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アルテミスと村の子供たち


 ここパル村は、隣国との戦争状態を忘れてしまうほど穏やかな時間が流れていた。大きな町で時節発生する黒い霧やそれに伴う民たちの疲弊もここでは無縁のようであった。


 アルテミスは村の中でのんびりした時間を享受し、徐々に体を地上に馴染ませていた。そんな彼女に村の子供達は毎日のようにアルテミスを見つけると走って近寄ってくる。今日も子供たちはアルテミスが珍しいのか、あとをくっついてまわり、田畑の風景をのんびりと眺めているアルテミスの頭に虫をつけたり、フードをとって髪の毛を引っ張ったりして注意を引こうとしている。それをすっかりアルテミスの侍女と化しているマリーが注意していた。

 

 アルテミスはなにをされてもニコニコした表情を子供たちに向けて追い払ったりはしない。


「幸せな風景だわ、ほほほ」


「ねえ、向こうに古い神殿があるんだよ」


「うんうん」


「あっちには綺麗なお花畑もあるよ」


 子供たちが服を引っ張りながら行こうよとねだってくる。


「へー、お花が咲いているの? 行ってみようかしら」


 アルテミスは立ち上がって服についた土をパンパンと払い、「案内してくれる?」と子供達に言い、子供たちも喜んで彼女の手を引っ張った。


 それからしばらく森の中を歩くと開けた場所があり、そこには子供たちが言っていたように花が所狭しと咲き乱れていた。


「綺麗ね、こんな場所があったのね」


「お母さんにお花を摘んで持って帰ったりしてるよ」


「綺麗でしょ」


「すごいでしょ」


「ええ、綺麗だわ……」


 アルテミスは目の前に広がる風景を見てつい女神界に咲いている花を思い出してしまった。みんなどうしてるかしらと突然の別れに少し悲しい気持ちがしたのだった。


(もう少し地上に体を馴染ませれば、いずれ直接イシュタル達と連絡を取ることができると思うのだけど……)


 そう思いながらアルテミスは花たちを見ていると、綺麗に咲いている花がある一方で、すでに枯れている花も所々にあるのを発見する。その枯れてしまった花たちを見てアルテミスは妙に可哀そうな気持ちになった。


「そうだわ、お礼に枯れてしまっているお花がまた元気になる姿をみせてあげるわ」


 アルテミスは子供たちにそう言うと、魔法を繰り出すべく念じる。


「花の命よ、今一度甦れ」


 そう念じた刹那、花畑一面が光輝き、枯れていた花の生命がまるで時間を巻き戻したかのように返り咲いた。咲いていた花はさらに輝きを増し、色は鮮やかになっている。花たちは陽の光が当たってより一層、キラキラと輝いた。


「すごい⁉」


「どうやってやったの」


 子供たちとマリーは一様に感動している。

 

 アルテミスはそんな皆の反応に喜んだ。この村では確かに魔法を行使する人は見かけていない。子供達からすれば魔法を見ることそのものが新鮮だったのだろう。 子供たちの目がキラキラ輝いているのを見るとアルテミスはあらためてこの世界に平穏を作り出さなければと決意を新たにしたのだった。


 それからしばらくこの場所で子供たちとマリーとお喋りに興じていると、この平和な空間が一変する出来事が発生する。その変化にいち早く感づいたアルテミスは立ち上がって空を見上げた。彼女はこの空間に闇の魔力が漂っているのを感知したのだ。その魔力は瞬く間に広範囲に広がっていき、パル村の空を覆いつくす勢いで広がっていっている。そしてその空間に漂った魔力は徐々に黒い霧へと変化し、あっという間に辺り一面の空気を黒く変色させた。

 

「これは⁉ ま、まさかなんで」


 この霧を出先の町で経験したマリーが驚いて声を上げた。


 その間にも発生した黒い霧はあっという間に村全体を包まんとしていた。あんなに晴れていた空も陽が遮られ、先が見通せないほど暗く変化してる。アルテミスの魔力を浴びた花たちまでもが暗い闇の中へと沈んでいた。

 

(これは……空間魔法、村を攻撃しているの? この村を不治の病に包んでどうしようというの? ……まさか、私のことを敵が感知したのかしら?)


 そう理解した瞬間、アルテミスの銀色の目が一層輝きを増し、体から淡い光が漏れだした。彼女の美しい顔がたちまち渋面に変化している。


 アルテミスは激怒した。



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