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オストホフ伍長

「少尉、前方やや右手に何か見えます。友軍のトラックのようです。」

ハンスがそう僕に言ってきたので僕は双眼鏡を手に取り前方を見据えた。すると雨が降りそそぐ中前方七百m程のところに友軍のマークを付けたトラックが一台停まっているのが見える。

「何故あんなところで停車しているのでしょう? 」

ハンスが続けて僕にそう聞いてきた。確かに何かおかしい。燃料切れで立ち往生でもしてしまったのだろうか? 僕はそのトラックを睨みながら皆に言った。

「よし、近づくぞ。一号車以外はその場で待機、周囲の警戒を怠るな。何かの罠かもしれん。」

僕はそう言ってぬかるんだ路上をゆっくりとトラックに向けて突撃砲を走らせた。近づいてみるとそれは友軍の医薬品を輸送しているトラックのようだが人の気配はない。

「ちょっと見てきましょうか? 」

周囲に敵の気配もなくイーヴォがそう言うので僕はイーヴォとペットゲンを突撃砲から降ろし徒歩で偵察に行かせた。そして暫くすると二人は戻ってきたがイーヴォは真っ青な顔をしている。

「どうした? 」

僕がそう聞くとペットゲンが答えた。

「友軍の兵士が二人嬲り殺されてるっス。トラックの積荷も空でなくなってるっス。」

それに続いて気分の悪そうなイーヴォが口を押さえながら言った。

「……どうやら敵に襲われたようですね。」

イーヴォの口調から僕は死んでいる友軍の兵士の様子が大体想像が付いた。ハンスも同じだったようで憤ってこう言った。

「なんて奴らだ! こちらも報復措置を取るべきです! ル・カメリカの捕虜へ同じことをやり返してやりましょう! 」

確かにル・カメリカ軍は至る所で捕虜の虐殺を繰り返している。ハンスが怒るのも無理はなかった。僕は取り敢えずこの事を第七装甲師団本部に無線で報告したが暫くすると本部から我が小隊へ初めての作戦行動命令が暗号で送られてきた。ペットゲンがその命令を解読する。

「我々がいるこの場所から北東に一km行ったところに森があってそこを今日の夕方補給部隊が通りがかるっていう嘘の情報を敵に流したらしいっス。マイヤー小隊はその森で敵を待ち伏せして攻撃しろって命令っスね。ゲッハ中尉の補給部隊もマイヤー小隊に協力し行動を共にせよとのことっス。」

それを聞いてハンスが言った。

「虐殺された二人の兵士の仇討ちですね、やり返してやりましょう! しかしこんな命令が出るってことは補給部隊が戦線の後方に紛れこんだ敵から結構被害を受けているのでしょうね。」

「かもしれんな。では目的地に向けて急ごう。ハンス、前進だ。」

マイヤー小隊はゲッハ中尉の補給部隊を引き連れて北東に向けて改めて前進を開始した。


目的地である森に近づいてくると今までは見渡す限り泥しかなかった風景に変化が表れ始めた。ほんの数本ではあるが木が生えているのが見受けられるようになったのである。そしてそのまま暫く進むと数本だった木の数がどんどん増えてきて気が付くと我々は深い森の中を走っていた。森の中の路面状況は今までと比べると格段に良くトラックが立往生することは殆どなくなった。僕は森の中を五分程進んだところで全車輌を停止させた。そして突撃砲を降りるとフォクツ軍曹とハンス、それにゲッハ中尉とその副官らしき兵士とで集まってこれからの作戦について地図を広げながら打ち合わせを始めた。

「少尉殿、この森の中で戦車が通れるような道は我々が使っているこの道しかありません。この道は一本道で南西から北東に森の中を通っております。敵が来るとすればこの道を北東から近づいて来るのではないでしょうか? 」

フォクツ軍曹は僕にそう言ってきた。だがそこへハンスが口を出してくる。

「いえ、北東からだけではありません。南西、すなわち我々の後方から近づいてくることも十分考えられます。」

ハンスの言う通りだった。敵が何処から来るのかは分からないのだ。アマクヤードはこの森からだと北東に位置する。敵の本隊がアマクヤードにいることから考えれば北東から来そうなものだが我々の裏をかいて森の外を迂回し南西から近づいてくることも十分考えられるのだ。

「少尉、我々が乗っている突撃砲には回転砲塔はなく前方しか攻撃出来ません。戦車とは違うのです。敵の接近を北東からと予測していてもし後方の南西から敵が来れば大変なことになります。突撃砲が向きを変えようと百八十度旋回している間に我々は撃破されてしまうでしょう。森の中では75mm砲は長く木が邪魔をしてスムーズに旋回することは難しいと思われます。」

それを聞いてフォクツ軍曹はハンスに聞いた。

「ではどうしろと? 」

するとハンスは黙ってしまった。ハンスも結局はどうしていいのか分からないのだ。僕は腕を組み目を瞑って考えた。そして暫くすると僕は目を開いてゲッハ中尉に聞いた。

「中尉殿、トラックの荷物の中に対戦車用の地雷がありましたよね? 」

中尉は急に僕に話し掛けられて何も答えられずすこしおどおどしていた。おそらく突然質問をされると思っていなかったのとトラックが何を積んでいるかを把握していない為であろう。すると中尉の副官らしき男が言った。

