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終わりの鐘が鳴る前に  作者: 神崎葵
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迷彩エレジー

12月になり、涼平は菅野への気持ちに変化を感じていた。

そんな中、友人二人は涼平を心配して探りを入れてくる。

青春群像劇、幸福論シリーズ最終章開幕。

 幸福を世界の中に、自分自身の外に求めるかぎり、何ひとつ幸福の姿をとっているものはないだろう。

 海外の偉い哲学者はそう言っていたように、幸福は意外と身近な部分、自分の中に存在しているのかもしれない。

 それは当たり前のことかもしれない、自分の感情の中にあるかもしれない。

 ただそれも幸福と定義する中で、必ず有限である。

 


 街もあっというまに寒気に包まれていた。

 今年は暖冬だとかニュースでやっていたが、流石に12月にもなると寒さでコートにマフラーという重装備を押し入れから引っ張りだして来た。

 気付けば、タイムリミットまで1ヶ月を切っていた。

 俺、長谷部涼平は、何故か死神の試練とやらで、クラスメイトの菅野雪乃を幸せにしないといけないらしい。

 しかも、年内にできなければ、俺は死んでしまうらしい。

 死神の不手際が原因なので不満もあるが、相手が常識の通じる存在ではないので、その点は諦め始めている。

 その対象と、この数ヶ月楽しく過ごした。

 しかし、彼女を幸せにするどころか、突破口すら見出せずにいた。

 現在、俺はその相手と微妙な関係にある。

 関係というか自分の心境だけである。

 そう、俺の中の彼女の存在が変わりつつあることに気付いていた。

「おはよう」

 ぼーっと自分の席で考え事をしていると、横から戸松香澄が声をかけてくる。

 もう一人の幼なじみである日高進は、彼女の後ろに立って表情で挨拶してくる。

 相変わらずの青少年ぶりだ。

「おはよう」

「相変わらず、元気無いね」

「涼平が元気でも、それはそれで怖いけどね」

 死にそうな返事をすると、二人が笑って返してくる。

 しかし、ここ最近悩んでばかりで、二人には心配をかけているようだった。

 必要上に気を遣ってくれる。

「じゃあ、明日はタンクトップ一枚で、筋トレしながら挨拶してやるよ」

「やれよ」

「嘘です」

 強がってみせる冗談に、戸松は真顔で返してくる。

 こういうやり取りを、もう十年以上続けていると思うと、何故か自分の心を安心させた。

「おはよう」

 声の方向を振り返ると、菅野が立っていた。

 パステルカラーのコートを身に纏って、彼女は教室に入って来てすぐにこちらに来たらしい。

 鞄も手に持ったままだ。

 サイドテールの髪をひょこんと動かして、笑顔で近付いてくる。

 ここ最近、彼女を意識している自分が居ることに気付いた。

 修学旅行から帰って来てから、たまに話したり一緒に帰っているうちに彼女が特別に見えてしまっていた。

「おはよう」

「涼平?」

 反応する戸松と日高と違って、俺は無反応だったらしい。

 俺の中では変化があっても、彼女はそんなことも知らずに心配して、菅野が顔を近づけてくる。

「え、あ、どうした?」

「何かボーッとして、体調でも悪いのか?」

 原因の主に心配されても、どう返したら良いか困ったものである。

「大丈夫?」

 菅野の脇からひょこっと小柄な少女が顔を出す。

 菅野の親友の悠木である。

 彼女もまた、俺を心配して伺ってくる。

「ああ、大丈夫だ」

「それなら良かった、涼平は深夜アニメばかり見ているじゃないか?」

「お前と一緒にするな」

 互いに憎まれ口を叩き合うと、彼女は「じゃあ、後で」と自分の席に向かう。

「やはり旦那の体調は心配だろうな」

 彼女が自分の席に座り、声が聞こえないのを確認すると戸松が茶化してくる。

「誰が旦那だ…」

 以前からこのやり取りを戸松としているが、最近は反応に困る。

「最近、リョウの様子が変だよね」

「上の空の事が多いね」

 隣で二人が悪そうな顔で、俺のことを横目で見てくる。

 こいつらには悪魔の尻尾でも付いているんじゃないか。

「そうかな?」と恍けてみせるが、戸松もまた恍けたフリをして切り返してくる。

「そうだよ…しかも、決まって雪乃がいるときに」

 あまりに核心を突かれて、俺はあからさまに動揺してしまう。

「そ、そんな事はないけど」

「今、明らかに動揺したよね?」

 追い打ちをかけてくる戸松に被せるように、「したね」と日高も頷いている。

 最悪のコンビネーションだ。

「しつこいな、別に普通だって」

「数ヶ月前と、明らかに違いますね」

「もうこの話は終わり」

 強制終了しようと、俺は違う方向を向く。

「じゃあ、今日は帰りに長谷部邸訪問ですね」

 そんな俺を逃がさないように、彼らは俺の家に放課後突入する気らしい。

 しかし、ここで許しては何をされるか分からない。

 本音を吐き出すまで、きっと俺は質問攻めにあうに違いない。

「何勝手に決めているんだ」

「おばさんには俺からメールしておくよ」

 そう言って、戸松は携帯を操作し始める。

 俺の意思は完全無視らしい。

「何で、お前は俺の母親の個人的な連絡先を知っているんだ」

「え、おじさんも真帆ちゃんも知っているよ?」

 長谷部家の個人情報の管理を本気で心配する。

 経験から、ここまで来たら戸松を止める術はない。

 まだ日高が味方についてくれたら、抑止をすることが可能なのだが…。

 さっき表情で「諦めろ」と言われた気がした。

「もう勝手にしてくれ」


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