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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第40話 戦う尼僧院、リンゲルバルトをビビらす

 その日一日、とても人目を引く、僧服にマスクの男は、ガゼル殿にくっついて歩いていた。

 ガゼル殿はうっとうしかったし、そもそもこの男が自分の兵は一人も持たず、ガゼル殿の兵を利用する気満々だというのはまったくとんでもない話だと怒っていた。普通なら蹴り倒すところである。だが、それを辛抱したのはひとえに彼が何丁か持っているらしい最新式の銃のせいだった。


 ガゼル殿も新しい銃の話はウワサ程度には聞いたことがあった。リンゲルバルト殿の軍の銃は優秀で、今までの製品と全く違うそうだった。実際に見たことはなかったが、新銃は非常に怖い存在で、ガゼルとしてもなんとかして一度手に入れたいと思っていた。


 それが今、目の前に複数あるというのだ。しかも使い方まで教えてくれるという。どう考えてもチャンスだった。


 話してみるとジェルナン殿は人付き合いのうまい、気に障らない人物だった。そして、僧にしては兵士や軍にとても詳しいのだという印象を受けた。妙な感じだった。


「ずいぶん兵士になれておられるが、僧院から来たのではなかったか?」


 ガゼル殿が尋ねた。


「僧院から出てきたのは1年前ですよ。僧院は退屈なのでね。それからは身分を隠して、傭兵の軍に加わっていた。わたし自身が傭兵だったのです。軍に参加してから1年しかたっていません。その程度の男ですよ」


「は、はあ。なるほど。合点がいった」


「リンゲルバルト殿にも少々仕えました。だが、身分を隠していると、つまらぬ貴族どもに威張られるのが気に食わなくて」


「そうか。まあそれはわかる」


「リーア姫様に仕えるのが私にとっては一番自然でした。リップヘン殿は難しい方なので」


「たしかに」


 ガゼル殿はリョウの顔をつくづく眺めた。マスクしか見えないので、表情はわからなかったが。


「ガゼル殿、私の顔について詮索するのは止めていただきたい」


 リョウは言った。


「お、これは失礼した」


 ガゼル殿は、ジェルナン殿と言う名前の若い男について、意外な発見をたくさんした。

 意外すぎて、どう解釈したらいいかわからないくらいだった。そもそも若いと紹介されたのだが、話しているうちに自分と同年配か、もしかすると年上の人物と話しているような気になるのだ。


 ついでにいうと、ガゼル殿の兵士たちも、この男についてはなんとも評価できなくて、当惑していた。

 ジェルナン・ライカ殿は、その日一日ずっと彼らの親分に引っ付いていたが、最初の印象と違って口の利き方から立ち居振る舞いまで、どう見ても温室育ちの坊ちゃま貴族には見えなかった。銃を扱える何人かには、熱心に射撃を教えてくれて、その熱心さには思わずほだされるものがあった。ただ、何かの折に、ちらと、本人は全く意識していないらしい宮廷風な物腰が出ることがあって、兵士たちは驚くことがあった。




 翌朝、早くにガゼル殿の軍は準備を終えた。

 ジェルナン殿の意見に従って、数名の銃部隊が先行した。

 ガゼル殿は、見ず知らずのこの男に自分の軍隊の一部をゆだねるのは全く気が進まなかったが、相手がリンゲルバルトとあってはやむを得なかった。

 ジェルナン殿は、まるで当たり前のように銃手の配置を決め、自分自身が小隊長として実戦に臨むというのだ。


「そんな危ないところに出たがるなんて、気が知れんわい。リンゲルバルト軍は最新式の銃で装備しとるそうじゃないか。この若造がそんなものをどうにかしてみせるというなら、やらせればいい。死んだところで、俺に取っちゃ大いに結構だ。あの銃はいただきだな」


 リョウはこの戦いでリンゲルバルト殿を打ちのめすつもりだった。リンゲルバルト殿はリョウが帰ってこないので心配はしているだろうが、そんなことで手抜きをするような男ではない。リンゲルバルトは自分の隊以外、誰も銃は持たないと考え、先頭に銃の部隊を配置し敵方の度肝を抜くつもりだろうと思われた。


