」
「あらぁ、ずいぶんと意気の良い子ねぇ。嫌いじゃないわ」
さらに蝙蝠が増えて、ヨクドリアの頭に覆いかぶさる。せっかく装備した金属製ヘルメットが外されて、黒いアフロのかつらをかぶさられる。
「な?! なんでこうなるんですか」
「言わんこっちゃない。かなり武器買うまで時間かかるぞ」
「君、新人さん? アフロ似合うわねぇ」
ニューハーフの武器屋の店員は、吸血鬼のベネット。すぐ近くにはお昼寝できるように棺桶が置いてあった。頭の上ではたくさんの蝙蝠が飛び交っている。登場にものすごく迫力があって、武器があることを忘れてしまう。じっくり見ると、商品棚にはたくさんの武器が並べられていた。ブロードソード、レイピア、シックル、グレートアックスなど武器の種類は豊富だ。
「頭に全然武器の情報が入ってこない……」
「ああ。ここは、ベネットの沼にはまる武器屋だ。一番いいのは何も反応しないで買い物することだな」
アドバイスしたが、すでに遅かった。ベネットは蝙蝠をまとわりつかせて、ヨクドリアに急接近している。冷や汗がとまらない。
「イケメンじゃない? 私のフィアンセになる?」
ヨクドリアは、首をぶんぶん横に振って、顔を青くさせた。
「ぶ、ぶ、ぶ、武器をください」
「……チッ。つまらない男ね」
バシッと棚に並べられた剣を渡された。売り方が雑だ。
接客のふり幅が大きいのだろうか。
ヨクドリアとワトスンは、そそくさと立ち去った。
ヘルメットと鎧を装備し、武器も手に入れたヨクドリアは胸がいっぱいだ。コレクションが揃った気分だ。まさかこれで戦いに行くなんて信じられなかった。
ワトソンに訓練に行くぞと言われた瞬間、石のように動かなくなった。




