家族のいない梅
昨日のお仕事は
大きなお屋敷
庭の梅は
主人を失って
寂しがっていた
冬の終わりの雪が
ちらちらと桜花周辺を
親しげに舞う
明るい空の下
ビルディング街を
薄化粧のように
雪が降る
旧家の梅も咲いている
早咲きの桜も
この季節は
なんとも心地良い
晩春の梅の香は
男子に比べて早熟な
少女が恋する時のような
清純さと儚さ
成熟の果実のような甘さ
なかなか詩では
表現しきれない
だから
愛おしい君に
思いを重ねる
いつ会えるかも知れない
なにかを願うにも
届かない距離
別れ際に
君の心の声が聞こえた
そばにいたいなあ
好きだなあって
そんな君に
この香りを贈りたい
ついでに星の煌めきを
ひとつか二つ
指輪かピアスにして
ほんとは
君の心臓に
優しくキューピーの矢を
そっと傷つけないように
添わせるように
残したい
花は手折ると
やがて枯れるように
君とラインを越えることは
ぼくには考えられない
ただただ
遊びに
サラリーマンの初任給の額くらいを
使えるようになりたい
君は仕事で接してくれて
ぼくは手の掛からない客として
誘惑があるとしたら
ぼくのこの空想の世界
ハナから
ホステスさんを
彼女達と集合で
括って考えられたら
かなり楽なんだけど
すこしでも
可能性があるらしい
そう思わせるのが仕事なんだと
仕草の総てが
そうであると
諦められたら
それでいいのに
そうしているうちに
梅も桜も散ってしまうだろう
春に隠された
無常は凄まじく
切実なんだ
よほど冬の寒さの方が
ぼくには暖かい
それでも
君が好きなんだ
だから
ぼくは
悲恋を糧にして
痛みを喜びと錯誤する
病んだ体質を願う
未来は人造の生命体
選べるならば
そうしよう
愛おしい花よ
来年もまた咲いておくれ
手入れをする主が
あの世へ行っても
遺された家族が
君を切り倒すときは
ぼくを呼んでおくれ
その時は
全力で君を守りたいから
仕事が終わって
同僚に尋ねたら
やはり家主の旦那さんは
梅を植えた後に
病で亡くなっていた
遺された家族の長男は
未亡人の母に
手がかかるから
全部伐採したらと
無情に提案していると
言う