秋口の丘
短編ぐらいの長さで書いていこうと思います。頑張って毎週金曜日に更新する予定です。改稿しました
草むらに秋口の冷たい夜風が吹き抜ける。寝転がっている僕たちの耳に、揺れた草が触れたか触れないかぐらい微かに肌をかすめてなんだかむずがゆかった。胸をいっぱいに膨らますと、草木独特の青臭くて甘い匂いがする。都会ではこんな匂いを嗅いだことがないので、いまさらながら遠いところに来たのだと実感した。
耳を澄ませば風の音も聞こえてくる。といっても風のひゅうっという風切り音ではない。風に吹かれた草や木々がこすれる音、虫が驚いて草の上を跳ね回る音など、普段聞こうとも思わない小さな音が積み重なって涼やかな風の音として聞こえてくる。
背中からはしっとりとした夜露の感触が伝わってくる。秋も中ほどになった今夜は、すでに涼しいというよりもひんやりといった方がしっくりくるが、不快感はない。制服のまま寝転がってしまったので制服を洗いなおさないといけないが、普段こんな自然の中で何もせず、しゃべったりすらせず、ただずっと星空を見上げているなんていう体験はしないから、それにくらべれば制服のクリーニング代なんて安いものだと思う。
周りには明かりが1つもなく、期待していた月明かりも曇天でなかった。周囲には誰もおらず、聞こえてくるのは風や虫の鳴き声といった、自然の音。そして僕の近くにいる幼馴染の吐息のみ。五感を研ぎ澄ましてみてもわずかな音ばかり。僕は世界にたった2人取り残されたような錯覚がずっと続けばいいのにと思った。