第三章 下剋上タイム
約1ヶ月後の10月に、泉らの言っていたアップデートが来た。ネットでも現実でも、新たに加わった下剋上システムに大盛り上がりで、停滞していたユーザー数がまた一気に増えたらしい。
下剋上システムは予想していた通り、レベル差があっても下の者が勝利した場合に限り、連勝にカウントされるものだった。そして、裏でも新たにイベントが増えた。
「雷獣に下剋上を挑む!」
『来たーーーッ!! 下剋上タイム! ヒビキ選手から雷獣への下剋上! さあ、果たして下剋上は成功するのか!?』
連勝カウントとは別の、レベル6からレベル7への下剋上タイム。10連勝後に下剋上が成功すれば裏の特別ルールとして、レベルが1上がる。そのおかげでレベル7に上がった連中はほぼ全員、レベル6から下剋上を仕掛けられていた。ついでにレベル差2で下剋上が成功すれば、5連勝でレベルが上がるらしいが、さすがに白虎や青龍に挑むバカは居ないらしい。白虎はむしろ下剋上を挑めとレベル7を挑発し、現在3連勝中だと噂されていた。そのおかげか、青龍に挑むレベル7もまだ居ないそうだ。白虎本人のレベルや連勝には一切関係ないのに、本当によくやる。
そんな下剋上のターゲットになるのは、レベル6からでも勝てると見下されてるヤツだけだ。
「なんだ、短銃で猟師の真似事か?」
「うるせえよ、武器なしの獣風情が」
会場のど真ん中にあるステージに上がり、お互い挑発的に笑い合う。相手は銃を使う選手だった。フォルムを限りなくトカレフに近付けた銃型の本体。それとは別に、本物のトカレフも持っているという噂だ。ただ、本物を撃ったという情報は聞かない。噂自体が嘘なのか、精密機械の言霊師爆発を警戒してなのかは分からない。
そんな相手に対して、俺自身に武器はない。表と同じ手袋スタイル。裏では全員が武器を持つ中、たった一人だけの武器なし。それが俺だ。一応、防具として簡単な小手なんかは身に着けているが、裏では明らかに異質だった。おかげで裏に参加した当初から舐めたヤツが大勢 死合を挑んでくれて、レベル7まで意外と早く上がれた。そのあとは警戒されて挑まれる回数は減っていたが、下剋上タイムのおかげで今またレベル6の連中から挑まれ続けている。武器なしの俺になら勝てると思っているんだろうが、舐めすぎだろう。
──ピピっ──
『死合、開始』
「乱射!!」
「翔!」
開始と同時に相手選手の周囲から、弾丸を模した電撃が一直線に向かってくる。
これくらいなら避けるのに熟語は要らない。たった一文字で十分だった。横に向かって飛び、翔の言霊で方向を自在に変え、飛んでくる弾丸を避けまくる。
「弾! 弾弾弾弾弾弾弾弾弾! 魔弾跳弾!」
「韋駄天!」
足に触れた直後、一瞬で結界内を銃弾と俺自身が飛び回る。銃弾は全てホログラムによる偽物だが、攻撃力は本物と大差ない。それだけ強力な電撃が縦横無尽に飛び交っている。当たれば一発で動けなくなるほどの攻撃。それに魔弾は当たるまで追いかけ続ける言霊だ。だけど、跳弾まで出したのはバカだろう。跳ね回る跳弾の軌道と交差するように走れば、魔弾と相殺し合って全ての弾が弾けて消えた。
「乱射! 挟撃! 釣瓶撃!!」
「防護壁!」
前後左右に加えて上からも、さっきよりも大量の銃弾が全方向から向かってくる。防護壁は上に貼り、釣瓶撃ちにのみ対応させて、残りの乱射と挟撃は飛んで避ける。防護壁は釣瓶撃ちと相打ちで消えた。
いくら撃っても当たらないことにイラ立った相手が睨んでくるが、鼻で笑ってしまう。伊達に手袋スタイルで5位にまで昇りつめてない。雑魚の攻撃なんて、当たる訳がない。俺の最大の武器は、このスピードなんだから。これはお前らが俺に与えた唯一のプレゼントだ。生死の境を彷徨った挙句に手に入れた、お前らに対抗するための武器。
