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新聞記事

「じゃあな、勲章がまた増えることを楽しみにしてるぞ。ワインを用意して待っているからな。」

家の玄関で父さんはそう言うと僕の肩をポンと叩いた。今日は休暇が終わり戦場へ戻る日だ。久しぶりの家での生活は思っていたよりもはるかに居心地の良いものだった。僕はブーツを履きながら父さんに言った。

「うん、そうだね。でも今回は兄さんに会えなかったのが残念だな。」

兄のルドルフは以前はこの家に住んでいたのだが勤務先の会社から転勤を言い渡され今は両親とは離れて暮らしているのだ。その為今回は会うことが出来なかったのだが父さんによるとルドルフは会社で上司と喧嘩をしてしまった為に今までしていた新型戦車の開発の仕事を外され今はどうでもいい仕事を片田舎でやらされているのだとか。プライドの高い兄が自暴自棄にならないことを僕は祈った。

「お前が来たことは伝えておくよ。元気でな。」

父さんがそう言った後母さんが涙ながらに言った。

「勲章なんかどうでもいいのよ。……無事に帰ってきておくれ。」

母さんの悲しげな顔は見ていて辛くこちらまで泣きそうになった。僕は両親と抱擁を交わした後家の玄関の扉を開けてから振り向いて言った。

「じゃあ行くね。」

それだけ言ってから僕は駅に向かって歩き出した。暫く歩いてから一度振り返ったが父さんも母さんもまだ玄関で並んで僕を見送ってくれている。僕が手を振ると二人とも手を振り返してくれた。いつの間にか自分の目に涙が溢れている。僕は両親に背を向けると涙を拭ってまた歩き出し今度は一度も振り返らなかった。


駅に着くとグラツィエ准尉が僕を待っていた。准尉は僕を見るとにっこりと微笑みながら敬礼し話しかけてきた。

「少尉殿、休暇は如何でしたか? ゆっくり出来ましたか? 」

「ああ、久しぶりに会う家族ってのは悪くないな。楽しく過ごさせてもらったよ。」

僕がそう答えると准尉は笑顔で頷きながら言った。

「それは良かったですね。ではもう一つ少尉殿がお喜びになられることがあります。これを見て下さい。」

准尉はそう言うと自分が持っていた鞄を開いて新聞を取り出し僕に見せた。

「凄いでしょう? 少尉殿は今や国民のヒーローですよ! 」

新聞にはバウアー大尉と僕の写真が大きく取り上げられていた。見出しには大きく『敵戦車八十台撃破の両雄、騎士鉄十字章を授与!』と書いてあった。僕は驚いてその新聞を受け取ると記事を読み始めた。

「なになに、『アマクヤード攻略において我が軍は多数の敵戦車部隊と交戦しこれを壊滅に追いやった。その中心となったのが第七装甲師団でありその中でも際立つ活躍を見せたのが今回騎士鉄十字章授与の栄誉を授かったエルンスト・バウアー大尉とフランツ・マイヤー少尉の二人である。』……」

僕は最初その新聞記事が信じられなかった。思わず駅の売店に行きその新聞が本物であるかを確かめたぐらいだった。

「ねっ、僕が少尉殿をからかう為に偽物を作った訳ではないですよ。凄いですね! 」

そう言って微笑む准尉の顔と新聞を僕は繰り返し眺めた。するとそこへバウアー大尉がやってきた。

「すまんすまん、ちょっと遅れてしまったな。まだ汽車は出ていないか? 」

そう笑いながら小走りで駆け寄ってくる大尉に僕はすこし興奮しながら言った。

「大尉! 新聞見ました? 僕ら二人がデカデカと載っているんですよ! 」

僕は准尉から受け取った新聞を大尉に見せた。だが大尉はそれを見てもたいして驚く様子もなく言った。

「新聞掲載は今日だったか、忘れていたよ。そういえばマシューさんがそんなことを言ってたな。」

大尉は新聞を受け取ってその記事をすこし読んだがすぐに僕に返してきた。大尉はヒーロー扱いされることを何とも思わないらしい。僕はその平然とした大尉の態度が信じられず暫く唖然としていたがそこへ准尉が口を挟んできた。

「新聞の下の方を見て下さい。ナタリーさんとオストホフ伍長も写真が載っているんですよ! 」

僕は准尉の言う方を見た。するとそこにはナタリーさんと僕、それにオストホフ伍長が並んで写っている写真があった。

「コノハ族と我が軍の友好関係が記事になってますね。ナタリーさんがコノハ族のリーダー的な存在だと書いてありますよ。ナタリーさんもこれで有名人ですね。あっ! そろそろ列車が着きます。ホームに行きましょう。」

