断罪の時
運ぶことを申し出たジャックは、アルテミスを横抱きにして一気に階段を駆け上る。アルテミスは早いわねとご機嫌だ。
途中の時計があるところを無視して天辺の鐘があるところまで登ってきた。
時計塔の天辺は想像通り見晴らしがよく聖都を見渡すことができる。
(うーん、音が届く範囲かしらね……その前に戦闘を先に終わらせましょう)
アルテミスは音が鳴っている彼方を凝視する。すると白銀の目が光はじめそこを見通した。
ローラシア兵だろうか、闇の衝撃でなすすべもなく戦死している。一般魔法で応戦してはいるが、全く相手の魔法壁を打ち破ることができていない。盾でなんとか踏ん張りながらずるずると後退していき、安全な南地区に迫りつつあるようだ。敵は前進しながら魔法弾と魔法砲を撃ちまくってあたり一面を焼け野原に変えている。
(あなたたち魂を黒く染めている者がこの聖地に足を着ける許可を出した覚えはないのよ)
心の中でそう言うと、アルテミスから銀のオーラが放出された。
「さあ、エデンよ、聖なる力を示せ」
その言葉を合図に銀の光がアルテミスの前に集まりはじめ、その光は徐々に美しい白い杖に変化した。エデンはアルテミスの前に宙に浮いて停止し、彼女の命令を待っているかのようである。そして彼女はエデンを前に置きながら片腕を胸から真っすぐに突き出し、指まで一直線に伸ばす体勢をとって念じる。
「罪ある魂よ、聖なる力に跪き、断罪の時を待て」
エデンは主の命令を受けると、銀の光に変化し戦場へ一直線に飛んで行った……
―――聖都プリア西地区
「マクガン様、もうすぐ南部地区です」
「くく、ローラシア兵など闇魔力の前では屑みたいなもんだ。ハハ、見てみろ、ゴミのように吹っ飛んでおるわ」
闇魔力の前にローラシアは防戦一方になり、何とか撃ちだした反撃も相手の防御壁を打ち破ることが出来ず、ズルズルと後退して死体の山を作り出すしかなかった。
「バルトス王子の首を持ってこい、それでローラシアも終わりだ」
そのバルトス率いるローラシア軍は南部地区を背にして混乱を極めていた。
「ひ、退け! なぜだ! こちらの防御壁が全く効かない!」
―――ドドドド
人が防御壁ごと空に吹っ飛ぶ。人の形を残しているだけ幸いだった。直に食らった兵は一瞬で体ごと消え失せていたからだ。
「まずい! どうする! このままでは南部が……」
「殿下、全滅を避けるならばもう逃げるしか……」
「バカを言うな! 後ろに住民がいるというのにそんなことできるわけがないだろう! ん? 待て! 何だあれは?」
バルトスが見上げた空にはまるで彗星のごとく銀の光が飛んでいた。その光は戦場の上空で急停止するとその場で一気に銀の光を散らした。
「……なんだ?」
そしてバルトス達ローラシア騎士、聖騎士、聖師団の面々は、突然、目の前に現れたものに誰もが立ち尽くした。この静止したかのような時間で、即座に後退しなければならないのにそれが誰もできずにいる。
だが、彼らが呆然とするのもしかたがない。なぜならバルトス達と闇暗部兵の間に光輝くギロチンが現れたからだ。そのギロチンは建物ほど大きく、すべてを見るのには見上げなければならない。それは透明でありながら美しく銀色に輝いていた。しかし美しいはずなのにその形作ったものが異様であったのだ。敵も味方も皆が呆けて見ていると、その光のギロチンは唐突に上にあった銀の刃が下へと落ちた。
その刃が下に落ちた時の音はゴーンという腹に響くような大音量を辺りに響かせる。そしてその音がした後、闇暗部兵達に異変が起きた。
「ぐっ!」
「げっ!」
ローラシア軍の前にいた暗部兵二十人程の首が一斉に落ちたのである。そしてその銀色のギロチンはまるで意思があるかのように、次に向けてまたゆっくりうえに上がっていく。そして再び下に落ちると、今度は倍の四十人近く暗部兵の首が落ちた。
「なんだこれは! 魔法か? う、撃て! 早くしろ!」
マクガンの声に生きている暗部兵は正気を取り戻した。一斉にそれに闇弾を当てる。しかし、いくら撃てども闇弾は光で出来たそれに吸収されびくともしない。
「ぐあ!」
その間にも次々とギロチンの刃は落ちる。ゴーンという音がマクガンの恐怖心を煽った。
―――ゴーン
「あ、あれは聖属性だ! 闇防御壁を張れ! 何重にもだ! お、俺に張るんだ!」
マクガンは順番に味方の首が飛んでいくことに恐慌状態に陥っている。
「くそ! どうなってるんだ! や、闇の砲撃!」
彼は苦し紛れに砲撃を当てるが、やはりびくともしない。しかもその衝撃波はギロチンが大きな壁になってバルトスの方へいかない、衝撃波も打ち消していたのだ。まるでそれが立っているところを境界にして天国と地獄を演出しているかのようだった。
―――ゴーン
「ぐあっぁぁ……」
とうとう目の前の味方が崩れ落ちた。マクガンのもとへその音は確実に近づいている。
彼はもうだめだと、ものすごい形相をしながら後ろへ走った。持っていた黒い杖を邪魔だと言わんばかりに捨てて全力で逃げる。彼の頭には防御壁などもはや意味がないことがわかっていた。しかも、遠くへ全力で走っているのになぜかギロチンの音は彼の耳近くで聞こえている。それでもマクガンは走りながらその音をなんとか振り切ろうとした。しかし、どんなに走ってもその音は彼の耳から離れない。やがて彼にはその音が死へと誘う恐怖の音楽に聞こえた。そして最後に死ぬこと以上にその音を聞きたくないと願ったのだった。
その後、仕事を終えたギロチンはキラキラと銀の光に変化して嘘のように一瞬で消え失せる。
バルトス達はというと、誰もが無言のまましばらく動けなかった。




