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第13話 アニューゼの胸騒ぎ

 雲ひとつない真っ新な青空だった。商店街の通路で小さな子供がシャボン玉を吹いて楽しんでいる。きゃははと笑い声が響き渡っていた。

 果物や野菜、家畜の豚肉、鶏肉、卵など生活必須品を売っているなんでも屋のシリオット家のお店は今日もお客さんでいっぱいだ。


 店番に立っていたのは、ヨクドリアの妹のアニューゼ。

 ふわふわの天然パーマとそばかすがチャームポイントで看板娘だった。

 兵士たちに壊された店も王様の命令で綺麗に建て直されていた。

 レンガも丈夫に内装はおしゃれだった。


 父のヨナタンも仕入れたばかりの活きの良い魚を籠に乗せて鼻歌を歌いながら商品を並べていた。横で通りすがりのおばあさんに会計をしていた母のマヌエーラも元気に対応している。


 ヨクドリアを兵士として雇う代わりに店を新調してくれるという王様の命令は、断ることはできなかったが、こんなにもうまい話はあるのだろうかと思いながら、平気な顔して人身売買ではないかと疑うこともしない。勝つ見込みのない戦争に差し出されることもあるというのに、両親は店が綺麗になるのなら息子の命など気にもしないと心にもないことを考えていた。罪悪感はない。自分たちが生きるためならと致し方ないことだと思っていた。


「お母さん。そろそろ、お野菜売り切れちゃうわ。トルビョルンおじさんの畑から買い取ってこようかしら?」


「そうね、午後も買い物に来るお客さんいるだろうから。アニューゼ、お願いしてもいい?」


「ええ。任せて。んじゃ、行ってくるわ」


 アニューゼは着ていたエプロンを脱いで、大きなバスケットを持っていた。


「えっと、必要なのは、アスパラガスとカリフラワーね。それと人参と……」

「あ、お金と差し入れも忘れずに。ほら、最近入ったクラフトサイダーがあるわ。トルビョルンおじさんが好きなのだから、持って行きなさい」

「そうなのね。わかった。行ってくる」


 紺色の髪をポニーテールにした母のマヌエーラは、 アニューゼにガラス瓶にサイダーとお金が入った花柄パッチワークの布ポーチを手渡した。ずっと店番をしていたアニューゼにとって、外出は気分転換になる。


「気を付けて行くんだぞ」

「はーい」


 父のヨナタンは長女のアニューゼに対しては、心配症だ。男だと思ってヨクドリアの方はさほど気にしない。そんな平和な空間のアリテリオ帝国の城下町の上空でプロペラが何度も回る音が大きな音を立てて、飛び回り始めた。あんなに快晴で清々しい天気だった空も徐々に曇り空に変わる。

 アニューゼは、大きな城の門を開けてもらおうと門番に声にかけようとしたが、一切応じなかった。


「どうしても、隣町のコリウスまで行かないといけない。そこを通してくださる?」

「無理だ。今はどの者も通すことは許さない」


 門番の2人はスピアをクロスさせて、アニューゼを通さなかった。


「どういうことなの。それは王様の命令なの?」

「…………」


 力強い眼差しで睨みつけてくる。何も言わずにスピアが重なり合う音が響いた。アニューゼは体当たりして行こうとしたが、それでも門を開くことはなかった。舌をペロッと出して、あっかんべーをして走って逃げた。イライラがおさまらない。どうして、制限をかけているのか不思議だ。いつでもここに住民や観光客を招いてもいいように開いていたはずだった。様子がおかしい。空では、不穏な空気の雲とたくさんのヘリコプターが飛び交う。さらにその上には風船のような飛空艇がアリテリオ帝国の城へ向かっている。そこには兄のヨクドリアがいるはずだ。


 アニューゼは変な胸騒ぎを感じる。お城から出ることを辞めて、お店の方に急いで戻った。途中、行き交うたくさんのお客さんの一人の男性の肩にぶつかって、丁寧に謝った。


 野菜が入るはずのバスケットは空っぽのままだった。

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