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若人隊  作者: 柊 蕾
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第7話 皐月の過去

『 また、何処かで…会えるよ…絶対に 』




そんな夢物語の様な言葉が現実になるわけなんてないこと位、幼い皐月にも考えずとも分かっていた。



もう、二度と青砥とは会えないこと位分かっていたのだ。




だから、泣いた。




泣きじゃくった。




止めどなく溢れる涙を流れるまま、拭うこともせずに、思いっきり泣きじゃくった。




泣いても、泣いても、どれだけ泣いても、気が済むことはなかった。




そして、恨んだ。




両親を恨んだ。




自分の家が商家であることを恨んだ。




首都へ行くことになってしまったことを恨んだ。




ずっとずっと、いつまでも青砥の隣に居たかった。



自分が、青砥の隣で笑っている存在でいたかった。



互いに、いつまでも、支え合い続けていく存在でいたかった。




 それが私の望みだったのに……。




 唯一と言っていいほどの…。




 他の大切なものを排除してでも叶えたかった望みなのに……。





『 …私は望みを叶えることができない…?』





それを悟った瞬間、皐月は全てに絶望し、深淵の淵へと沈んだ。



とても深く、暗く悲しみに満ちた深淵へと。



それから、皐月の今までの明るさはすっかり消え失せ、感情の起伏が乏しくなってしまった。



笑うことも全くと言っていいほどなくなり、いつも冷静頓着な無表情で、眉ひとつ動かさず、何事にも動じず、微動だにしない大人しい女の子……最早、大人し過ぎる女の子と言っても過言ではないほどに激変してしまった。




五条夫妻は激変してしまった娘を心底心配した。



話をしようと試みたり、語りかけたりしたが、もう皐月の耳にはどんな言葉も届くことはなかった。





五条家は、首都へきたことにより収入が更に増え、安定した。



そのため、五条夫妻はこのまま首都に住まうこととした。



時間が止まったままの皐月を残し、ただただ時間は過ぎていった。





しかし、平和なある日。




大事件が起こった。




『研究室大爆発』だ。




連日、ニュースで報道され、嫌でも皐月の耳に入ってきた。



初めは、全く興味など無く聞き流していた。



しかし、ウイルスに対抗するため『若人隊』と言うものの人員を、全国各地から収集すると聞いた時は、珍しく目を見開き、驚きの感情を露にした。




13歳から17歳まで。



自分はその時丁度、13歳。



そして、テストに合格した素質のある者が、全国から選び抜かれる。




そこまで考え、その話に飛び付いた。




  青砥に会えるかも知れない




そんな淡く儚い希望を抱いて。




会えるかどうかなんて保証は出来ないし、分からない。




でも、少しでも希望があるならそれにかけてみたかった。




藁にもすがるような想いだった。




首都は一番初めにテストがあり、首都から遠ざかるほどテストはどうしても遅くなるらしい。



となると、藤宮は何年か後になるだろう。




しかし、それでもいいのだ。




会えるかも知れないなら……。




少しでも望みがあるのなら。




五条夫妻は久しぶりに反応を示した娘を見て、心底喜んだ。



入隊することが危険なことだと分かっているが、それでも娘がそれを望むのであれば…と文句一つ言わずに賛成し、送り出した。





そして、テスト当日。



皐月のテストは、ものの数分で終わってしまった。



合格点を遥かに上回り、参加者の中で最年少ながらもトップの成績で、通過した為である。



誰もがその栄誉を称えたが、皐月にとってそんなことどうでもよかった。




それからと言うもの、訓練学校に入学してからも首席を保ち続け、遂には若人隊の幹部まで上り詰めた。




そして現在。




ずっと待ち焦がれていた青砥が、見事合格を果たし、若人隊へ入隊してきたのである。





彼女は語り終え、一息ついた。




「ふぅ。まぁ、こんな感じかな?今はもう可笑しなことにはなって無いから大丈夫。特に、青砥に会えたから…もう全然平気。むしろ、元気な位」




嬉しそうに愛おしいそうに笑った。




俺はただ、




「…ごめん。本当にごめん」




と謝った。


理由は自分でもよく分からなかったけれど、謝らずにはいられなかった。


これまで、のうのうと平和にただ過ごしてきた自分が、どこか後ろめたくなったのかもしれない。


「なんで謝るの?止めてよ。私が勝手に待ってただけだから。青砥には、なにも関係無いこと。平和に過ごしてくれていたならそれでいいもん」


そう言うと彼女は悲しげに微笑み、俺も同じ様に微笑み返した。


「あと、思ってくれてたのは凄く嬉しいんだけどさ、何て言うか、流石に重い……」


「……重いかぁ~。でも、私の気持ちはこんなもんじゃ無いよ?」


少しおどけた表情を見せる。



その顔に少しだけ安心した。



さっきから、悲しげで沈んでいる様に見えたから、不安で仕方なかったのだ。




すると、彼女がおもむろに俺の手をとった。



彼女の手はびっくりするほど冷たかった。




「なッ…!お前、いつからここにいたんだよ!?」




「う~ん?どれくらいかな?青砥なら、一通りのことが終わったら絶対に歩いて散歩しに来ると思って……。2時間位かな?」




俺は苦虫を噛み潰した様な顔をして、無防備な彼女の頬を軽くぺちっと叩いた。



彼女は、信じられないとばかりに驚いた顔をして、呆然としていた。




そして俺は、恥じらいを隠すため顔を背け、彼女を抱き寄せた。




「…まったく。心配掛けさせんなよ。こんな夜更けに2時間も立ってんじゃねぇーよ。…風邪でも引いたらどうすんだよ」




ちらりと横目で彼女を見ると、彼女は顔をくしゃくしゃにして、今にも泣きそうな顔でこちらを見上げていた。




でも、嬉しさを噛み締めているようにも見えたのだった。




「ごめんなさい。気を付ける。…ありがとう。嬉しい……」




彼女は俺の胸に顔をうずめた。




俺はそのまま空を仰いだ。




雲一つ無い、どこまでも続く暗い空。




そして、輝く幾つもの星達。




まるで、俺達の再会を祝福している様ではないか。




いや、それは少し格好つけすぎるか…?




一息つき、彼女は自分から身を離した。



「よし。じゃあ、これで感動の再会はいいか?もう、遅い。お前も帰れ。俺が送ってく」




「…ありがとう。でも、大丈夫。私も強くなったんだよ?もう、青砥に守られてるだけの女の子じゃ無いから。…それに、送ってもらっちゃったら、離れられなくなっちゃうよ」




彼女のことだから、本気で言っているのだろう。




「……そうか。分かった。気を付けろよ。じゃあ……またな」




「うん。……またね」




『また』があることを噛み締めながら、俺はその場を立ち去ろうとした。





しかし、




「青砥ッ!」




背後から名前を呼ばれた。




「…ん?何だ?」




彼女はうつ向いていた顔を上げ、顔を隠していた美しく長い銀髪を振り払い、満面の笑みで、




「…大好き。大好きだよ!!」




と言った。




そんな無邪気な皐月は、例えようが無いほど可愛らしく、余りにも美しくて、俺は思わずそっぽを向いた。




そして、




「……俺もだよ」




小声で、しかし確かにそっと呟き、その場を立ち去った。

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