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小さな賭け

ガサツそうに見えて、意外と理屈屋だったり貞操をきにしたり。そんなギャップを幼馴染には期待しています

「ねぇ」

また清羅が口を開けた。

「この曇り、本当に晴れて星見えるようになるの?」

「きっと晴れるさ」

「その根拠は?」

「晴れるったら晴れる」

「またあんたはそんなしょうもないこと言ってる」

「別に清羅はくだらない会話は嫌いじゃないだろう?」

僕がそんなことをいうと彼女が言いよどんだ。ぐむむむ、そんな擬音が頭の中に浮かんで彼女の悔しそうな顔が目に浮かんでくる。僕の視線はくもり空の方にあるのに、彼女の顔を思い浮かべるのは簡単なことだった。そのくらい清羅とは長い時間一緒に過ごしてきた。

本当は清羅が建設的ではない会話が嫌いだということを知っている。彼女はガサツそうに見えて意外と理屈屋で理系向きの思考の持ち主なのだ。嫌いなものはハッキリ嫌いという。なのに、今彼女が嫌いだと言おうとしなかった理由は枕詞をつければすぐわかる。


“僕との”くだらない会話は嫌いじゃないだろう?


こう言うとナルシストだのなんだのと清羅からは罵倒されるから口には出さない。でもそういうことなのだ。ちなみに僕は清羅以外の誰かとくだらない話をするのは嫌いだ。

「ここに来てからまだ一時間くらいしか経ってないじゃん。そりゃ天気予報見てなくて今夜が曇りだっていうのがここで初めてわかったことは謝るよ。でもそらを見てごらんよ。雲の流れが速いからじきに星空も見えてくるんじゃない?」

清羅が押し黙ったままなので僕が釈明に入る。

 学校を出るころ、夕方の下校時間にはまだ空は晴れていた。しかし地下鉄に乗って空を見ていなかったわずかな間に晴れから曇りへと変わってしまっていた。夜までずっと晴れだと甘く考えてたのがいけなかった。おかげでさっきのように清羅からは怒られ、流れ星が見えない可能性すら出てきた。だが、僕は諦めない。星空が顔を出すまで僕はじっくり辛抱強く待つつもりだ。今夜は絶対に流星群をみるって心に誓ってある。清羅には悪いが最後まで付き合ってもらおう。関東では日付が変わったくらいには晴れるって天気予報でさっき確認したから、朝まで待てばみるチャンスはあるはずだ。

「ねぇ、一応聞くけど何時までここにいるつもり?」

「もちろん、流れ星が見えるまでさ。譲歩するつもりはない」

それを聞いた清羅ががばっと勢いよく起き上がる。もちろん姿が見えたわけではないけれど気配で分かった。ついでに清羅の怒気も伝わってくる。怒りの割合が半分くらいになったみたいだ。

「あのさぁ! 明日だって学校あるんだし、しかもここ、家から2時間もかかったんだよ。そんな長くいられるわけないじゃん!」

「明日、女バスって朝練あるの?」

「それはないけど」

「なら、いいじゃ……」

「良くない! なくても門限ってもんがあるでしょ!」

軽口を叩こうとしたところで清羅にさえぎられる。そう言われるとあまり強く反論できない。現在の日付は10月9日午後8時18分。東京メトロやJR、それに郊外のバスなどを乗継してここまで来た。乗車している時間自体は1時間と意外とかからなかったけど、そこからが長かった。最寄りのバス停からこの観測ポイントであるこの丘まで歩いて1時間かかった。なんていっても東京にあるはずなのに標高が高い。目線を下に下げればすぐに人工的な星空が見える。街の灯り、普段その街中にいるはずなのにここからだとまるで違って見える。それもそのはずだ。ここには明かりが何もない。おまけに今は空も曇っていて月明かりなどがなにもない。おかげで街から遠く離れたこの丘からは別世界のように綺麗に見えた。これはこれで見飽きないのだが、僕たちが見に来たのはあれではない。ともかく、ようやく雑誌に書かれていた目印――江戸時代からある1件の古い民家――を見つけると2人とも溜まっていた疲れが押し寄せてきてそのままこの草むらに寝転がっていた。そのあとはずっと身じろぎもせずにぽつぽつと会話を続けていたというわけだ。もちろんそういった事情もあるがそれ以上に清羅が気にしているのは門限だ。清羅の親は門限とか気にしていないのだろうけど、意外と本人はそういうことを気にする。でも今日は僕も引き下がるわけにはいかない。なんとしても流れ星をここでみたいのだ。僕は流れ星にある賭けをしていた。

清羅の機嫌をこれ以上損なわないように言葉を選ぶ。

「……じゃあさ9時半まで、9時半までに雲が晴れなかったら、帰るよ」

譲歩はしないとさっきは心に誓ったものの、ものの5分もしないうちに決意は崩れてしまった。でもこれもしょうがない。僕一人で流れ星を見ても意味がないのだ。清羅にも見てもらわなければ。

「いったね? それ、絶対だからね」

こうして自分が関与できるわけでもないタイムリミットが始まってしまった。



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