癒しの風
ハロルドとエーシーの病が消え去ると、次はワッカさんも加えて住民たちの治癒方法について話し合いをした。トリアの町は領主がいることもあってそれなりに大きい町である。
「一人ひとり集めていたらかなりの時間が掛かりますね。範囲魔法を行使しましょう」
アルテミスの提案にエーシーが質問した。
「お言葉ですが、範囲魔法を行うにしてもある程度住民に集まってもらわなくては……」
「ふふ、大丈夫ですよ、町全体に癒しを行いますから」
「そのようなことが可能なのでしょうか」
エーシーはララが行う範囲治癒を実際に見ているが、人を集めて行うのが普通だった。そもそも一般属性の範囲攻撃でもそれほど広範囲にはならない、ましては小都市全体などと。
「ええ、十分な魔力があれば難しことではありません。それに相手の闇魔法であっても町全体に霧を発生させているのですから、聖魔法が出来ないなんてことはありませんよ。そうですね、要望があるとすれば町をよく見渡せるところにいきたいわ」
「ああ、それでしたらこの領館の上が一番だと思います」
ハロルドはご案内しましょうと立ち上がった。
屋根に平行した部分にハロルドが有事の時に町を見渡せるようバルコニーを設置していた。ここの景色は私が一番好きなのですと言っている。
アルテミスはこれはいいところに作りましたねと言って、バルコニーの先端に立って街並みを眺めて見た。そこは雲一つない青空に心地よい風、そして綺麗な街並みが広がっている。その景色にアルテミスはふうーっと息を吐きだした。しかし静かである。人の声が全くしない、子供の声もしない。なぜ住民を狙うのか理解に苦しむ。アルテミスは闇の気配を探ってみるがこの町にはいないようで安堵した。
「この心地よい風に治療を手伝ってもらいましょう」
そう言って彼女は掲げた右手でやさしく通り過ぎる風を受け止めた。
「風よ、光に変われ。一陣の風になり、すべての人の病を治療せよ」
そう念じると、町の端から吹き抜ける透明な風が突然白銀色に染まった。その光はまるでカーテンのように町全体にかかり移動していく。移動しながらも風は生き物のように家屋を目指して吹き抜けていっている。そんな家屋の中も吹き抜けていくその銀色の風はもはや普通の風ではないが、瞬く間に町全体を吹き抜けると、使命を終えたかのようにただの風に変わっていった。
後ろでこの光景を領主夫妻たちが惚けて見ている。
「こんなことが……」
しばらくすると彼方此方から人の声が聞こえ、その声は明るかった。




