第15話 灰が舞い散るアリテリオ帝国の王座の間
ギェナコビン帝国の統帥であるラフィタビは、兵士を引き連れて燃え盛る炎に囲まれた王座の間に座るダーリオ・カゼッラ王に話しかける。
「ここまで簡単に攻撃させてくれるとは、反撃する気はないのか」
アリテリオ帝国がギェナコビン帝国に吸収合併させられようとしていた。ダーリオ・カゼッラ王はもう、手立てがないと命奪われてもいいと思っていた。諦めて、王座の間で大人しく座っていた。
「予告はしてないだろう。もういいんだ。私は戦争が嫌いなんだ」
お城だけではなく、街にも火の粉が舞い散っている。この国はまもなく、終わりを迎えようとしていた。
「まぁ、そう、すぐに命を捧げるんじゃない。いい案を提案しよう」
炎が近くに迫っているというのに、ラフィタビは口角を上げて嘲笑う。ダーリオ・カゼッラ王は目をつぶって何の話をするのだと耳を傾けた。
「何の反論もないんだな。アリテリオ帝国も終わったな」
「王ではなく、統帥と話すとは考えてもいなかったよ……戦争をする前に国を滅ぼすことになるとは、私も頭が回らなかったよ」
「ハハハ……そうだなぁ。王もアリテリオ帝国などすぐに落とすだろうとおっしゃっていたよ。まぁ、命だけは残しておいてもいいって話だ。さぁ、どうする? いい案に乗るのか」
「NOなんて言えないだろう? ああ、いいだろう。命が助かるのなら」
ラフィタビは持っていたブロードソードを引き抜いて、息を荒くして入ってきたヨクドリアとワトスン、ケンタウロスのそばに駆け寄った。弱そうなヨクドリアの体を引っ張り、首に刃を突きつけた。
「さぁ、こいつの命はない。今すぐ、 アリテリオ帝国はギェナコビン帝国の傘下に入ることを誓え!!」
「私の命を差し出したつもりだが? その者は関係ないだろう」
「ああ?! 誓えないというんだな?!」
「王様!! 私は命がどうなろうとも気にしません。誓ってください!!」
「おう、おう。威勢のいいやつだ」
「「ヨクドリア!!」」
ワトスンとケンタウロスは大きな声で叫んだ。声で救えるわけがないと分かっていても、今は声を出さずにはいられなかった。
「一歩でも動いてみろ。こいつがどうなるか……」
「くっ……」
ワトスンは剣を構えて、闘いを挑もうとしたが、どうしようもない。ケンタウロスも魔法を唱えようとするが、動けない。どうすればよいかわからない。
ダーリオ・カゼッラ王は一大決心をして、王座から立ち上がり、その場にひれ伏した。土下座をして、降伏の意思を示した。
「わかった。もう、負けを認める。負けを認めるから、その者を助けてくれ。私の命を……」
「弱い! 弱い弱い! こんな王と闘おうとしていたなんて、ギェナコビン帝国も落ちぶれたものだ!」
腕の中にヨクドリアの体をがっしりとつかみ、 ダーリオ・カゼッラ王の前にじりじりと寄った。持っていたブロードソードを上から振り上げた。両手を震わせて、土下座をしていたダーリオ・カゼッラ王の首がゴロンと落ち、返り血がヨクドリアの顔を染めていった。
「ハハハハ……これでいいんだ。これで」
腕の中に首根っこをつかまれて身動きとれないヨクドリアはそのまま連行された。両脇には兵士たちがしっかりと守りを固めている。
「ヨクドリア!! 今助ける」
ワトスンが、刀を引き抜いて立ち向かう。
「刀を抜け! 練習の成果を見せてやれ」
ケンタウロスは、回り込んで出口を塞ごうとする。王の死に悲しんでいる暇はなかった。今は、崩れかけた微かな望みをヨクドリアに賭けようとしていた。
ヨクドリアは、亡き王の姿に絶望し、声を殺して泣いた。沸き上がる復讐心が芽生える。体をつかまれていたが、刀を引き抜いて、力いっぱい限界まで振り絞って攻撃しようとした。
「弱い者と闘う時間は無いんだ……」
ラフィタビは、側近である兵士を構えて持っていた刀を持ち換えた。体から湧き上がるオーラを集め始めた。それを見たヨクドリアは唾をごくりと飲み込んだ。