第16話 鍛えた剣術を示すとき
パチパチと火の粉があちこちに舞っていた。ここも、もうじき火の海になるだろう。王座の間も柱が崩れかかっている。残酷にも深紅色のカーペットにはダーリオ・カゼッラ王の首が転がっていた。瞼がギラリと開いたままだ。ヨクドリアは拳をぎゅっと握りしめ、持っていたグレートソードを持ち換えた。目の前には、ギェナコビン帝国の統帥のラフィタビの姿があった。紺碧色のオーラを身に纏い、使いこなしているであろう銀色のレイピアを鞘から引き抜いていた。
ケンタウロスとワトスンは、ラフィタビの兵士たちに槍を向けられていたため、抵抗は不可能であった。
ここは、ヨクドリアとラフィタビの2人の対決ということになる。邪魔をする者は誰もいないが、いつ崩れるかわからない建物が燃え盛っているため、時間は限られていた。
「悠長に相手している時間はない。ここで死ぬか。私に降参するか。どっちを選択するんだ?」
相手をするのも無駄と考えたラフィタビはヨクドリアに選択肢を与える。負けを認める答えなどしたくないのは当然の摂理だ。
「うぉおおおおーーーーーーー!!!」
大きな声を張り上げて、果敢に挑むヨクドリア。ケンタウロスの厳しい訓練の成果が見えた。幼少期の頃から父ヨナタンとチャンバラごっこしていたのも意味があったと心にほんのり火がついたようだ。額から汗が飛び散る。周りの燃え盛る炎が迫り狂う。逃げることはできない。炎が目の前に迫り、ラフィタビのレイピアも容赦なく押し寄せる。手加減などこれっぽっちもない。顔すれすれにフェンシングの競技をしているかのように、突き出して来た。ヨクドリアの頬に1本の赤い線ができた。血が噴き出した。
「チッ……」
ヨクドリアは、思わず、手のひらでふき取った。体中が熱くなる。炎もさることながら、お互いの熱気が冷めなかった。
「さぁ、もう降参ですか? 私はいつでも構いませんよ」
ラフィタビは高音を鳴らして、レイピアを振り上げ持ち直した。にやりと嘲笑う。
「ヨクドリア! 諦めるな。そのまま行け!」
とケンタウロスが必死で叫ぶ。兵士の力に負けまいと体をつき出した。
「俺たちのことは気にするな! 今は、戦闘に集中だ!!」
ワトスンはひょろ長い兵士に頭突きを交わして、攻撃を回避した。
「私に歯向かうなど、十万年早いわ!!」
ラフィタビの指先にピリピリとした光が集まった。レイピアを振り上げたラフィタビの剣先から稲妻が轟き落ちた。炎だけではなく、稲妻の力により、 ヨクドリアの全身に電気が走った。剣先の打ち合いとすると勘違いしていたヨクドリアはまさかの相手の魔法攻撃に唖然とする。
「う、嘘だろ……」
ヨクドリアは膝から崩れ落ち、ぱったりと正面から体が床へ倒れた。辺りは炎に包まれ、体まで燃えつくす勢いだ。
「全ての者を連行しろ!」
「「ハッ!」」
レイピアを鞘におさめたラフィタビは、槍を持った兵士二人に指示を出し、ヨクドリアの体を運ばせた。まさかのヨクドリアの戦いに意気消沈していたワトスンとケンタウロスは立ち尽くしていた。
「さぁ、君たちもついてくるんだな。もう、反論はできないんだ」
二人は、兵士たちにそれぞれ手錠をはめられ、反抗もできずただ静かに着いていくことしかできなかった。