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逮捕

補給部隊の事故でいつも以上にバタバタしたが僕ら戦車隊の訓練は夕方まで続いた。そして訓練終了後乗っている戦車を戦車中隊の集合場所まで走らせそこで戦車の異常の有無の確認作業をしている時だった。バウアー大尉が僕らに明朝は戦車の整備工場の方へ集合するようにと言った。戦車は今夜はここに置いておくことになるので明日はこの戦車には乗らずに別の訓練になるのかな?と僕は思った。皆も同じことを考えたらしくペットゲンは僕に青い顔をしてこう言った。

「体力作りの20km走り込みコースだったら最悪スね。」

皆苦笑いしていた。


次の日の朝言われた通り整備工場に行ってみると僕が一番遅く全員が整列していた。しかしバウアー大尉は怒る様子もなく逆にニヤニヤして僕にこう言った。

「いよいよ正式配備になったぞ。こいつが!」

バウアー大尉の視線の先を見ると整備工場の扉が大きく開きその中で以前見たことのある砲身の長い戦車が停まっていた。三型戦車G型だ!メーカーであるハーゲ社の人間も何人か来ている。兄のルドルフもいるのか?と思ったが幸い姿は無かった。

「今からメーカーからの取扱説明が始まる。我々は以前テストで乗車した時に一度取扱説明は聞いているが確認の意味も含めてもう一度しっかり聞いておいて欲しい。」

バウアー大尉がそう言った後にバルクマンが質問した。

「今日からはこの新型が我々の愛車になるのですか?」

「そうだ!今日から我々は三型戦車F型からG型への車種変換に伴う訓練を受ける。共通する仕様も多いので訓練期間は一週間もかけないつもりだ。各自早急にG型の操作方法をマスターするように!」

「中隊には何台配備されるのですか?」

僕も質問した。

「中隊には取り敢えず四台だ。中隊長車と各小隊長車が今回G型に変わる。」

僕らの部隊は戦車四台で一つの小隊を形成しており小隊が四つ集まって一つの中隊となる。バウアー大尉は一つの中隊の長であるのだ。ちなみに中隊が三つ集まって大隊となる。

その後ハーゲ社の人間による取扱説明が始まりF型とG型の違いが細かく説明された。一通りの説明の後僕らは実際に戦車に乗り動かしながら技術者達の指導を受けて各自が要領を覚えていった。そうして時間が過ぎ正午をまわった頃だった。ハーゲ社の技術者達が休憩しようと言ってきたので僕らは一緒に食事をすることになった。整備工場の脇にテーブルと椅子を用意し食事を並べ昼食会は始まった。彼らはもし何か意見があれば是非聞きたいと言ってきたので僕は技術者の一人に照準器の視界をもっと広く出来ないのか?といった自分なりの要望をぶつけた。バウアー大尉やバルクマン達もそれぞれが自分の意見を技術者達に伝えた。彼らは僕らの話を聞きながら現段階で技術的に出来ることと出来ないことを詳しく説明してくれた。そして改善出来そうな点については内容を会社に持ち帰り更に改良を検討すると言ってくれた。そんな調子で昼食を取りながらの意見交換は活発に行われ時間は優に二時間を超えていた。

その白熱した議論が終わろうとしていた時僕は背後から小さく声を掛けられた。振り向くと兄のルドルフが物陰から僕を手招きして呼んでいた。兄もハーゲ社の技術者なのだからこの場にいるだろうとは思っていたが取扱説明に立ち会わないのは大方この前の件で気まずくヒューブナー達に会いづらいのであろう。その件では僕も腹を立てていたからよっぽど無視してやろうかと思ったが僕は仕方なく席を立ち兄のところへ行き嫌味を込めてこう言った。

「どうしたんだい?兄さん。こっちに来ないのかい?」

「いや。今日はやめておく。ただこの前の件だがな、俺が悪かった。お前から他の人達へ俺が謝っていたと伝えておいてくれないか?」

兄は僕の嫌味を聞き流してそう言った。ただ僕はそこでかなり驚いてしまった。というのも兄はどんな時でも絶対自分の非を認めず他人に頭を下げるというのはかなり珍しいことだったからだ。本来なら自分で皆に謝れ!とでも言うところなのだろうがプライドの高い兄が詫びを入れたという事実だけで僕はつい心の中で兄を許してしまった。

