人間社会調整課
今日も我が社の人間部人間社会調整課は大忙しだ。各地のパワースポット、宗教的建造物から送られてくるクレームの山を見ると、思わず深いため息が出る。
「えー、なんか今回多くない? 前回も多かったけど、倍くらいあるじゃん。」
「当り前じゃないですか。この前流星群イベント開催して、流れ星たくさん放出したからですよ。」
後輩がクレームの書類を種類ごとにファイリングしながらそう答える。
「そんなイベントなんでやったんだよぉ。俺ら神だって、何でもかんでも叶えられるわけじゃないんだからさ。」
「『下界からのお願いは全力で叶えるのが神の仕事だ』って、先輩言ってましたよね。私が入社した時に。自分で言ったことなんですから、ちゃんとやり遂げてくださいよね。」
「えー、でもぉ。その『お願い』って名前のクレーム、さすがにこれは多すぎっていうかー。」
「ここにあるクレーム全部に対応するわけじゃないんですから、気合入れていきましょうよ、先輩。私、コーヒー淹れてきますから。」
後輩がファイリングした書類を私の前に置き、席を立つ。私も重い体をどうにか起こして、書類に目を通す。
「『新しいゲーム機が欲しい』、『さつかーぼうるがほしいです、』こういうのは君たちの親に当たるユーザーに言ってくださいねー。」
私は戻ってきた後輩に、一番上のファイルを渡し、処分するように言った。
「まあここら辺のクレームは親に言ってくれってなりますよね…… でもよく考えてみてくださいよ。この子たちは、親の影響でどうしても買ってもらえないんじゃないんですか? 最近は『親の影響で夢を諦めたことが最大の後悔』って閻魔さんのところで喋る人も多いらしいですよ。」
「じゃあ、前みたいに親の影響力をナーフする?」
「それはそれで子供ユーザーの事故死とか、育児ノイローゼのユーザーとか増えて大変でしたし、さすがにダメですよ。」
「だろ? わかったらさっさと処分してきて。」
次のファイルを手に取り、コーヒーをすすりつつクレームに目を通し始める。
「『長生きできますように』『病気にかかりませんように』かー。こういうのは地球部災害担当課とか人間部死神課の人とも相談しないといけないからなぁ。」
「地球部の人たちは慈悲とか無いですし、死神さんたちは怖いですからね。私も触れたくないクレームです。」
「とりあえず保留で、他部署にも共有しといて。」
「りょーかいでーす。」
後輩がパソコンにメッセージを打ち込み始める。私はどうしたものかと考えながら、揺らめくコーヒーの表面を見ていた。
「先輩は、人間の寿命を強化するつもりなんですか?」
後輩が突然こちらを見つめ、そう質問してくる。
「いや、そうは思わないかな。他の部署からの風当たりが強いんだよ。それがすんなり通るような会社なら、この課の人数はこんなに減ってないよ。」