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おとこ太守孟徳

作者: かずっち

ウソ歴史


実在する個人、団体等とは一切関係ありません。

  <エロゲ脳による考察>


 曹操は男だった。


 私の誤解の経緯はテンプレ的で、改めて文章に起こす必要は無いだろう。


 噂の出所は、おおかた卑弥呼との文通の最中、夢見がちなシャーマンが同性と勘違いしたといった所か。

 しかしながら当時は男に女の衣服を送るというのは大変な侮辱、挑発行為である。それを踏まえればこの件が騒動にならなかった理由に俄然興味が沸いてくる。

 仮に曹操が誤解に気付いたのなら、訂正できぬ事情でもあるのか。野放しと”操”というお姉さんキャラにも居そうな名が今日まで続くなんでもヒロイン化ブームの元凶ではないのか。

 よもや誤解をこれ幸いにスケベ心から噂を野放しにしたのではあるまいか。


 真相を知ろうにも、肝心の卑弥呼の所在が不明なままだ。

 野生の勘が告げる。逆ではないのか?

 卑弥呼は曹操から逃げるように身を隠した。そう考えると事件性が出てくる。

 見過ごすわけにはいかない。

 真相を探ろう。この探究心に興味本位の浮つきや、直虎が主役のドラマに、過去に曹操女性説を唱え”エロゲ脳”というあだ名で呼ばれたトラウマを呼び起こされた私の怨みは一切無い。


 卑弥呼不在の今、まずは曹操の素行調査だ。

 その人となりを知るために10のエピソードを考察しよう。10とは曹操の知恵袋、郭嘉にあやかってのことだ。


1.嫌いな親族の前でひきつけが起きた振りをして、それを喧伝する親族の信用を損ねる。

2.袁紹と逃亡中にここに居ると声をあげる。正直者、小悪魔的正直。

3.仮病で職を辞する。医師の診断書も代わりのバイトも不要な時代だ。

4.董卓を追い討ちする好機だと進言する。協力を得られず寡兵で挑み負けた。

5.物音を殺意と勘違いして人を殺め、開き直る。正直者だが……。

6.この先に梅の林があると有名な嘘をつく。司馬炎の逸話という説がある。

7.兵糧不足を兵糧係の咎にして兵士の怒りを鎮めた。

8.張邈の家族を約束通り面倒みた。裏切りへの制裁という形で。

9.匈奴の使者と会うときに見栄えのいい代役を立てた。作り話の可能性がある。

10.帝になる意思は無いと断言。


 これらを順に真偽判定、●○●○○▲●○▲○

(○正直 ●嘘ついた ▲真偽不明の嘘)


 結果、正直多数の5対3、良くて5対5のイーブンである。

 嘘ばかりなら虚言癖を根拠に卑弥呼との一件も嘘と推定する事が出来ようものを。

 では曹操とは虚実を使い分ける一筋縄ではいかない厄介者なのか。


 使い分け説を裏付けるように、確かに曹操は”真実の力”を熟知している節がある。先に触れた郭嘉の事である。

 圧倒的な国力を誇る袁紹との対立が深まり不安が募る曹操に、郭嘉は曹操の優れた点を10項挙げる。

 曹操対袁紹、十の勝因、十の敗因。今で言う比較広告だ。

 叶うの造りから分かるように十には多いという意味合いがある。広告業界は兎角、十が鬼好きだ。


 そして夢を叶える素敵な広告の世界に嘘はタブーだ。

 大事なのは偏差値40でも納得しうる説得力があり、大げさであろうとも一線は越えないこと。

 例えばポスターと違うハンバーガーが出てきたら兵糧係を呼びたくなるし、王昭君を醜女に描いた画家は首が飛んだ。

 つまり十の勝因に疑う余地があれば曹操の劇的大勝利は幻となったはずである。それが真実の力だ。


 しかし結局は真実が陳宮、そして袁紹を遠ざけた。

 真実は諸刃の刃、嘘とは曹操にとって卑弥呼に嫌われないための方便なのか。


 それならば曹操を最も嫌った男との間には一体何があったのだろうか。

 もし方便が得意なら関係修復の余地は無かったのか、気になるところだ。

 曹操を蛇蝎の如く嫌った男、それは馬超である。


 その蛇蝎のヘビが悪魔なら、サソリは女のメタファーか?

