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作戦初日

「うわあ〜っ! 凄い弾幕だ! 」

友軍の野砲の砲撃が約三十分程続いた後、バウアー大尉率いる第七装甲師団戦車大隊は敵の防御陣地に向かって進撃を開始した。だが野砲の砲撃を免れた敵の対戦車砲が我々に向かって一斉に火を噴く。我々の乗る四型戦車の周囲はたちまち敵の放つ砲弾の爆発で包まれた。爆発音と振動はかなり激しくいつ直撃を喰らってもおかしくないように感じられる。僕は心の中で恐怖と必死に戦っていた。オッペルが泣き叫ぶのも無理はない。だがバウアー大尉は怯まなかった。

「ハンス、逃げるなよ。このまま前進だ。二十m先に窪地がある。そこへ入れろ。」

幸運なことに敵の激しい砲撃が我々を捉えることはなかった。ハンスが大尉の指示した窪地に戦車の車体を入れる。これで我々の四型戦車は主砲だけを窪地から出して戦うことが出来るようになった。これは大尉がいつも言っていることーー敵に晒す車体の面積を極力減らすーーの一つだった。

「対戦車砲の砲撃がこれだけ激しいと闇雲に進んでも損害が増えるだけだ。まず数を減らすぞ。フランツ、右から順番に片付けろ。発火点に照準だ。ペットゲン、榴弾装填。」

僕は主砲を旋回させて友軍の戦車にひっきりなしに砲撃を続けている敵の76.2mm対戦車砲の一つに照準を合わせた。いつものI-34ではなく地表スレスレにその砲身を投げ出している対戦車砲なのでシルエットが低く照準しづらい。僕は慎重に狙いを定めてから一発目の砲弾を放った。

「外れた! 次だ! フランツ! 」

初弾は敵対戦車砲の手前五m程のところに着弾して土埃を巻き上げた。ペットゲンが次弾を装填する間に僕は照準を微調整する。こうしている間にも敵の反撃で友軍の戦車には被害が出ているのだ。僕はすこし焦りを感じながらも慎重に二発目を放った。

「やったぞ! その調子だ! 次はその十m左にいる奴だ! 」

敵の対戦車砲は榴弾が直撃し爆発して煙に包まれたままその長い砲身を地面に横たえて沈黙した。僕も心の中で思わず「よしっ! 」と声を上げていた。そして僕はそのまま次の獲物を狙う。

「榴弾装填完了! 」

ペットゲンがそう叫ぶ頃には僕は次の対戦車砲にもう既に照準を定めていた。照準器の中に対戦車砲を操る敵兵士の姿がチラッと映る。若い兵士だ。おそらくまだ十代だろう。前途有望な若者なのかもしれないが申し訳ない、死んでくれ。我々の勝利と戦争終結の為に。僕は躊躇うことなく引金を引いた。

「命中! 直撃です! 敵の砲はバラバラになりましたよ! 」

オッペルがそう叫ぶ。対戦車砲があった場所は炎と煙に包まれていた。おそらくさっき姿の見えた敵の若い兵士も肉片となり粉々に吹っ飛んだのであろう。残酷だがせめてもの救いはおそらく即死だったことか。苦しまずに死ねたのだ。

「フランツ! 次だ! 一時の方向! 」

大尉がまた叫ぶ。だが大尉の指示した方向に主砲を向けると僕が撃つ前に敵の陣地で大きな爆発が起こった。

「何だ!? 」

僕がそう言うと友軍の急降下爆撃機が頭上から姿を現した。どうやら空軍が援護に来てくれたらしい。

「いいぞ! もっとやれ! 」

大尉が嬉しそうに叫ぶ。これで敵の戦力は更に弱体化する筈だ。なんせ我々は目の前の対戦車砲を破壊し尽くさないことには前進出来ない。急降下爆撃機は次々に爆弾を投下して敵の対戦車砲を陣地ごと次々に破壊していった。それはまさに第七装甲師団の前進を後押しする思いがけない天佑のようだった。

「まだ生き残っている敵はいますかね? 」

暫くして友軍機が引き上げた後爆撃で地面が凸凹になった敵の陣地を見ながら僕は大尉にそう尋ねた。敵の陣地は我々の砲爆撃で徹底的に痛めつけられ炎と煙に包まれている。反撃してくる雰囲気はなさそうだったが大尉が急に叫んだ。

「十時の方向にまだ生きてる奴がいるぞ! フランツ、主砲回せ! 急げ! 」

僕が慌てて主砲を向けようとする間にその敵の対戦車砲が火を噴いたらしく友軍の三型戦車が一台撃破されてしまった。大きな爆発音が聞こえる。くそっ! しぶとい奴らめ! 僕は心の中でそう呟きながら照準を定め引金を引いた。

「ようし! 敵は取ったぞ! 」

敵の対戦車砲は爆発に包まれた。敵兵士の悲鳴が聞こえる。だが敵の陣地はなおも沈黙せずしつこく反撃を繰り返してきた。生き残っていた別の対戦車砲が粘り強く抵抗を続け我々はこの敵陣地を完全に占領するのに結局三時間かかった。敵も我々をアマクヤードに入れまいと必死なのだ。敵はいつも以上に手強く感じられた。


「また対戦車砲陣地だ。野砲に敵の位置を連絡! 援護射撃を要請しろ! 」

バウアー大尉がオッペルに叫ぶ。最初の敵陣地を突破して前進を続けるとまた我々の眼前に敵の対戦車砲陣地が現れたのだ。さすがに敵の防御は固い。簡単には進ませてくれそうにはなかった。

