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敵陣突破

「くそっ! また対戦車砲の陣地だ! こんな陣地が一体あといくつあるんだ!? 」

アマクヤード攻略戦が始まって二日目の朝、昨日と同じように多数の対戦車砲が我々を出迎えた。戦車大隊の進撃の前に空軍が激しい爆撃を行い野砲が砲弾を大量に撃ち込んだにも拘らず昨日と同様に敵の歓迎は激しいものだった。

「フランツ、二時の方向にいる奴から順番に片付けていこう。ペットゲン、榴弾装填しろ。」

「了解。」

やり方は昨日と一緒だ。地形を上手く活用して戦車の車体を極力敵から見えにくくしてから一門ずつ撃破していく。だがシルエットの低い対戦車砲は向こうが撃ってくるまでその存在にすら気が付かないことも多く友軍の被害はどんどん大きくなっていった。

「411号車被弾した! 行動不能! 脱出する! 」

被害状況を知らせる悲痛な叫びが無線を通じて耳に響く。地形を活用出来ない戦車はどんどん破壊されていった。敵の対戦車砲の数が多すぎる為無闇に突撃しても狙い撃たれて敵陣地に近寄ることすら出来ないのだ。

「フランツ、撃てっ! 」

バウアー大尉の号令とともに僕は引金を引く。だがI-34などに比べると小さな対戦車砲は命中させるのに苦労するのだ。さっそく僕は今日の初弾を外してしまった。

「しっかりしろ! もう一発! 」

大尉の怒声を聞きながら僕は照準を微調整して次弾を放つ。一門の対戦車砲を調子の良い時は一発で片付けてしまうのだがそうでない時は四〜五発の砲弾を要することもあった。今回の獲物はニ発目で仕留めることが出来た。

「よし! 命中だ。次はその左十mにいる奴を狙え。」

撃破されて爆発しもくもくと煙を吐く対戦車砲を見て満足感に浸っている暇はなかった。大尉が次から次へと目標を指示して射撃命令を下すからである。僕はその命令通り延々と対戦車砲狩りをしなければならなかった。だが僕は弱音を吐くことなくその命令を忠実に実行し続けた。その狩りは作戦開始から四日間にも及ぶ長いものとなった。


「フランツ、十一時の方向にいるぞ! 生き残っている対戦車砲はあいつが最後だ! 」

僕はへとへとになりながらも主砲を大尉の言う方向に向けた。すると照準器には友軍の戦車に砲撃を加えている敵の対戦車砲が映る。

「装填完了! 榴弾残り三発です! 」

オッペルがそう叫ぶ。今日も五十発ほどの榴弾を積んでいたがそれをほとんど使い切ってしまったのだ。アマクヤードに来てからこの四日間で僕は二十九門の敵対戦車砲を撃破している。こいつはちょうど三十門目の獲物だった。僕はいつも通り慎重に狙いを定めて叫んだ。

「照準よし! 」

「撃てっ! 」

大尉の号令が発せられた瞬間に僕は引金を引いた。すると爆発が起こって敵の対戦車砲は砲撃を止めた。どうやら直撃だったようだ。

「さすがだ、フランツ。最後は一発で締めたな。」

大尉の方を振り返ると大尉が笑顔で僕に握り拳を突き出し親指を立てて見せた。僕もそれに応えて拳を突き出し親指を立てる。ようやく周辺の敵の対戦車砲やトーチカといった脅威がほぼ取り払われたのだ。周囲は爆発音もしなくなりたまに散発的なマシンガンの音がするぐらいで次第に静かになっていった。対戦車砲が据えられていた敵の塹壕やトーチカに友軍の歩兵がなだれ込んでいくのを見ながらハンスが言った。

「歩兵隊が敵の陣地に突入しました。この陣地も遂に陥落ですね。」

塹壕が掘られそこに対戦車砲が集中して配備されている堅固な敵の防御陣地を我々はこの四日間でいくつも占領してきた。その作業は苦労の連続だったがその分やり遂げた時の達成感は格別で今までは皆で喜びを分かち合ってきた。だがそれが四日間続くとさすがに疲れてくる。僕は喜ぶ気力もなく溜息をつきながらこう言った。

「ようやくだな。俺は疲れたよ。」

僕はそう呟くように言うと砲手席の背もたれに寄り掛かり天を仰いだ。

「今回も大活躍だったな。フランツ。」

大尉が僕の背後の戦車長席から僕の肩を揉みながらそう言ってくれた。この四日間僕はずっと敵の対戦車砲と睨めっこをしてきたのだ。僕は心底疲れ果てていたが大尉の温かい一言は空になった僕の心にエネルギーを注入してくれるようだった。僕は大尉の方に向き直ると言った。