「分かったよ。兄さん。皆にはそう伝えておくよ。でもあの時はかなり逆上していたね。何かあったのかい?」

「あの時はあの運転手といろいろあってな。あの運転手は実はカーソン教の信者でな。俺に説教をしてきやがったんだ。」

「なんて?」

僕は思わず兄に聞いた。

「他の宗教を信仰しているならすぐ辞めて改宗しろだとかカーソン教が発行している雑誌を買えだとかな。しつこいのなんのって。それ以来奴とは顔を会わさないようにしてたんだがこの前たまたま一緒になってしまったんだ。そしたら脇見運転しながらまたしつこく勧誘してきて挙句の果てに自動車をぶつけちまったもんだからつい俺もカッとなってしまってな。もうそれ以来カーソン教はウンザリだ。」

この前酒場で皆が話していたカーソン教の噂話は本当なのだと僕は改めて思った。確かにそんな奴が近くにいれば親しく接するというのは無理であろう。僕はまた兄に聞いた。

「その運転手はどうなったんだい?」

「辞めてもらった。仕事も出来ない男だったしそれに加えて俺以外にも奴のしつこい勧誘に閉口していた人間がたくさんいたのが分かったのでな。俺としてはどんな宗教を信仰しようともそれは個人の自由だから文句は言わんが仕事をそっちのけでカーソン教の押し売りばかりしているとなるとそれは大問題だ。お前の周りにはそんな奴はいないか?」

「おかげさまで一人もいないよ。」

僕は答えた。

「なら良かったな。あんな野郎が一人でもいると大変だぞ。でもこれから現れないとも限らないからな。気を付けろよ。じゃあな。」

そう言って兄は僕と別れた。カーソン教がややこしいものなのだということを改めて兄に教わったがそれよりも兄の突然の謝罪の方が僕の心を占めていた。それは驚きだったが凄く嬉しいことでもあった。今までそんなことは一度も無かったのだから。兄に対するわだかまりが心の中で少し溶けたような気がした。その後僕は鼻歌交じりで整備工場の脇に戻りまた技術者達と戦車談義に花を咲かせた。結局この日は夕方までずっと整備工場で三型戦車G型を囲むことになった。


整備工場を出たのはもう夜だった。本格的な車種変換訓練は明日から始まるらしい。早く寝て明日に備えようと自分の宿舎に向かっている時だった。通路を歩いていると正面から三人の男が横に並んで歩いてくるのが見えた。左右の男が真ん中の男を捕まえて何処かへ連れて行こうとしているらしい。両脇の男は背が高くがっしりとした体格で首から銀色に光るゴルゲットをぶら下げている。憲兵だ!僕は反射的に身構えた。何故なら僕は憲兵が大嫌いだったからだ。というのも憲兵が所属する憲兵隊というのは軍隊内の秩序、規律を維持することを目的とした集団で軍隊の中の警察のような存在だが嫌いなのはそのやり方だった。目的の為なら強引でどんな手段も選ばないので彼らを嫌う人間は僕だけでなく大勢いた。またそれに加えて憲兵には横柄な態度を取る者が多くそれも憲兵が嫌われる要因の一つになっていた。でも僕は身構えながらも彼ら三人から目を離さなかった。そして彼らとの距離が10m程度になった時だろうか、僕は驚いて思わず声を上げた。

「オットー!」

憲兵二人に挟まれ両脇を抱えられながら中央を歩いていた男はオットーだったのだ。

「オットー!どうしたんだ?」

僕は三人の前に立ちはだかってオットーを問い質そうとした。項垂れていたオットーは僕の声を聞いて頭を僅かに上げ、そしてこう言った。

「…フランツ。いろいろあってな。また事情は話せる時に話すよ。」

そう話すオットーの顔は痣だらけだった。おそらく憲兵にかなり殴られたのだろう。目付きも虚ろだった。

「大丈夫か?オットー?憲兵中尉殿!何があったのです?」

そう言って僕がオットーに近付こうとすると憲兵が僕を睨みながらこう言った。

「少尉殿、道を開けて頂きたい。彼はとある事件の容疑者なのです。我々は彼を速やかに連行せねばなりません。邪魔をするのならあなたも彼のようになって我々に連れて行かれることになりますが。」

僕は憲兵の迫力に圧倒されてそれ以上動けなかった。憲兵に楯突く根性が無かった。僕はぐったりとして連れて行かれるオットーの後姿をただ見送ることしか出来なかった。




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