大聖堂復活に向けて
リリア聖国首都プリアにある大聖堂は、町の中央に建てられており、そこから緑豊かな街並みが広がっている。区画は東西南北に大きく分けられ、それぞれの地区に代表者を置き、さらに地方地域の代表者、地域教会代表者達がこの大聖堂へと集まる。
代表者には原則として聖者が望ましいとされているが、実際は有力な貴族も多く、合議制のもとで行われる決定には強い権力を示す大貴族の声が優先されるといえる。しかし、大貴族といえども大聖教ジョーイ六世の言葉以上の権威は存在しないだろう。神権政治国家の使命は、女神アルテミスを絶対的存在として君臨させ、それに近い存在に大聖教という人を置くことで貴族政治に陥らない大事な役目を果たしている。いかなる時でも女神が存在していることを示すのがその政治の在り方であった。
また、大聖堂所属の騎士や聖者はここから生まれ、主神アルテミスを守る使命を言い渡される。まれにアルテミスのように聖者の才能を突発的に発揮する者が発見されるが、基本は大聖堂を経なければならない。
そんな聖国の要となる大聖堂であったが、今は敵兵の占拠によりその使命を何も果たすことができていなかった。そこに勤めていた仕官達はすでに誰もが避難してもぬけの殻である。大聖堂中央の間に置かれた大きなアルテミス像も無残に破壊され、そしてこの聖堂の主である大聖教ジョーイも暗部兵の暗殺から逃れるためもう長いことそこにいなかった。ただ騎士達、聖者達はどうなのだろうか。アルテミス像に聖約を交わした彼ら彼女らは大聖堂が機能せずとも、騎士、聖者としての使命は続いている。
聖騎士団副長ラリーは、団長ゴートンから重要な使命を受けていた。この邸の奥に内密に匿われている大聖教ジョーイを護衛する任務である。本来指揮を執るところの団長は今、ローラシアへ訪問して不在のため、総指揮をラリーが行っていた。今の局面において大聖教を守り抜く任務は聖女ララを護衛するのと同じぐらい重要なことであった。
だというのにラリーの顔には汗が滲み、焦りが表情に出ている。
「くそ! どうしてここがバレたのだ!」
「副団長! 我々が出ますからその隙に!」
ラリーは窓から外を覗く、そこには多くの暗部兵が邸を取り囲んでいた。
「だめだ! 突破できないぞ、危険すぎる」
そう叫ぶラリーが任務遂行をあきらめかけた時、突然外から大きな音が鳴った。なんだと、ラリーはもう一度窓から外を窺う。
そしてラリーの目には邸を包囲している暗部兵に向かって、後方から大きな氷の塊が飛んできているのが見えた。意表を突かれた暗部兵達は、すぐさま闇の防御壁を張り難を逃れている。しかし、氷の雨が止むと次はときの声をあげて多くの騎士が暗部兵に向かって突撃してきた。それに対して闇魔法師はすぐさま魔法で応戦するが、数に任せての突撃に暗部兵もなすすべなく倒され、また逃亡したりして邸を包囲していた闇兵は瞬く間にいなくなった。
「副団長! ローラシア兵です! 旗が見えます」
「おお! 団長が帰ってきたのか?」
「ジョーイ様をお呼びしてきてくれ、ここを離れるぞ」
「はい!」
◇
聖都の中で一番安全な地域と言える南部地区ガストン侯爵邸で、主要な人物達が聖都解放に向けて話し合いが行われていた。ジョーイ六世、ローラシア王国バルトス殿下、ガストン侯爵、聖騎士団長ゴートン、ローラシア騎士団長ロッド、魔法騎士団長フレッド、東部地区代表アレック伯爵、病で出席できないララに変わって、聖女サリー教頭、そして北部地区代表ミリオン侯爵は、現在行方不明である。
聖都の北部地区は暗部兵に占拠されていて兵たちは北部に入れずにいた。かろうじて東部地区は聖国の兵たちによって統治されているが、西部地区は入り乱れた戦いを繰り広げており、各場所で一進一退の戦いになっていた。
そのような厳しい環境の中でバルトスは口火を切る。大聖堂を取り戻し、復活させると。
「大聖堂を取り戻し、ララの復活を宣言する。そのためにはまずは西部地区の安定だ」
それに対してアレック伯爵が異を唱えた。
「殿下、お言葉ですが……ララ様の容態は決して良いとは言えません」
「それに関してはここに向かっている聖女がカギを握っている。ガストン侯爵、知らない者もいるようだ、例のことを話してもらえるか?」
「はい、トーレス地方の領主から黒い霧と病を浄化できる聖女がいると報告を受けたのです」
「なんと! 本当ですか?」
そのことに聖女サリーが驚いている。
「そのようなこと、なぜ黙っていたのです」
ガストン侯爵は、分が悪いと感じてゴートン団長に視線を向ける。ゴートンはその視線ですべてを理解したのか頷くと理由を話す。
「黙っていたわけではありません、情報が不確実なため、もっと精査することが必要と考えたからです。それにあの偽聖女の件も解決しておりませんし……」
偽聖女事件とは、北部を占拠される一因を作った人物で、フードをかぶり、顔を仮面で隠していた女が病を治せると吹聴し、兵たちを北部におびき寄せた事件で、彼女を保護するため、なんども騎士、聖者が侵入を試みるが決まって敵の待ち伏せに会い全滅したことである。これによってかなりの騎士たちが犠牲になっていた。その後、女は姿をくらましている。
なぜこんな罠にと今は思うだろうが、当時は病を治癒する力は誰もが切望していたことだった。そこを巧みに利用された敵の策略であった。
「ただいま副師団長に迎えに行かせております」
それに対してガストン侯爵が首を傾げた。
「それにしても遅くないか、もうとっくにここへ着いてもいい頃ではないか?」
「……」
一同押し黙るが、バルトスが静粛を破って発言をする。
「先触れも来ないのか? ゴートン団長。それに外見に特徴があるんだったな?」
「先触れはまだ来ておりません……白銀の髪と目をした若い女性ですから、かなり目立つはずなのですが……」
聖女サリーは本当ですかと驚きを隠せない。代表者はみんな知っていたが、それより下には伝達されていなかったようだ。
バルトスが思案して発言した。
「わが兵を数人行かせようか? 時間的には近くに来ているのではないか? エトナの町へ行かせよう」
それに対してゴードンは反論気味に確認をした。
「……エトナの町にクリフが入ったとは思えませんが、調べに行かれますか?」
「ああ、その者は私たちにとって大事なカギになる、あきらめるには早いよ」
その後、議題は西部地区の平定の必要性に移り、最終的にはバルトスが決定を下した。
バルトス率いるローラシア兵が西部地区の敵を追い払うと。




