第5話 再会
足音。
一定のリズムで刻まれる音。
今、その音だけ、自分の足音だけが、静かな夜の道に響いている。
俺は、複雑に様々な感情を胸に抱きつつ、心地のよい自分から発せられている音を聞きながら寮へと帰る帰路についていた。
そんなこんなで上の空だったのかもしれない。
前方にある気配に、全く気付くことはなかった。
「なーに、ニヤニヤしてるの?端から見ると、頭可笑しい人みたいで凄く気持ち悪いよ?大丈夫?」
声を掛けられてやっとその存在に気付いた。
前方には、呆れた顔をした霞が、道沿いに植えてある木にもたれかかり、腕組みをして立っていた。
「…嗚呼、何だ。霞か…。気付かなかった」
「……うん、いや、まぁそうなんだけど……。何?その反応。放心状態?…僕に対しては、なんか酷いしさぁ…」
今の俺はそんなに間抜けに見えるのだろうか。
確かに、考えたいことが有りすぎて、全ての言動に気が回っていないように自分でも感じている。
こんな隙だらけの俺は珍しい、と自分でも驚いている程だ。
「…それより、何でお前はここに居るんだ?」
俺の問い掛けを聞いて、霞は呆れ顔をすぐさまニヤリと意地悪そうな笑みに変えて、俺を煽る様に言ってきた。
「いやぁーさ、余りにも青砥の帰りが遅いから、迷子にでもなったのかなーって思って、様子を見に来たらさ……ねぇ?」
背を向ける様にして、楽しそうに事の顛末を話していた霞が、こちらの様子を伺い、更に挑発する様に顔を俺の方へ向け、笑いながら言ってきた。
「びっくり仰天!なんと、青砥が若人隊一の美女と言われる五条中佐と抱き合っているではありませんか!!」
「なっ……!?」
まさか、コイツにあの現場を見られていたとは、思いもしなかった。
警戒を今までに無いほど疎かに、怠ってしまっていたことを改めて実感し、まだまだ未熟、だと反省した。
「……失礼だとは思うけど、言わせて貰うよ?ぶっちゃけさ……僕、笑いを堪えるのに必死だったんだよねー。……だって、普段はあんなに強気な青砥が、大人しくなってるし。しかも、アレってさ……」
「……な、なんだよ。言いたいことがあるなら、焦らさないで、さっさと言えよ」
「じゃあ、許可もらったので遠慮無く言わせてもらうよ。………アレ、絶対照れてたよね……?」
「……ッ!!」
「…ねぇ、僕の予想合ってるよね?その反応、図星だよね?……端から見てると、すっげー分かりやすかったから、確信してるんだけど…?」
「……なら、言わなくてもいいだろ?……分かってるんだったら」
「おっ!それは、肯定として受け取って良いってことだよね!?認めてるってことだよね!?」
「……もう、嫌だ。お前、しつこい」
「いいんだよね!?肯定で!!」
「ノーコメントだ!!…好きにしろ」
「ごめん、ごめん。そんなに怒らないでよ。…面白いことには変わりないけど」
無言で霞を睨む。
「うわー、怖い怖い。睨まないで?」
「……お前、何処まで見てた?」
「ん?いや、そんなに見てないよ?なんか、二人が凄い話し込んでる時くらいからかな?……確か、五条中佐の過去?みたいな話のところかな」
「……お前、アイツの過去の話、聞いてたのか?」
「まさか!聞かないよ。僕には聞く権利なんて無いからね。権利を与えられたのは、青砥だ。五条中佐が過去について話し出そうとした時にはもう、耳を塞いでいたから、心配しなくても大丈夫」
「……それならいいんだけど。でも、お前、その後は見てて………」
「うん。バッチリ見てた」
「テメェ……」
「まぁまぁ、怒らないでよ。たまたま来てみたら、青砥があんなことをしてただけ……」
「うああああ!!!だ、黙れ!!うるせぇー!!」
「おやおや?照れてますかぁ?」
「て、照れてないし!!」
「……まぁ、別にどういう仲でもいいんだけどさ」
「………?」
「…五条中佐のこと、信頼してるんだろうところ悪いんだけどさ、中佐には気を付けておきなよ。…色々、有るみたいだから」
「……何だよ、それ。どういう意味だ?」
「まぁ、それはまたの機会に…。さぁ、部屋に戻ろうぜ。皆も心配しているだろうし」
「アイツ等が心配?するとは思えないけど?」
「確かに。それは、同意見だ」
「それに、門限になると色々と面倒臭いしさ」
「ん?門限なんてあったのか?」