第8話 思ってもみないこと
ヨクドリアはアリテリオ帝国の兵士2人に両腕を抱えられて、王座の間に着いた。冠のお手入れをしていた王様は、モノクルをかけ直して、ヨクドリアの姿を頭の先からつま先までじっと見つめた。一瞬、沈黙になる。横にいた兵士もぽかんとした顔をした。
王座の間に座り直して、びしっとヨクドリアの顔に指をさした。
「採用!!」
「はっ!」
何が起こったかわからずに、ヨクドリアは首を右や左を見て困惑する。横にいた2人の兵士は、ヨクドリアから手を離した。膝をついて、お辞儀をする。
「王様、どういうことですか! 俺は、ただうちの店を壊した兵士のことを訴えに来ただけです。さ、採用って、何も志願してません」
「……店を壊しただと?」
「ええ、そうです」
「古いから立て直そうとしていただけじゃないのか?」
後ろを向き、横目でじっと壁を見る王様は、静かに言う。ヨクドリアは、理解ができなかった。
「すぐに店を新築に建て直せ。今すぐにだ」
「はッ!!」
2人の兵士は、向きを変えて急いでヨクドリアの店を直すよう建築家と大工に指示を出す。
ダーリオ・カゼッラ王は、そっとヨクドリアの横に移動して、耳打ちする。
「さて、2人になったなぁ。お店を新築にするんだ。それなりの代償があるってことは気づいていたか?」
「代償?!」
「等価交換って言ってもいいなぁ」
「な?!」
「有無は言わせないぞ」
ダーリオ王は、ポケットから光る水晶を取り出した。手をかざすと、その中から突然大きく赤いドラゴンが現れた。ヨクドリアは、腰を抜かし、後ずさりする。
「な、なんだ。これ。でかい!?」
「言うことを聞かなければ、お仕置きだ」
ダーリオ王は、腕を振り上げて、指をさし、ドラゴンに指示を出す。目をぎょろとさせたドラゴンは、首を思いっきり動かして口から大量の炎を吹きだした。自分の足にあたりそうになったヨクドリアは、慌てて逃げる。逃げ足は速かった。
「まだまだ行くぞ」
懲りずにダーリオ王は次々にドラゴンに指示を出す。ヨクドリアは、次々と迫ってくるドラゴンの炎攻撃をよけきった。こわがりながらも逃げ足は速かった。走りすぎて、息があがる。
「ほぉ……やるなぁ」
扉の前に差し掛かる頃、もう無理だと目をつぶる。ダーリオ王は、指をパチンと鳴らした。一瞬にして巨大なドラゴンは消えて行った。小さな水晶玉に吸い込まれていく。
「な、なんだったんだ……」
「採用最終試験も合格だ」
「な、何?!」
「お前には、兵士として働いてもらう。頼んだぞ」
ヨクドリアは、いつの間にか、希望もしない兵士の採用試験を受けることになり、そして合格してしまう。王様に訴えに来たはずが、兵士採用されたにも関わらず、なぜか牢屋に閉じこまれるという始末。
「ありえないだろーーーー」
ヨクドリアの声が、城の外にまでこだまする。
「うっせーぞ」
近くにいた兵士に叱られて落ち込むヨクドリアだった。
ヨクドリアは、ここからアリテリオ帝国の兵士として働くこととなる。




