始まり
世界は二つの種族によって成り立っていた。
人族と魔族。
王国歴元年。人族は一人の王の元に結集しシレーヌ王国を築き、魔族は一部が魔王を中心として軍団を作った。
二つの種族の仲はそれほどよくはなく、魔王が支配する魔族領域とシレーヌ王国との境では様々な問題が起こっていた。
そして……、小さな火種はやがて大きな炎へと発展する。
いがみ合っていた人族と魔族が衝突し戦争が始まった。
俗に言う、人魔大戦。
王国歴一〇八年から三〇〇年近くに渡って続いている戦争である。
魔族は彼らが生まれながらにして持つ魔法を駆使し、数で勝る人間に対抗。開戦当初は見事に数の差をカバーし、戦局は魔族が有利となっていた。
しかし、王国歴一五〇年。
魔族の使う魔法を研究した人間は独自に『魔術』を編み出した。
そしてそれは戦争を膠着状態へと導いた――。
シレーヌ王国、サガリエット地方にあるニオネム村。
その村は、近年稀に見るほど穏やかで現在行われている争いとはほとんど無縁である。
近くに魔族が出る森があるが魔王軍とは関係のない魔族であるらしく、襲われる村人は数年に一度あるかないかくらいであった。
その村の防衛、付近の魔物の殲滅の任にあたる下級貴族、フレイメル家。
その当主で、魔術師カークランドは今日という日を楽しみにしていた。
妻である僧侶ナタリーの出産である。
「遅いな……」
自室で朗報を待ち望む彼もかれこれ一時間も経っていることに不安を隠せない。
なにせ二人にとって初めての子だ。無理もないだろう。
やがて彼の館に大きな泣き声が響き渡った。
「生まれたか!」
カークランドは弾けるように自室を飛び出し、彼の妻の部屋に向かった。
部屋の前まで行くと召使いのロマリーがちょうど出てきた。
「どうだ!?男か?女か?」
「おめでとうございます。元気な男の子でございます」
「そうか!」
彼は頷いて部屋に飛び込む。
そこにはベッドに横たわる彼の妻がいた。
「あなた……」
出産で疲れたのだろう。弱々しくナタリーが呟いた。
「ありがとう。ナタリー」
カークランドはその手を握る。
「良くやってくれた」
そんな彼の言葉に彼女は微笑み、自分の隣にある小さなベッドを指さした。
カークランドはそのベッドに近寄る。
小さな可愛らしい赤ん坊がそこにはいた。
「男か……」
彼は嬉しそうに呟く。
「名前は……?」
妻の問に彼は微笑んで答えた。
「ランディール。この子はランディール・フレイメルだ」
ランディールと名付けられたその男の子は元気に育った。
また、魔術師と僧侶の間の子だからであろうか、ランディールは魔術の才能も秘めていた。
それが分かったのは彼の五歳の誕生日。
カークランドはランディールにしきたり通りに杖を贈った。魔術の訓練を始めるために。
そして……、杖を使ってみなさいと促した彼の顔に水を吹っかけたのだ。魔術で作り出した水を。
カークランドとナタリーが喜んだ事は言うまでもなかった。
ランディールはその後両親から魔術を教わり、九歳になった時、首都ケラノスにある魔術学校に入学することになった。
感想でご指摘を頂いたとおり、くどいと思われる箇所を訂正いたしました。