第二章 出会い
「まさか、そんな。」
歩き出そうとした僕の背後から声がした。その声のあまりの近さに驚いて、飛び跳ねるように急いで後ろを向いた。声の主は目と鼻の先――例えではなく本当に目と鼻のちょっと先にいた。離れて見上げると黒髪に赤い瞳の青年だという事が分かった。
青年は僕以上に驚いた様子で、まじまじと僕の顔を、そして姿を見ている。急に自分の姿が恥ずかしくなって、僕はもじもじした。
「いや、これはその気がついたらこの格好をしていたんだ。おかしいよね。」
笑われるかと覚悟したが、青年は真面目な表情をした。
「いいや、おかしくないよ。アリスはエプロンドレスだと掟で決まっているからね。」
「アリス?掟?」
「アリスはアリス。掟は掟だよ。」
「逆の逆だよ。忘れちゃったのかい?アリスは君の名前で、掟はバンパイアの掟さ。」
ひょっこりと青年の後ろから、青年と同じ顔をした別の青年が現れた。多分というか、確実に双子だろう。
どうやらアリスという人物と間違われているらしい。バンパイアという単語が気になったが、まずは訂正をする事にした。
「違う。僕は火来灯信乃だ。貴方達は誰なの?」
僕が言い終わると、二人は顔を見合わせた。そして悲しげに、それでいて心配そうにこちらを見た。
「何も間違ってはいないよ。アリスは君だ。白の女王様から賜った君の名前。」
最初に会った青年が優しく言った。その声よりもやや高い声のもう一人の青年は、なにやら考え込みながら自己紹介した。
「僕はトゥイードルディー。こっちは双子の兄のトゥイードルダム。僕等は君の師匠さ。何も覚えてないのかい?」
「僕達知り合いなの?」
どんなに記憶をさかのぼっても思い出せない、分からない。そもそもここに来たのが初めてだ。
また二人は顔を見合わせると提案をしてきた。
「アリス、僕達と一緒にウールヴル来てくれないか?」
「ウールヴル?」
「バンパイアの砦だ。」
「逆の逆だよ。簡単に言えばバンパイアの家さ。」
ここでひっかかっていた単語がまた出てきた。バンパイア?僕は恐る恐る二人に聞いた。
「何で人間の僕達がバンパイアの砦に行くの?」
二人は驚いて、やがてそれは心配と不安に変わった。
「やっぱりアリスは……。」
トゥイードルディーが何かを言いかけたが、トゥイードルダムがそれを止めた。
「ウールヴルに戻ってから、みんなと話そう。」
「そうだね。」
いったいなんだろう?
「話を途切れさせてごめんね。いいかいアリス、僕達と君はね」
いったん間を開けてトゥイードルディーは驚くべき事を言った。
「バンパイアなんだよ。」