「あります。それをどうされるのですか? 」

「対戦車用地雷を我々が通ってきた道、すなわち背後に仕掛けよう。ここまで辿り着く途中で突撃砲が一台なんとか通れるほどの道幅が狭くなっている箇所があっただろう? あそこに仕掛ければ万が一複数の敵戦車が後方から近づいてきてもなんとか時間を稼げるだろう。取り敢えずは我々の正面、北東から敵が来るものとして戦闘準備をしよう。」

僕がそう言うとフォクツ軍曹がニヤリとして言った。

「小隊長殿、良い考えですね。」

話がそうやってまとまりかけた時だった。急にゲッハ中尉が声を荒げて言った。

「補給物資を勝手に使用してはならん! 」

中尉は僕らが中尉に断りもなく補給物資を使おうとしたことが気に入らないようで急に怒り出した。

「この地雷を含めて補給物資は全て前線に届けるように命令されている。貴様らが勝手に使用することは認められん! 」

僕はその中尉の態度にうんざりした。確かに中尉に許可を貰ってから地雷を運用した作戦を検討するのが筋なのだが今は切羽詰まっていてそこまで気が回らなかったのだ。「そんな細かいことで目くじらを立てるなよ! 」と正直思った。だがここで中尉が臍を曲げたままでは作戦に支障を来たす。戦場では何事にも柔軟に対応せねば生き残ることなど出来ないのだ。僕は中尉の説得にかかった。

「すみません、中尉殿。地雷使用の許可をお願いします。万が一の為にその地雷は必要なのです。我々がここでやられてしまえば前線に補給物資を届けることすら出来ません。何とかお願いします。」

僕がそう言っても中尉は僕を無視していた。どうやら中尉の機嫌は直りそうもない。だがその時急にゲッハ中尉の副官が中尉の方を向いて懇願するように言った。

「中尉殿、私は少尉殿の言う通りにした方が良いかと思います。敵を撃破し皆で生き残る為です。私からもお願いします。地雷の使用許可を下さい! 」

自分の副官にまでそう言われるとさすがの中尉も地雷の使用を認めざるを得なかった。中尉は吐き捨てるように言った。

「もういい! 好きにしろ! 」

「中尉殿、ありがとうございます。それとあともう一つお願いがあるのですが……。」

拗ねている中尉に僕は追い打ちをかけるように話し掛けた。タイミングは悪いが仕方がない、どうしても頼まなければならないことがあるのだ。中尉が僕をぎょろりとした目つきで睨んでくる。

「今度は何だ! 」

「敵戦車との戦闘になった時に敵歩兵もおそらく何人かいると思います。補給部隊の兵士も戦闘に参加して敵兵の接近を阻止してもらいたいのです。」

僕がそう言うと中尉は顔を真っ赤にして反論してきた。

「少尉、我々は補給部隊だ! 君達とは違って敵と交戦することは任務ではない! 我々を巻き込まないでもらいたい! 」

「突撃砲に至近距離での対人戦闘能力はありません。敵兵が忍びよってくれば為す術がなくなるのです。それに補給部隊とはいえ銃ぐらいは撃てるでしょう? 近づいてくる敵兵に銃撃を加えてもらうだけで良いのです。お願いします。」

僕はそう言って頭を下げたが中尉は首を縦に振らなかった。どうも僕が主導で話を進めているのが気に食わないらしい。そんなことで意地を張る中尉に心底うんざりして次にどんな言葉を掛けようかと僕が考えだした瞬間だった。またも中尉の副官が助け舟を出してくれた。

「中尉殿、私は補給部隊所属ですが補給任務以外でも友軍に貢献したいと思っています。少尉殿の申し出を受けた方が良いと思います。協力した方がお互いの為です。一緒にやりましょう! 」

副官にそう言われて中尉の機嫌は更に悪くなった。だが副官の言うことはもっともなのだ。中尉は引っ込みが付かなくなり捨て台詞を最後に吐いてようやく首を縦に振った。

「何かあってもワシは責任を持たんからな! お前らで勝手にやれ! 」

そう言うと中尉は何処かへ行ってしまった。僕とフォクツ軍曹、それにハンスとゲッハ中尉の副官は目を合わせてにっこりと微笑みあった。そして僕はゲッハ中尉の副官に声を掛けた。

「ありがとう。君がああ言ってくれなかったら話はまともに進んでいなかった。君の名前は? 」

「オストホフです。オストホフ伍長です。」

オストホフ伍長は背は低いが体格はがっしりしていて笑顔にまだあどけなさの残る若い兵士だった。だが気持ちの良い笑顔の持ち主で僕は伍長とがっしりと握手をした。

「これからも宜しくな、オストホフ伍長! 」

僕がそう言うと彼はまたにっこりと笑って頷きこう言った。

「ゲッハ中尉はああいう人なんで僕に任せて下さい! 」

僕らは皆笑った。そしてようやく我々はこれで敵を迎え撃つ準備が出来る段階まできたのだ。

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