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魔女の秘密?

お役人の男がわたしから距離をとり、そこに立っていた。わたしに近づかない。やはり彼女のようにはいかない。わたしに優しさをくれるのは彼女だけだ。

「彼女が心配して探していたよ」

また、心配させてしまったのか。

「うるさい」でも、この人には関係ない。「あんたにわたしの何が分かんだ」

敬語でない、本心が漏れ出た。いつも押し隠す言葉の数々にむずむずする。こんなにさらけ出して良かったのか分からないけれど、感情が言う事を聞かない。自由に感情が揺れ動く。感情が口を動かす。喉の奥から、本音が鳴り出す。

 心の中が曝け出される、警報が鳴る。

 「彼女はわたしの神様なのに、妹様も、兄様も、忘れてしまってる。そんなこと許せない。神様は完璧な存在なんだ。彼女は完璧じゃなきゃいけないのに…」

 あの雨の日以降寂しくなって、わたしに寄ってきた彼女は、優しくなくちゃいけないのに、記憶を消した。

 雨で濡れて服がべとつく。醜いわたしにはぴったりな服だった。思考が彼女にしか向いてない。人形だったあの頃は、あの人に。今は彼女に。

 わたしの神様。わたしの物。わたしが思った通りであってほしい。

 それなのに、役人の男はわたしに告げた。

 「彼女は神様じゃないよ」

 …


 「彼女は魔女で、どうしようもなく人なんだ」

 …


 「…知ってますよ」

 雨の音が聞こえる。葉にあたり、速度を落として、地面に滴る落ち着かない音が。男の傘に弾けて割る雨玉はガラスのように透き通っていた。

 誰かが小さく笑っていた。

 わたしが小さく笑っていた。

 「こういう方法でしか、わたしには生き方がないんです」

 わたしは結局変わらなかった。

 「誰かに依存する生き方しか知らないんです」

 森の木々は大きく、私の身は小さく、矮小だ。わたしの命なんて投げ打ってでも、酷い扱いを受けでも、それでも尽くさないといけない相手がないと生きていけない。それを捨ててしまうことや、相手が変わってしまうことに耐えられない。

空は曇っている。あの日みたいに、厚い雲が空を覆っている。天はわたしを見放して、神様なんか居なくて、彼女は変わってしまって、人間になってしまった。

ほら、状況は同じ。あの日のように、雨に濡れている。あの日のように、寒さに震えている。あの日のように、誰かに依存する汚いわたしがいる。

 「お嬢さん、君は彼女の魔法を見たことがあると言ったね」

 …

 「彼女は、記憶を失っていると言ったね」

 …

 「帰ったら、彼女に魔法の対価を教えてもらうといい。魔法を見せた君ならきっと彼女は教えてくれる」

 対価…?

 「そして、どうか考えてみてほしい。私、いや。俺には子供が居ないんだ。お嬢さんさえ良ければ、俺がお嬢さんを引き取ろう」

 「そんなこと出来るはずない」

 こんな男と一緒に居るなんて考えるだけで虫酸が走る。

 「俺の家内は子供が出来なくて、夜毎悲しい目をするんだ。寂しそうに。そこに、彼女の元にいる君を見つけた。これは運命だ」

 「嘘でしょ?彼女が、お役人は嘘つきだって」

 「嘘じゃない。それも魔法の対価とまとめて聞けばいい。彼女とは大学からの同期だ。よく俺の事を知っている。俺の嘘も、本当も、彼女の前では通じない。そうしないと…」

 そうしないと?と次の言葉を促した。


 「君の存在は消える」


 「どういうことですか?」

 「俺の口からは言えない。彼女の口から言うべきことだ。ただ、彼女が魔法で救った命を、このままみすみす見逃すのは癪だ」

 役人の男はくるりと身を翻した。背中を向けられる。あの人のような背中が今では小さな背中に見えた。

 このまま思わせぶりな言葉だけ放って、帰る気だ。

 「待ってください。あなたの口からでもいい。教えて下さい。彼女に何が」

 「依存するしかないのなら、依存する相手を選べ。俺は彼女をお薦めしない」最後に「俺の連絡先は彼女が持っている、俺のところに来る決心がついたら、彼女に教えてもらいなさい。彼女は君を止めやしないだろう」と付け加えた。

 なんて優しくない人だ。結局教える気なんてない。彼女に全て丸投げしている。

 男に良い思い出なんてない。彼らはいつも一方的に仕掛けてくる。これ以上何を聞いても、男は答えなんて出さないだろう。


 「嫌な人」


 依存する相手を、あの役人の男にすることは一生ない。

 絶対に…?

 ふと彼女の顔が浮かんだ。彼女は、依存に値する人だろうか。そんなことを思うのは、なんて馬鹿らしく、なんて愚かなんだろう。


 今のわたしは彼女を信じ切ることなんて出来やしないのだ。今の彼女のままでは…


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