准尉はそう言うと駅の改札に向かおうとしたのだが僕は思わず准尉を引き止めた。

「グラツィエ准尉! 」

「どうしたんです? 」

「新聞をナタリー達にも見せてやりたい。買ってくるからちょっと待っていてくれ! 」

僕はそう言うと駅の売店に行った。そして売店の若い女の売り子に言った。

「その新聞を四部くれ。」

「はい、どうぞ。」

僕は新聞を四部買った。ナタリーとオストホフ伍長とリリー、それに家族に送る為だった。だが僕がその新聞を受け取っているとその売店の売り子の女性が突然大きな声で僕に声を掛けてきた。

「あれっ!? あなた、この写真の人ですよね! 握手して下さい! 」

「は? はぁ……。」

僕は言われるがままに握手をした。だがそれを合図にしたかのように売店の周りにいた人が皆僕の周りに集まって声を掛けてきた。

「やっぱりこの写真の人でしたか!そうじゃないかと思ってたんです! 握手して下さい! 」

僕は見知らぬ人に囲まれて握手攻めにあった。その様子をバウアー大尉はニヤニヤして見ていたが大尉の存在も暫くすると群衆に暴露てしまった。

「お! あっちにも写真に写っている人がいるわ! 握手して下さい! 」

僕と大尉、そして准尉は慌ててホームの方に走って群衆から逃げてなんとか列車に乗り込んだ。その列車は軍用の為軍関係者しか乗れなかったので僕らは一旦握手攻めから逃れることに成功した。だが暫くすると今度は列車の中で新聞を読んだ兵士達から握手攻めにあった。最初こそはちやほやされることに戸惑いながらも嬉しくもあり皆の握手に応じていたが一時間もするとその状況にうんざりしてきた僕らは寝たふりをすることにした。映画スターとかの仕事は思ったより大変なんだなと僕はこの時思った。


僕らはその後列車とトラックを乗り継ぎ二日かかってようやくイカサの町に到着した。イカサの町にはアマクヤードで激戦を戦い抜いた第七装甲師団が補充と再編成の為に駐屯していたのだ。バウアー大尉と僕は第七装甲師団司令部が置かれている建物に出頭し師団長のシラー少将に本国から戻ったことを報告した。

「エルンスト・バウアー大尉、フランツ・マイヤー少尉、只今戻りました。」

「おう! 待っていたぞ! まぁ座れよ。」

師団長が使っている部屋の中央に備えられた二人掛け用のソファに僕らが座るとその対面に少将が腰を下ろした。だが少将はすこし落ち着きがないように見える。するとバウアー大尉が口を開いた。

「我々がいない間に何かあったのですか? 」

すると少将は灰皿に置いていた葉巻を手に取るとそれに火を着けながら言った。

「偵察隊の情報によると敵の反撃が始まるらしい。」

「いつです? 」

思わず僕は身を乗り出しそう聞いた。やはり戦いは続くのだ。心の片隅にあった終戦への淡い期待は儚くも消えさった。僕は飛んでいきそうな自分の精神をなんとか身体に繋ぎとめつつ少将の顔を見つめた。

「すぐにだ。アマクヤードの先で敵は大部隊を集結させている。雨季が終わり道路状況が良くなったから攻撃があるだろうと覚悟はしていたがこんなに早く敵が準備をしてくるとは思わなかった。我々第七装甲師団も準備が出来次第アマクヤードへ向けて出発だ。」

シラー少将の言葉は衝撃的だった。故郷のクレリバーで両親と過ごしたのがもう遥か昔に思える。やはり現実は甘くない。また死と隣り合わせの生活が始まるのだ。僕は気分が悪くなって吐きそうだった。それに気が付いたのかシラー少将が突然僕に声を掛けてきた。

「どうした? マイヤー少尉、顔色が悪くないか? 」

「いえ、大丈夫です。」

なんとか返事をしたがそれが精一杯だった。するとシラー少将は急にニヤッと笑って言葉を続けた。

「休暇帰りで気持ちは分かるがそんなに落ち込むな。そうだ! お前達に見せたいものがあるのだった。ちょっとついてこい! 」

シラー少将はそう言うと部屋を出て建物の裏手に僕とバウアー大尉を連れていった。するとそこには巨大な物体がシートに覆われた状態で横たわっていた。シラー少将はその物体の前でニヤニヤしている。それは長さ十m、幅四m、高さ三mといったところだろうか、シートの為に姿は見えない。けれども僕にはそれが何であるかすぐに分かった。おそらくバウアー大尉もそうであろう。それはクレリバー近くのハーゲ社の工場で見た鉄の塊に違いなかった。

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