スタート?
頭が酷く痛む。久々の痛みだ。
常に頭の中で、誰かが硬い鉄板を金づちで叩いているようだ。
気分は最悪だった。
「日向ぃ!」
ノックと共に聞こえてきた声が、頭の痛みに反応した。
「…谷上…」
だらし無くシャツを出した谷上が、ずかずかと部屋に入ってきた。
「漆黒とやり合ったって、ほんまか?」
やり合った?
笑ってしまう。あれは、やり合ったんじゃない。
やられっぱなしだった。
「谷上…比上は?」
「未弘が着いとる。あいつは、他人の鍵を治す力もあるから、比上の鍵も大丈夫や」
本当に、一瞬だったんだ。
一瞬にして、自分の中にあった正義感や信念が、砕け散った。
人を殺すということに、何の躊躇いもなかった漆黒…。
世界を救いたいなんて、笑わせる。
「日向!!」
谷上に揺さぶられ、我に返る。
「しっかりしろっ!魂でも抜かれたんか?」
その上手い表現に、鼻で笑ってしまった。
それから、身体が震え出した。
「恐い…」
零れ落ちた言葉は、日向の本音だ。
「分かるで。漆黒は、無茶苦茶や。まともにやり合って、勝ったキーパーソンなんていないに等しい」
谷上は、諭すように続ける。
「恐いのはみんな同じや。だからこそ、仲間がおるんや…一人で抱え込むな」
本当は、逃げ出したかった。谷上が肩に手をかけてくれなかったら、叫んでいたかもしれない。
圧倒的な強さに震わされ、それでも前を向けたのは、目の前に仲間がいたからだ。
「一緒に闘っとる」
「…ありがとう。でも、鍵屋は?」
「…今回のことは、未弘が裏から手を回して、鍵屋には伝わっとらん…俺はまた共犯や」
苦笑する谷上。
「大丈夫なの?」
「…やばいかもな。ただ、俺は未弘にも比上にも…それからお前にも借りがある。せやから、今は手を貸す」
照れ隠しなのだろうか。谷上は天を仰ぐ。
「共犯や」
「…共犯だね」
よかった。
まだ、俺は笑える。
「お、比上からやで」
谷上が携帯を差し出す。
「もしもし?」
『日向か?身体は平気か?』
「あぁ…大丈夫だよ」
自分の方がボロボロになったくせに…。
『ん。ならいーや。しっかり身体休めとけよ』
「…う、うん」
『今度は、倒す』
何で、あんなに大変だったのに、お前はそんな力強い声が出るんだ?
参るよ。
「比上、俺、強くなるよ」
『アホ。当たり前だ』
強くなるよ。
『一回言えや分かる。じゃ、また後で』
携帯は、一方的に切れる。
不思議だ。一人じゃどうにもならないと布団を被っていたのに、誰かがいると分かったとたん、身体が熱くなる。
振り出しに戻る。ではなく、こっからスタート。
キーパーソン日向、もっと強くなります。
「なんか食いに行くかっ!!」
「うんっ」
勢いよく布団から飛び出したら、毛布が足に絡まって谷上の上に倒れ込んだ。
「あほぉっ!!殺す気かいっ!!!」