出会い
更新遅くなってしまい申し訳ございません。
ランディールが四歳の時だった。
その日、彼は村の近くの森に遊びに来ていた。
森は人間を襲うような魔物はいないため、母親の許可が下りたのだ。勿論、加護の魔術をかけられ、回復の簡易魔法陣を持ってではあったが。
森はランディールの大好きな場所であった。薄暗く、ひんやりした空気が彼にはたまらなく良かったのだ。森の中で好きな昆虫の採取をしながら歩いていた。
その時だった。
「きゃあ!」
ランディールの耳に悲鳴が聞こえた。
この森で人の声を聞く事はそうない。そもそも村の人間はあまり森に近寄ろうとしない。
ランディールは不思議に思って声のした方へ歩いていった。
そこにはランディールの見た事がないものがいた。
片方は狼みたいな魔獣。片方は人の形をした、耳の長い魔族の少女。よく見ると少女の方は脚に大怪我をして血が出ている。
魔獣の咆哮が森に響き渡る。
危ない。ランディールは本能的にそう感じた。
「ガァ!」
狼が跳びかかった。次の瞬間だった。
少女の手が橙色に光り、火の玉が飛び出した。それは狼の顔に直撃する。
目標を捕えられず狼は地面に着陸した。その目に怒りの炎を灯して。少女も負けじと敵を睨みつける。その手が再び橙色に光る。
勝てないと本能で悟ったのだろうか。狼は踵を返して走り去った。
「すごい」
一連の騒動を見たランディールは思わず感嘆の声をもらす。と、慌てて自分の口を手で塞ぐが――ピクピクと少女の耳が動き、『誰だ!』と手をランディールのいる方に向けた。
先程の光景を見ていたランディールは自身の失態を恨む。もしかしたら帰れない……?そんな恐怖が体を蝕む。どのみち居場所はもうバレてる。ランディールは無理矢理体を動かして姿を見せた。
『人間……』
聞いたことのない言葉。だが、不思議と意味はわかった。
『ご、ごめんなさい』
自分で言って自分で驚いた。突いて出た言葉は魔族が使っている言葉と同じものだったのだ。
『言葉を喋れるのか……?お前も魔族なのか?』
なんかまずい。ランディールは慌てて首を横にブンブン振った。
『何なんだ……お前!』
詰め寄ろうとした魔族が足の痛みで顔をしかめる。その顔は本当に辛そうで――
『大丈夫?』
思わずランディールは駆け寄った。
『近寄るな!』
『でも治療しないと』
お母様が苦しんでいる人には優しくと言ってたのだから。
怪我で思うように動けない少女を抑えて、ランディールはポケットから紙に書かれた回復の簡易魔法陣を出して出血している部分に当てる。
「込められし魔力を開放せよ」
母親から習った言葉を唱える。紙に書かれた魔法陣が緑色に発光し、やがて収まった。ランディールが紙をどけると怪我はすっかり治っていた。
『え……?』
初めての事だったのか治った傷口に少女は困惑していた。
『大丈夫か!?ソーニャ!』
突然、足音と共に一人の少年がランディールと少女の前に姿を現した。
『ソーマ!』
ソーニャと呼ばれた魔族の少女はその少年を見て嬉しそうに立ち上がった。
よく見るとその少年も少女と同じように長い耳を持っていた。
『人間か!』
ソーマと呼ばれた少年は先程の少女と同じように手をランディールに向ける。
『ぼ、僕は――』
『ソーマやめて!』
ランディールの言葉を遮って少女はランディールの前に立ち、射線を遮る。
『どけソーニャ!この場所を知られたら俺達は――』
『この人間は私を助けてくれた。それを攻撃する事は掟に反する』
『いや、だが――』
『ソーハ兄みたいに追放されたいの?』
その言葉が効果的だったようで少年は敵意のこもった目でランディールを睨みつけて押し黙った。
『ひとまず、ごめんなさい。そしてありがとうございました』
少女はランディールに向き直り頭を下げた。
『う、うん』
何がなんだかわからず、とりあえずランディールも頭を下げた。
ランディールが顔を上げると驚いたような表情をしている少年と目が合った。
『私はソーニャ。こちらが一つ上の兄のソーマです』
『ぼ、僕はランディール・フレイメル……です』
『ちょっと待てソーニャ!何であいつが俺達の言葉を――』
ソーニャがキッとした目をソーマに向け黙らせた。
『あ、あの僕、帰ります』
怖い。ランディールは後ろずさりで二人と少しずつ距離をとる。人の形をしていても所詮魔族は魔族。生かしてくれるのならさっさとこの場から離れようと。
『……そうですか。ではお礼はまた後日ということで。この事はどうか秘密にしておいてください』
背後から聞こえる声を無視してランディールは振り向いて走り出した。
次回更新は(できれば)明日の20:00です。
何故か段落の頭が空白に出来ない……