 悪魔に関しては興味深い諺がある。

”speak of the devil”(噂をすれば影がさす)つまり、”説曹操曹操就到了”だ。

 この符合はとても偶然とは思えない。

 全てを鵜呑みにすれば曹操は女性でしかも地獄耳のワープスキル持ちとなる。


 やはり女なのか? 捜査は振り出しどころか、まるで奇門遁甲に囚われた気分だ。


  ◇◇◇


  <すごーいから見る三国志>


 サソリを女と決めつけるのは早急だ。頭痛にノウシンをオチに使うくらい短絡的だ。

 しかも蛇蝎とは私の注釈、言わば蛇足ではないか。


 ノウシン……、こちらの典拠は明確だ。”治世の能臣、乱世の奸雄”。

 そう、奸雄。雄は雄でも英雄のほうだ。

 奸をひとまず留め置けば、要は曹操はアニマル認定されなかったということだ。それが問題であり真相究明の糸口でもある。


 人間とはつくづく人と動物を混ぜたがる生き物だ。人評においても”蜀は龍を。呉は虎を。魏は狗を”といった具合に。

 それを踏まえれば馬超は馬、呂布は生き様が獣、劉備は水魚の交わりのウキンノトウ、孫権は狩るほどの虎好きだ。


 動物園さながらの群雄割拠。

 人間のままでもアニマルと仲良くなれるお兄さんは居る。しかし乱世はそれを許さない。

 アニマルにとっては孫権こそ問題に思えるが、馬超との縄張りが離れ過ぎて見過ごされたか。

 それはさておき、人は獣には敵わない。だから武器を使う。

 では敵が獣の勢いと武器を手にして襲って来たらどうすればいいのか。


 人間だけが嘘をつく。使い古された言葉だがこれに尽きる。

 それが奸、悪知恵である。


 つまり嘘とは対抗手段。しかし人馬一体、馬同然の馬超にはそれが受け入れられなかったのだろう。

 擬態、変化、死んだふり。獣にだって嘘はあるが人間の嘘は悪い嘘と言わんばかりの敵視。

 対袁紹戦、官渡の戦いにおいて曹操は烏巣(うそう)、つまり烏の巣を焼き、兵糧を無駄にした。その行為を伝え聞いた馬超が曹操をアニマル最大の敵と認定してもなんら不思議はない。

 潼関の戦いにおいて優勢な追撃戦を牛馬の策で手玉に取られる馬超の様はまさにアニマルであり、当の馬超の目には曹操に操られるフレンズが苦々しく見えたことだろう。


 思えばアニマルが曹操を嫌っている節は前々からあった。馬超と出会う遥か前の話である。

 曹操は行軍中に収穫前の麦畑を見て、これを踏み荒らす者は死罪と決める。

 途端、鳩と馬が牙をむいてきた。

 辛くも曹操は虚実入り混じった方便で難を逃れる。そしてそれが美談となった。

 鳩と馬の戯れか、殺意のこもった本気なのか、そのどちらにせよ曹操の株を上げる出汁にされた格好ではアニマル達にとっては益々面白くない。

 この因縁は鶏肋に繋がり、馬が合わぬと言わんばかりの体験が馬超の到来を予感させる。


 では清い心を保っていれば、嘘は自ずから退くのか。

 馬超はフレンドリーな性分から劉備を字で呼んだ無礼者だと噂され、曹操憎しの度が過ぎて挙兵の前後関係がぼやけてくる。

 本人が清廉でもその伝記は勝手に話を盛られ真偽が曖昧になった。無礼が濡れ衣だとすれば気の毒な事この上ない。

 曹操の虚言を暴くつもりではじめた考察が、我々ウソ歴史家や創作ニューススピーカーが襟を正すべき痛恨事に直面するとは、反省することしきりである。


 結論を急ごう。

 後年の曹操は圧倒的国力の割に苦戦し、激しい片頭痛にも苦しめられる。

 それは郭嘉という才能の喪失と共に嘘の精彩を欠いたせいではないのか。

 9番目にあげた匈奴の使者の逸話が真実だとすれば、騙しきれなかったのがその証左である。


 嘘について理解を深めた今、ここに仮説を立てよう。

 若かりし頃の曹操は嘘により体内のバランスを保っていた。

 しかし十の勝因と敗因、郭嘉の真実に触れ、それに抗すべき嘘を用意できずバランスを取り損ねた。

 郭嘉は38歳の若さでこの世を去る。曹操が憂うにつれ郭嘉は神聖化され、思い出すたびに曹操は真実に侵食、圧倒されていく。

 責任ある地位に昇るにつれ嘘をつき辛く、実力を蓄えるにつれ嘘の必要がなくなったのも災いした。

 そして崩れたバランスの代償が激しい片頭痛だ。


 魏志倭人伝の時節の曹操には巧みな嘘は無い。私はそう考える。

 もし卑弥呼への下手な嘘がバレれば、格好の笑い話とここぞとばかりに騒ぎ立てる者が一人は居そうなものだが、今だかつてそんな話は耳にしない。


 患者は嘘をつく。誇張、勘違い、羞恥、様々な理由があろう。

 曹操はバランスの為だ。


 人によっては、ついた嘘に誰かが騙されるのを見ると気が紛れ痛みが和らぐ事もあろう。

 曹操は女の子。それが供養になるとしたら、かわいい嘘ではないか。


  (完)

ウキンノトウ(拳児より)

患者は嘘をつく(Dr.HOUSEより)

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