 リョウはリンゲルバルトの戦法をそう読んでいたので、自ら例の数名の兵を率いて脇から打ち込む戦法に出た。


 まさかこんな形で戦友を裏切ることになるとは思わなかった。

 もっとも、裏切られた所でどうかなるようなリンゲルバルトではない。この裏切りは、裏切りなのか?やっぱり裏切りの一種だろうな。だが、迷いは禁物だった。


「いいか、リンゲルバルトの軍は見えないが、ここをこう迂回してくるだろう。反対側から攻める。いいな?俺が撃つから援護しろ」


 6名ほどの部下達は、真剣な顔でうなずいた。昨日から、この貴族の坊ちゃまの腕前はいやと言うほど見てきている。リョウは不親切でも偉そうでもなかった。彼は、ただ一緒に目的を達成しているだけなのだ。


 突然、大きな雄たけびとともに、リンゲルバルトの軍隊が尼僧院めがけて移動を始めた。


「大きな音は威嚇行動だ。見せ付けたいだけだ。もう少し移動したら……軍のどてっぱらに撃ちこめ。弾をケチるな。俺が撃ったら続け。いいな?」


 突然、響いた銃声にリンゲルバルトの軍はぎくりと動きを止めた。


 そもそもリンゲルバルトの隊は本気で戦うつもりは全くなかった。

 相手は女ばかりの尼僧院である。僅かばかりの護衛部隊を蹴散らした後は、少し大きな音で脅せばパニックになって、話は10分で終わるはずだった。

 リンゲルバルト軍自身も銃の有効性は認めていたので、所持はしていたが、まさか尼僧院のほうから銃声が響くとは思ってもいなかった。

 大慌てで、銃部隊は向きを変えると、銃声のする方角に向きを変えようとした。

 その時、リョウは突然立ち上がると、ピンを抜いて手榴弾を投げ込んだ。


「伏せろッ」


 ドーーーンと言う音がして、白煙が昇った。相当な威力だった。それがなんなのか全然わからないリョウの6人の部下たちは蒼白になって、リョウを振り返った。


 リョウは、うれしそうにニヤリと笑った。

 これを作るのに丸半年掛かったものだ。わざわざリンゲルバルトに紹介状を作ってもらって工廠へ入れてもらったのは、苦心して作った武器がまだあるかどうか確認したかったのだ。これが何なのか、ゼノアの連中は誰一人知らなかった。リョウがいなくなった後、それは倉庫の隅のほうにほこりをかぶったままひっそりと置きっぱなしになっていたのだ。こっそり持ち出してきたが、ここで使うとは思っていなかった。


 成功だ。大成功だ。もっとも例の6人には悪魔の微笑みに見えた。


「行くぞ!」


 彼らは、ひるんだ軍勢に向かって奇声を上げて走っていった。わずか6人だが、もっと多く見えた。


「行くぞ!」


 リョウは大声で叫んだ。


「おおッ」


 リョウはもうひとつ手榴弾を持っていた。これでお終いだ。


 出来るだけ遠くに投げつけると、ドーーーーンと言う音がまたして、着地点から白煙が昇った。相手の軍は大混乱だった。今回は本隊に近かったので、混乱はより一層大きかった。


「撃て!」


 大きな音をガンガン出すことで混乱に拍車を掛けることになった。

 この大騒ぎと、なにより正体不明の爆発に恐れを感じてか、程なくして、人馬はいったん退却した。


「尼僧院に戻りましょう」


「ダメだ」


「え?なんで?なんでこんな危険な所に?」


「銃と軍備を拾うんだ。こい」


 彼らは火事場どろぼうよろしく銃と弾薬、金目のものだけ拾いまくった。


「貴族の坊ちゃまの癖に、えらくせこいな」


「俺らが普段やってるようなこと、するんだな、この人」


「金はあっても、モノがないんだよ」


 リョウは説明した。


「次は、どうせリップヘンだろ。アイツとやるのは大変だよ。武器が要るよ。俺は銃と弾薬が欲しいんだ」


「ジェルナン殿、リップヘン殿とお知り合いですか?」


 一人が好奇心いっぱいと言った様子でたずねた。


「俺を誰だと思ってんだよ。大貴族様だぞ。リップヘンはもっと大貴族だ。だけど、アイツはキチガイだからなあ」


 彼らはリョウを見た。納得している様子だった。


「考えなきゃなあ。勝てねえよ。アイツには」


 ウマが一頭元気そうだった。

 リョウは死体をひとつ顎でしゃくった。


「おい、あれをこのウマに乗せて帰れ」


「え?死体ですよ」


「いいからもって帰れ」


 6人の部下どもは、リョウには何を言われても従う気になっていたらしく、黙ってそのおかしな荷物を持って帰った。

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