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彼の本音

「だいじょぶ?なんか考え込んでるけど……やっぱり、迷惑だった……かな?」


反射的にそんなことない、というセリフが喉の奥まで出てきて、しかしそこからなにかにせき止められたかのように、言葉だけが押しとどめられ、言葉になり損ねたかのような、中途半端な吐息が空に霧散する


俺はその迷惑という2文字に、今日のことだけではなく、こんな状況になるのであれば、俺と海月と過ごしたことが、海月と出会ったこと自体、間違いだったのではないかという風な海月の不安が感じられた……ような気がした


考えすぎかもしれない、しかし、もし海月がそのような不安を抱えているのだとしたら、こんな反射的に出てきた言葉だけでは満足出来ないであろうし、何よりも、俺が気に入らない


かと言って、ある程度整理は着いたとはいえ、未だにごちゃごちゃと乱雑に散らかされた頭で必死に考えようとしても、まるで雲を掴むかのような感触で、今の、そして過去の自分の心を表す言葉を掴むことが出来ない


沈黙が場を支配する、辺りはガヤガヤと騒がしいというのに、俺達の周りだけが真空になってしまったかのような、そんな息苦しい感覚に陥る


「……そっか」


やがて、海月がほうっと諦めたかのように息を吐き、申し訳なさそうな表情を浮かべる


「なんか……ごめんね?我儘言っちゃって」


違う、謝る必要なんてない、そうは思っても、俺の口はさっきと同じで言葉を発することは無い。俺は軽いパニックに陥る、海月がなにかを言っているが、何も聞こえない、いや、聞こえているはずなのに、その言葉の意味が理解できない


海月は一頻り何かを言い、取り繕ったようなハリボテの笑顔を作った後、振り返り、どこかへ行こうとする、俺は一瞬呆然とその姿を眺めた後、縋るように海月に手を伸ばす、しかしもう既に手の届く距離には海月はおらず、伸ばした手は空を切った


ならば海月に追いつこうと思っても足が言うことを効かない、効いて、くれない

こんなので終わり…?嫌だ、俺たちの最後がこんなのだなんて認められない、何より…まだ海月の笑顔を見れてない、こんなハリボテのような笑顔じゃなく、心の底から笑った顔が、俺はたまらなく好きだった


俺がこんなことを考えているうちに、彼女の姿はもうかなり小さくなっていた、きっとこの瞬間を逃してしまったら、もう彼女には二度と会えないだろうという確信がある


何かを言って彼女を呼び止めるしかない、しかし、今俺は言葉を発することが出来ない…いや、違う、俺は、伝えたい言葉が多すぎて、詰まってしまったんだ


いやだ、行かないでくれ、待ってくれ、まだ一緒にいたい、こっちに来てくれ


様々な言葉が頭の中に浮かんでは消える、こんなんじゃダメだ、頭を整理するのはもう無理だ、ならばせめて、落ち着いて、最初に思いついた言葉を言ってしまおう…きっと、こんな時に出てくる言葉は、俺の本心に違いないから


「好きだ」

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