074 アルバイト③
「というわけで手伝ってくれ」
僕と月夜はごはんを食べ終え、まったりとしていると手を組んで胸を張った星矢からじきじきにお願いされた。
お願いってポーズじゃないんだが。
「どうしたの?」
「病欠と忌引き、遅刻で人が足らん。約2時間弱頼みたい。今日食べた飯代は店長が払ってくれる」
店長が払うのかよ。僕と月夜は見合わせて頷いた。
実際ここで働くのは初めてではない。月夜も僕も2,3回働いたことがあるのだ。働くというよりは手伝いという方が正しいかもしれない。僕は7月中旬に急遽星矢が水里さんの実家に行くことになった時のヘルプで働いたことがある。
でも月夜と僕は一緒に働いたことはなかったな。
友人の頼みでタダ飯が食えるなら働こうじゃないか。
月夜と一緒にスタッフルームに行くとあるホールの女性が待ち構えていた。
「来たわね」
「あ、冥さん、こんにちは!」
「神凪妹とえっと……えー」
「山田です」
「そう、それ! 妹はホールを、あんたは洗い物関係をお願いするわね」
名前よばねーのかよ。
彼女の名前は如月冥さん。この店のバイトリーダーで大学生だ。前来た時もいろいろ教えてくれたなぁ。
すみれ色の髪は染めているらしく、バンドのボーカルやってるって言ってたっけ。
「それで友人、神凪は変わらずモテているのか?」
「そうですね。前に比べたらちょっと減ったかもしれないですけど、なんだかんだみんなに好かれていますね」
如月さんは長いすみれ色の髪を手でとく。月夜ほどではないが好みの髪の長さだ。
如月さんのその表情は自信に溢れていた、
「あいつとは1年以上の付き合いとなるが私は惚れていない。そう、私はあいつに惚れない女なのだ!」
如月さんはかなり綺麗な人なんだけど……相当変わってるんだよな。前もこんな感じだったし。
そんなスタッフルームに星矢が入ってきた。
「冥、さっさと出てくれ、客が増えてきた」
「私に指図するんじゃない」
星矢も言っていたが如月さんは仕事はできるらしい。バイトリーダーだから当然かもしれないけど……。
でも2人を見ていると結構言い争いをしているんだよな。でも……自動ドアが開いて人が入ってくると
「「いらっしゃいませーー!」」
星矢も如月さんも満面の笑みとなる。つまりは同族嫌悪と見た。
「太陽さん!」
着替え終わった月夜が女性用のホール服を見せてきた。
「どうですか……?」
男性のホール服は黒を基調としているが女性の服は白のエプロンにスカートと純白なイメージだ。
どうもこうもない。めっさかわいい。こんなかわいい店員がこの世に存在するというのか。
「カメラもってくればよかった」
「あはは……」
栗色の髪を後ろで束ねて、月夜はくるりと一度回転する。
「太陽さんと働くのは初めてなので楽しみです」
「2時間ほどだけど、お互いがんばろっか」
僕は皿洗いや食器の運搬を行う。店の料理はこの店のやり方があるし、接客もできないからねぇ。
月夜は記憶力がいいのでホールの仕事を難なくこなしていく。ただ、月夜にも一つ問題があって……。
「店員さん、連絡先教えてよー!」
「いつから働き始めたの!?」
「彼氏いる?」
月夜がこのような所でバイトできないのはモテすぎるからである。
こんなかわいい店員がいたらみんな通うわな。前も月夜が手伝いで働いた時に客がどっと増えたらしく、あのかわいい店員はどこって問い合わせが続出したらしい。
星矢ですら女性の客の扱いに迷惑してるのに月夜ならより一層だろう。
スタッフルームで休憩していると満面の笑みの星矢と月夜がルームに入ってきて、椅子に着席した途端に無表情になった。
この兄妹ってほんと作り笑顔得意だよな。
「ビデオにして撮っておきたいレベルの変貌だ」
「疲れた……仕事はいいんだけど、声かけられるのがやだ」
「悪いな。いつもは冥の方に行くんだが……」
如月さんも綺麗だけど月夜は別格だからなぁ。声かけられて、連絡先渡されて、初対面なのに告白までされる。本当に大変だ。
2時間という話だったが、時間は21時頃になっており星矢も22時までのシフトなのでそのまま継続し、一緒に帰るまで働くことになった。
明日休みだし、問題ないや。
「客足も減って来たわね。あとは夜勤組で大丈夫でしょ。2人ともおつかれさん」
さらに如月さんも入ってきて連絡してくれる。この段階で僕と月夜は前に出なくてもOKとなった。
晩飯代を稼いだとはいえ、ちょっと疲れるなぁ。
「バイトしたくなったらまた来なさい。店長へは私から推薦しておくから」
バイトが見つからなかったらお願いしようかな。どちらにしろ高校卒業してからになるけど。
「冥さんは凄いですね。男性に声をかけられるのに堂々としてるし、憧れます」
月夜の純粋な視線に如月さんもちょっと照れて後ずさる。
「私だって最初から慣れてたわけじゃないし、ま、経験よ」
「冥さんみたいなかっこいいお姉さんが欲しかったなって思います」
「ねぇ、私、神凪妹みたいな妹が欲しい」
その気持ちは分からなくもない。僕も月夜みたいな妹が欲しかった。
「じゃあ星矢と付き合えばいいんじゃないですか。そうすりゃ妹になりますよ」
「フン!」
如月さんは鼻で笑う。
「残念だけど、私は神凪に興味はない。絶対惚れたりしないんだからね!」
「アホか」
呆れた星矢の声でこの話は見事に終了したのであった。
◇◇◇
僕と星矢と月夜は帰り道を歩く。今日は星矢もいるから途中でお別れだな。
「寒くなってきたね」
月夜は息を吐いて、真っ白な手を温める。
手袋をつけるにはまだ早いけど、夜は寒くなってきたもんな。
もう22時過ぎか。
「もうすぐ12月か。そして1年が終わって……すぐに3年だな」
「早いよなぁ。もう高校生活の半分が終わってしまうなんて」
星矢と僕はしみじみとそんなことを思う。3年になったら大学入試目指してさすがに勉強しないといけないし、予備校に通うことにもなるだろう。
今までのようには行かないよな。
少なくともこうやってバイトの手伝いなんてことは無理だろうね。
「太陽さんもお兄ちゃんも……そんな顔しないの」
月夜が星矢の手と僕の手を掴んで真ん中に立つ。
月夜の白い手はかなり冷たくなっていたが、こうやって手を繋げば温まる。
「早く終わるって思うんじゃなくて、クリスマス、お正月、冬の旅行。み~んなで楽しもうよ!」
外灯に照らされた月夜の栗色の髪が綺麗に輝く、本当に見惚れてしまうぐらい綺麗で優しい顔だ。
隣で歩く星矢も優しい顔をしている。そうだよな。まだまだ……楽しめることはいっぱいあるんだ。最初で最後の高校生活をもっと満喫しないとな。
「星矢、12月にはクリスマスパーティだ! 楽しみだよな!」
「ああ、そうだな」
3人仲良く……僕達は帰路についたのであった。
本話を読んで頂きありがとうございます。
名前に冥の付くキャラがここで登場! ……ですが、彼女はこのアルバイト先がメインのキャラなので
本編中での出演はもうありません。ゲスト出演です。
次話から始まる月夜の積極的行動にお楽しみ頂ければと思います。
この作品を少しでも面白いと感じて下さった方、作者のモチベーションに影響しますので、
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