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第二章-Ⅳ 下剋上

 裏の汚さなんて、ある程度は分かってるつもりでいた。ただ、本当に『つもり』でしかなかった。思わず項垂れて頭を抱える。


「……お前ら、どこまで知ってる」


 どう考えても、こいつらは知り過ぎている。だから、殺されかけたんだろう。言霊師の元々の開発者ってことは、支援者たちについても少しは知ってるはずだ。それでよく生きてたもんだ。


「支援者たちの名前は知らない。さすがにそれは秘匿されたからね」

「裏の目的を知ったのは去年だ。ベスト4に入るとVIP連中が選手を獲得しようと(こぞ)って動き出す。その連中から少しずつ情報を集めた」


 それについては、同じように何度も食事に誘われていたから分かる。だが、まだ裏に入って1年経っていないからか、誘ってくる連中は中途半端なヤツばかりだった。ソイツらから得られる情報も大したことなく、だから早々に見切りを付けてランク上げに集中した。

 それがまさか、こんな形で予想以上の情報を得られるなんて。こんなことは予想すらできない。奇跡か罠かと問われたら、100%罠だと言える。


「……俺に、何を望んでる?」

「言ったはずだ、仲間がほしいと」

「ただ仲間になるだけじゃないだろう。それを教えて、俺にどうして欲しい」

「下剋上をしろ」

「……お前と八百長しろってことか」

「その必要はない。お前は今まで通りに戦えばいい」

「それで、お前らになんの得が……」


 澪也たちの狙いが分からなくて困惑していたら、泉が代わりに答えた。


「もうじきアップデートが入るだろう。それによって大会のメンバーや順位が大きく変わるようになる。だけど、私たちはそれを活用できない。だから、代わりが必要なんだよ」

「それが俺か」


 納得できるような、こじ付けのような、そんな理由だ。だいたい澪也たちはさっきから、アップデートの時期を知っていて、その内容も分かっているような口ぶりだ。開発者とはいえ、そこまで分かるものなのか。それとも、元から組み込む予定のアップデートだったのか。……もしくは、やはり最初から全部が嘘で、コイツらも裏と繋がっていて、そのアップデートのための生贄(エサ)として俺を選んだのか。

 疑い出したら切りがない。疑心暗鬼に陥っているのが分かる。だけど、ここで逃げたら何にもならない。せっかく得た情報の欠片が、意味を失くしてしまう。それすらも、コイツらの狙い通りなのかも知れないが。 つい奥歯を噛みしめた。


「……分かった。そのアップデート内容を確認してから、また話そう」

「俺たちは近々引っ越すから、連絡は前に教えたアドレスへ送ってくれ。それと、会う時はあのカラオケ店で」

「ああ」


 完全に二人のペースに巻き込まれて、混乱してしまう。今は引く時だ。出されたお茶には手を付けず、そのままマンションを出た。振り返って見上げてみるが、覗いている人影は見えない。このまま見張るべきかを迷っていたが、住民らしい男が近付いてきたので、さっさとその場を離れた。






(下剋上……、それにアップデート……、てことは、本当にレベルが入り乱れるぞ)


 裏のトップである澪也が利用できないアップデートで、ヒントは下剋上。となると、アップデートが下剋上そのものという可能性が高い。下剋上の意味を考えたら、下位者から上位者への挑戦で連勝にカウントされるようになるか、もしくは勝利でレベルアップか。さすがにレベルの逆転はないと思うが、裏だけの特別ルールという可能性はある。いずれにせよ裏でも表でもレベルの限界に達していたから、これでかなりの人数がレベルアップするはずだ。

 アップデートまで5年を掛けたのは、裏でのレベル限界まで待っていたからだろうか。泉がアップデートの内容を知っているのは恐らく、そのシステムを最初の段階で企画していたから。元々、このままでは最高レベルの12になる為には、天文学的な人数が必要になってくるから、これは当然のシステムだろう。レベル6になるのにも本来は人数が足りていないはずだ。それを補うため、日本全国で大小問わずトーナメント形式の大会が毎日のように開かれていた。同レベルの16人が集まって勝ち抜きトーナメントを開けば、確実に一人がレベルアップする。それを繰り返してきたおかげで表ではレベル6、裏ではレベル8が現在の上限となっている。

 だが、下剋上させてまで俺を勝たせる必要なんてあるんだろうか。澪也は今、裏のチャンピオンだ。確かに制限なんかはあるだろうが、それ以上に情報が手に入りやすいはずだ。それを手放すほどのデメリットがチャンピオンにあるとしたら、下剋上はしない方が良いのか。しかし、泉らにとってのデメリットが、俺のデメリットになるとも限らない。


(……狙ってみるか)


 例えこれが罠で、あの二人に踊らされてるだけでも構わない。ずっと進めずにいた復讐への道のりが、ようやく薄っすらと先が見えてきたんだ。ここで逃げるくらいなら、最初から復讐しようとなんて思わない。

 次のチャンピオンを決める大会は12月。あと4ヶ月ほど期間がある。その間、裏では4つの会場ごとに死合が行われる。毎月、前半の15日間はレベル6のみが参加可能なランダム戦。すでにレベル7に達した者は、エキシビジョンに指名されるか、自分から指名するかしないと死合には出られない。もちろん両者ともに、それでレベルは上がらない。

 そうして後半はレベル7同士の死合を含んだランダム戦のあと、最終4日間で会場トップを決めるトーナメントが行われる。各会場の名前に由来して、そのトップを四神にちなんだ名前で呼んでいた。最後は6月と12月に四神を含むベスト8の中から、1週間かけて裏全体のランキングトーナメントが開催されていた。

 ここに、先月から新たに5つ目の会場が出来た。5つ目の会場の名前は黄龍。12月の年末に行われるトーナメントで優勝したものが、新たに黄龍と呼ばれるようになるだろう。その最有力候補が青龍である澪也だった。


(もし下剋上システムが来て青龍が負けたら、かなり荒れるだろうな)


 下手をしたら逆恨みで青龍は余計、命を狙われるんじゃないだろうか。まあ、俺に下剋上しろと言っていたなら、その対策くらいはやっているだろう。近々引っ越すのも、そのためか。

 知らず、フッ、と笑う。 ダメだな、どうしようもなく顔がニヤけてしまう。あの青龍がまだ新人とも言える人間に負けたら、大損しまくる連中が大勢いることだろう。連中から一気に資産を奪って、こっちは優勝賞金の2億を奪う。12月のトーナメントは賞金額も上がる最大の年越しイベントだ。その分、連中の賭け金だって大幅に上がっているから、最初の復讐にはいいかも知れない。

 しかも、前回の6月大会で俺は、初日に青龍と当たって負けていた。それがひっくり返れば、正しく下剋上だ。


「ハハッ、楽しみだな」


 まるで初めて言霊師を見たときのように、心が躍って仕方ない。さあ、これからはもっと慎重に、楽しく復讐してやらなければ。俺を殺そうとした全ての連中に地獄を。

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