「ありがとうございます。ですが明日からもまだまだ対戦車砲狩りは続くでしょう。しっかりやりますよ。皆で生き残って終戦を迎える為に。」

「そうっスよ! 俺は帰国したら真っ先に少尉に女の子を紹介してもらうっス。」

ペットゲンがちょっとおどけて言った。僕は笑顔で返した。

「終戦後の俺の最初の仕事はお前の童貞脱出の手助けだな。」

それを聞いて皆笑った。車内の雰囲気はすっかり緊張が解けてリラックスムードになっていた。だがその時オッペルが戦車の前方を見据えながら急に何かに気が付いたようで声を上げた。

「大尉! 前方の敵陣地を占領した友軍の歩兵が手招きしてます! こっちへ来いと言っているようです! 」

それを聞いて全員が戦車の前方を見た。すると確かに歩兵達がこちらを笑顔で見ながら手を振っている。それを見て大尉が言った。

「なんだろうな? 行ってみよう。ハンス、前進だ。」

「了解。」

四型戦車はエンジンを震わせて敵の陣地内に飛び散った対戦車砲の鉄片を踏み潰しながら前に進み出した。金属の擦れ合う甲高い音が響く。日は傾き周囲は赤く染まりつつあった。


「バウアー大尉! こちらです! 来てください! 」

敵陣地を占領した歩兵が我々の戦車に向かって叫ぶ。広い平原の至る所に塹壕が掘られその中では我々を苦しめた対戦車砲が燃えル・カメリカ兵の死体がごろごろしている。その塹壕は迷路のように張り巡らされ数百m続いていたがその塹壕の向こうには小高い丘があった。その丘は高さは五mほどだが我々の行く手を遮るように幅が百mほどある壁のような地形になっていた。友軍の歩兵はその丘の麓で我々を呼んでいるのである。その声の主は以前窮地を助けてもらったことのあるアショフ少尉だった。

「ちょっと行ってくる。お前らはここで待っていろ。」

大尉はそう言うと戦車から降りて丘を徒歩で登っていった。僕は大尉の背中を見ながら独り言を呟いた。

「何があるんだろ? 」

「ル・カメリカの女が丘の向こうで着替えでもしてるんスかね? 」

僕の呟きを聞きつけてペットゲンが冗談を言った。するとバウアー大尉が大声で僕らに丘の上から叫んできた。

「お〜い! フランツ! 皆を連れてこっちへ来い! 早く! 」

さっきまでどちらかというと訝しげだった大尉が嬉しそうに僕らを呼んでいる。僕は皆に戦車を降りるように言ってから大尉の後を追いかけて丘を登った。

「見てみろ! 」

丘を登ってその上から景色を見ると百mほど先にアマクヤードの街並みが広がっていた。大小様々な家が建ち並んでいる。我々が迫ってきているということで灯火管制が命じられているのだろう。街からは明かりは発せられておらず周囲は夜ということもあって暗くてよく見えなかったがそれでもかなり大きな都市だということは分かる。遂に我々はここまで来たのだ。

「すんげーっス! これがアマクヤードなんスね! 」

横でペットゲンが感嘆の声を上げる。

「俺はアマクヤードに辿り着いたことよりももうこれ以上あのうんざりするような対戦車砲陣地に対峙しなくていいことの方が嬉しいよ。」

敵の対戦車砲陣地はもうなさそうだったので僕は思わず本音を言った。皆が苦笑いをしていると大尉が僕らを労うように言った。

「皆この四日間本当によく頑張ったな。皆の努力のおかげで我が第七装甲師団はようやくアマクヤードに辿り着いたのだ。ご苦労だった。これからすぐにでも街に乗り込みたいぐらいだが俺達の戦車はガス欠寸前で弾もない。今は補給を要請しここで待機だ。全員一旦戦車に戻るぞ。」

僕らは丘を下りて戦車のところへ戻った。そして大尉がオッペルに命じる。

「オッペル、本部へ連絡だ。『第七装甲師団は敵の対戦車陣地を突破しアマクヤード手前百mのところまで到達するも燃料、弾薬が不足。補給部隊を早急に寄こされたし』とな。」

「了解です。」

オッペルはそう言ってから無線機を操作し暗号電文を本部に打った。オッペルが無線機の操作を終わると戦車の中が急に静かになった。皆アマクヤードに辿り着いたということで取り敢えずほっとしたのか誰も口を開く者はいなかった。すると大尉が言った。

「周囲の警戒は歩兵隊がしてくれている。皆休憩していいぞ。」

その一言を聞いて僕は緊張の糸がぷつりと切れてしまい急激に眠くなってきた。だが眠かったのは僕だけではなかったらしく横を見るとペットゲンはもうぐうぐうと寝息を立てていた。皆も疲れているのだなと思いつつ僕も目を閉じた。するとおそらく二秒とかからなかったであろう。僕も深い眠りに落ちたようだった。

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