第10話 緊張感が増してくる
真新しい防具と武器を装備したヨクドリアは、ワトスン・チルダーズの後ろを着いて歩いた。アリテリオのお城の中は、広すぎてしっかりと道を覚えていないと迷ってしまいそうだった。
「おいおい。ぼさっとしてないでしっかり歩けよ」
「す、すいません。気慣れない防具が重くて、早く歩けなかったんです。今、コツをつかんだので、大丈夫です!」
「大丈夫か? 先行きが思いやられるなぁ」
ヨクドリアは必死でワトスンに早く追いつこうと早歩きの後ろを追いかけた。途中、他の兵士に何度も会うが、新人のヨクドリアのことなど目に一切触れず、空気のような存在だった。腹が立って、睨みつけると、ガタイの良い兵士に殺されそうなくらいに睨み返された。
「なんだよ。お前」
野太い声だった。
「はっ! すいませんすいません……」
体を小さくさせて後退する。首根っこをワトスンにつかまれた。
「ヨクドリア、何してるんだよ。ここで敵作らないでくれよ? あいつは特に手をつけられないくらい強いんだからな」
「マジっすか」
逃げてきたはずなのに未だにずっと睨んできている。目が恐ろしく怖い。
「あれはガレオ・ラペルトリ。片手斧の名手だ。あいつに斧持たせたらやばいぞ」
「……ま、マジっすか。こえぇえー」
身体が震えるくらい恐れた。ワトスンは、ヨクドリアの首をつかんでズルズルと進んだ。
「そういうわけだから。余計なことはせずに大人しく後ろついて歩けよ。これから、お前の強化訓練なんだから」
「きょ、強化訓練?!」
「当たり前だろ。さっきの買った武器を活かさないと戦場にいけないからな。もちろん、今持ってる武器だけじゃなくて、いざとなったら、なんでも武器を使いこなせないとな」
「なんでっすか?」
「今持ってるお前の武器が敵に奪われたりして、足元に落ちてるのが片手剣とかさっきのあいつが持ってた片手斧だったりしたら、お前どうするよ?」
「た、確かに……。使えなかったら死んじゃう」
「そ。兵士はいつでも戦えないといけないんだ。まぁ、強さは人それぞれだけどな。命がけだし。使えないよりは使えた方がいいわけだ。俺は、全部使いこなせるわけじゃねぇけど」
「え?! 先輩も使えないんすか」
「そりゃぁ、ある程度の訓練はしたよ。だけど、ここにある武器だけしかできないだろ。世の中にはここにある武器以外にも特殊なものもあるし、この国の弱点は銃ものが少ないところ。火薬の扱いが難しいからなぁ……まぁ、ダイナマイトはあるけども。集団攻撃には長けてるんだが……」
あごに手をつけて悩むワトスンにヨクドリアは手のひらをポンッとたたいた。
「もしかして、手榴弾ってやつですか?」
「お? 知ってるのか」
「名前だけ知ってました」
「ふーん。まぁ、そういうのを扱えるといいわけよ。剣使うより少し離れたところから攻められるだろ」
「確かに」
「そういうの含めて、俺なんかよりたくさんの武器使いのご師匠様がいるからさ。こっちだ。心してかかれよ。あの人は厳しいから」
ワトスンは、鼻息を荒くさせて、訓練広場へと向かった。喉をごくんと鳴らして、ヨクドリアは深呼吸した。ワトスンはあごをくいっと動かして誘導する。扉の向こう側から剣のぶつかる音と怒鳴り声が聞こえてくる。
緊張しながら、『訓練所』と書かれた看板の茶色の木製の大きな扉を開けた。