『ヒビキ選手の猛攻に、雷獣は防戦一方! これはもしかすると、もしかするのかー!?』
何も分かっていないのか、こちらを煽ってきているのか、実況が叫ぶ。大歓声が相手選手を応援し、大半の観客が俺の死を望んでいる。下剋上タイムなんてそんなものだ。武器なしの俺には、さらに多くの罵倒が含まれる。
「獣なら大人しく撃たれて死ねや! 乱射乱射乱射!!」
「霹靂神!」
また大量の銃撃が一斉に向かってくるが、それを激しい雷が暴れて撃ち落とす。ただの獣が、雷獣なんて呼ばれて上位になれるか。
『雷獣の本領発揮! これには乱射の多重攻撃も敵わない!』
「うるせえ!」
「雷槌!」
「避雷針!」
相手に向かってカミナリを落とすが、意外にも避雷針で軌道を変えられた。なるほど、一応対策はしてきていたのか。普通は銃使いが避雷針なんて使わない。まして、レベル6じゃ三文字熟語は2つしか使用できないのに。大事な枠の1つを雷対策に使うとは、思い切ったことをするもんだ。
相手選手がニヤリと笑った。まさか、避雷針だけで勝てると思っていたのか。さすがにそれは舐めすぎにも程があるだろう。
「霹靂神、火山雷、冬季雷」
「ッ! 避雷針、避雷針、避雷針! 迎撃迎撃迎撃!!」
手のひらを向けて静かに唱えると、周囲に大量の電撃が走る。慌てた相手が避雷針を飛ばすが、その程度で暴れまわる大量の雷を全て防ぐのは無理だ。おまけに避雷針なんて連発するには言いにくい。防ぎきれなかった雷を必死に迎撃で撃ち落とそうとするが、三文字に対して二文字じゃ攻撃力が足りなさすぎる。
「げいげッ、ガッ……、ァ"……」
『直撃ーーーッ! 冬季雷による下からの一撃に、避雷針も迎撃も対応できず!』
ドサッ、と倒れた相手は何度も咳き込み、体も痙攣して上手く息を吸えずにいた。一文字の言霊なら痛みと痺れに堪えればまだ戦えるだろうが、三文字の言霊が直撃したら、死んでないだけマシだろう。だが、そのせいで負けが宣言できずに勝敗が付かない。会場からはブーイングが巻き起こる。それらを無視して相手選手に手を向けた。
「霹靂神」
「ガッ……、ッ……————ッツ!」
最期は声もなく無言の悲鳴を上げて終わった。
──ピピっ──
『勝者、決定。雷獣』
一瞬の静寂のあと、再び会場中から大ブーイングが向けられる。その中でも笑ってるヤツは、俺に賭けた連中だろう。結界の膜が消えると使いのヤツらが担架を持ってきて、相手選手が運ばれていく。若干、肉の焼ける臭いをさせていたから、明日以降にでも変電所かどこかに無断侵入して感電死したとか報道されるだろうな。人の死ですら、ここでは『そんなもん』になる。
(しかし、仮とはいえ一応、会場トップなんだがな)
ここは新しく出来た黄龍会場だ。青龍が移動を拒んだらしく、繰り上げで5位の俺が仮の会場トップに指名された。レベル7以上は各会場で実力が同程度になるよう分配されたが、レベル6は完全にランダムで選ばれたらしい。だから俺のことをあまり知らない連中からの下剋上が多く、会場に来た日は毎回必ず挑まれていた。あまり舐められるのも困るので週に1~2度来るようにしていたが、レベルが上がらないのに雑魚の相手をさせられるのは正直面倒だ。
そろそろ諦めてくれたら良いんだが、武器なしのせいでそうもいかない。だが、だからと言って武器を持つのはムカつく。雑魚のためにスタイルを変えるのだけは絶対にイヤだ。武器なしのまま、全員を踏み潰して黙らせるまで我慢するしかない。それまでの面倒を考えると溜め息が出る。頭を搔きながら苛立ちを抑え、さっさと会場をあとにした。