「要請しました! すぐに砲撃を開始してくれるとのことです! 」

オッペルがそう大尉に返事をすると大尉はハンスに言った。

「よし、友軍の砲撃が始まったら前進を開始して先ほどのような地形を探すぞ。野砲だけで敵が沈黙するとは思えん。」

大尉の言葉は当たっていた。敵は野砲の砲撃にも耐えられるような陣地を構築しているのだ。案の定野砲の砲撃が終わった後も敵陣地からは我々戦車隊が近寄ろうとすると激しい抵抗があった。砲撃から生き延びた敵の対戦車砲をまた一つ一つ潰していかなければならない。

「フランツ! 一時の方向に敵対戦車砲だ! 急げ! 」

時間の掛かる作業だが根気よく続けなければならない。僕はまた照準を定めて榴弾を放った。

「命中! 直撃だ! いいぞ! フランツ! 」

大尉が僕を鼓舞するかのように叫ぶ。僕の照準器からも敵の対戦車砲が爆発を起こし敵兵士が吹っ飛ばされるのが見えた。もう僕は何人殺したのだろう? だがそのことは悩んでも仕方がない。殺らなければ殺られるのだから。僕はふとそんなことを考えたが両腕は次の獲物を求めて主砲を旋回させている。その両腕の動く様子はまるで感情を持たない殺人マシーンのそれのようだった。

「ようし、次は十一時の方向にいる対戦車砲だ。一発で仕留めろよ、フランツ。」

大尉が僕に命令をする。その命令は悪魔の囁きのようだ。大尉の一言で僕は次々と人の命を奪うのだから。そう思うとまるで僕と大尉は二人の死神のようだった。だがこれも自分達が生き残る為、そして祖国の勝利の為に必要なことなのだ。躊躇はしていられなかった。

「よし! 直撃だ! ル・カメリカめ、早く降伏しやがれ! 」

僕の放った砲弾は的確に敵を捉えていたようだ。それを見たオッペルが嬉しそうに叫ぶ。だが敵の反撃は相変わらず激しい。第七装甲師団戦車大隊はなかなか前に進めなかった。

「こちら213号車! 被弾した! 行動不能! 」

「こちら224号車! 同じく被弾! 」

友軍からの損害を知らせる無線報告が次々に入ってくる。大尉は焦りを隠すかのように努めて冷静を装い僕に言った。

「俺達は今出来ることに全力を注ぐだけだ。フランツ、十時の方向に新手の対戦車砲だ。片付けろ。」

「了解。」

僕はそれだけ答えると慎重に狙いを定めた。すると僕が狙っている敵の対戦車砲の指揮官が慌てて僕らの四型戦車を見ながら何かを叫んでいるのが照準器越しに見えた。おそらくこの四型戦車が次々と敵の対戦車砲を鉄屑に変えていることに気が付いたのだろう。その戦車に狙われているのだ。慌てふためくのも無理はなかった。

「今更じたばたしても遅い、『さよなら』だ。」

僕はそう呟くと引金を引いた。照準器の中が一瞬硝煙で何も見えなくなるが暫くすると視界が戻った。だが照準器の中に映っていた敵の対戦車砲は跡形も無くなっていた。榴弾が直撃し近くに置いていた弾薬にでも引火したのだろう。大爆発を起こしたようで僕が見たのはその爆発後の光景だったのだ。

「お見事だ。フランツ。」

大尉が僕を褒めた。その後敵の反撃は下火になったが地雷や対戦車バリケードの除去に手間取り結局今日二つ目の敵陣地もその後一つ目の陣地と同じように三時間ほどかけてようやく占領された。


「ふぅ、今のところこれ以上の敵の反撃はなさそうですね。」

オッペルが前部機銃を構え額の汗を拭いながら言った。僕らは占領した敵陣地にとどまり補給が来るまで敵を警戒しながら待機をしていたのだ。朝からの激しい戦闘で燃料、弾薬ともにかなり消費していた為だ。

「そうだな。だが敵の抵抗は予想以上に激しい。これからもこの調子だと……まずいな。」

僕も照準器を睨んでいつでも撃てる状態のままオッペルにすこし弱気になってそう答えた。敵は我々の侵攻に備えて強力は陣地を構築し待ち構えていたのだ。今日一日で何km進めたのだろう? おそらく一kmも進めていない筈だ。それに損害も大きくかなりの数の戦車が被弾している。敵のこれだけの抵抗を考えるともっと大きな戦力がアマクヤード攻略には必要だったのかもしれない。考えれば考えるほど僕は自分達にとってマイナスなことしか頭に浮かんでこなかった。

「大丈夫だ。フランツ。主力の第六軍から連絡があったらしく苦戦しながらも敵陣地を突破しつつあるらしい。我々は第六軍のおとりだ。主力部隊がアマクヤードに侵攻出来ればこの作戦は上手くいくのだ。」

大尉が僕を励ますようにそう言った。大尉はその後も何か言葉を続けようとしたがそれをハンスが遮った。

「補給部隊が到着しました! 」

「大尉! 司令部より暗号文がきました。攻撃再開は翌朝六時でそれまでに補給を済ませ現在地で待機せよ、とのことです。」

ハンスにオッペルが続いた。どうやら今日の戦闘はこれまでのようだ。

「明日も生き残れますように。」

オッペルが小さくそう呟いた。確かにそうだ。この戦いが終われば祖国に帰れるかもしれないのだ。

「こんなところでは……死ねないな。 」

故郷のことを思い出すと僕は咄嗟に心の中でそう呟いていた。いや、僕だけでなくおそらくその場でオッペルの呟きを聞いていた人間全員が同じことを心の中で呟いていたに違いなかった。

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