9/13
遺したいもの
花の季節も通り過ぎていく
日差しも強くなり
外の仕事はだんだんつらくなるけど
いつもいつも
この一日を楽しみたい
桜の花弁がひとつ
テーブルの上
古びたライターに
馴染のオイルを注ぐ
刻みの煙草を
フィルターごと
薄い紙に巻き
火をつける
ドアの隙間から
レースのカーテンのように
光が差し込み
吐き出した煙が
マーブルの模様を作りながら
光でできたスクリーン上を
漂う
この部屋のどこにも
君の気配はない
夢に出てきたのは
一度だけ
花が散った桜の枝を
あとで挿木にしよう
一本でも根が張れば
その命は報われる
いまは流行の歌も流さない
陳腐なドラマも見ない
お金のかからない言葉遊びと
すこし高い煙草と
師匠の味とは全然違う
下手な自家焙煎の店の珈琲
孤独は神とだけ共有し
恋愛は心の外側にある
年を追うごとに
短くなった春を
惜しむ気にはなれない
青春も返ってはこない
繰り返したいとも思わない
せめて花だけは
300年